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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十四話 聖女と皇女
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聖女の子ども


 セナはいっさいの傷を残さず、完治してしまったようだった。

 そんなことよりも食欲だと言わんばかりに携帯用のパンを頬張り、ごくごく水を飲む。

 そんなセナを診ながら、クリンはただただ驚くしかない。



「銃創の傷も、まったく残ってない。体は? 痛いところはないのか?」

「しつこいな、どこも痛くねえって」



 クリンがなおも触診しようとするので、セナは面倒そうにあしらって荷物から服を取り出す。ついでに二つ目のパンも手に取った。

 そのいつもどおりの彼の姿に、マリアとミサキはほっと胸を撫で下ろしていた。



「たった数時間で完治するなんて。いったい、どうなってるんだ?」

「しらん」

「しらんって……。セナ、怪我をしたことは覚えてるのか?」

「あー。……ああ、覚えてるな」



 と、セナは苦い顔を浮かべる。記憶にも問題はないようだ。

 では、と。クリンは先ほどの光のことをセナに説明し、お前がやったのかと聞いてみた。

 セナは服を着ながらそれを聞き、目を点にさせた。



「光ぃ? なにそれ、知らねーよ」

「目も赤くて、お前が暴れてるときと同じ色だった」

「へー」

「……」



 本当に心当たりがないのか、セナは缶からパンを取り出し、もぐもぐ頬張り始めた。

 セナ以外の三人が、怪訝そうに顔を見合わせる。


 クリンの脳内に、ひとつの予想が浮かび上がった。



「もしかして、セナのお母さんって聖女なんじゃないか?」

「え?」

「さっきの白い光、聖女の光とよく似てただろ。あの光は治癒術なんだと思う。セナが聖女の子どもなら、その力を引き継いでいてもおかしくないじゃないか」



 ミサキとマリアは知らないが、セナの父は聖女の騎士である可能性が高い。それならば母親が聖女という線もじゅうぶん有りうる。

 そしてセナの不思議な力の根源すべてにも説明がつくのだ。

 クリンは核心に近づいた気がした。


 が、その仮定をいともあっさり否定したのはマリアだった。



「それはないよ」

「え? なんで?」

「聖女は子どもを産めないもん」

「「は?」」



 クリンとセナがぴたりと固まった横で、ミサキは知っていたのか気まずそうに目を伏せている。



「産めないって……」

「この不思議な力のせいなのかはしらないけど、聖女が赤ちゃんを産んだ例はひとつもないんだって。あたしも生理っていうの、こないし。そもそも聖女はその地を守るために存在してるんだから、家庭をもつことはあまり歓迎されないのよね。ごく稀に結婚した人もいるらしいけど、赤ちゃんは産まれなかったみたい」

「……」



 全員がマリアから目をそらしてしまった。

 聖女が子どもを産めないというならば、セナが聖女の子どもという予想は外れたわけだ。

 いや、そんなことはどうでもよい。


 それが当然だと言わんばかりにあっさり言ってのけたマリアに、一同はどう言葉を返すべきかがわからなかった。

 マリアは三人の微妙な空気には気づいていないようだ。



「先生がおっしゃってたわ。聖女の力は一歩間違えれば危険な力。無駄に繁殖させないように自然界がコントロールしてるんじゃないかって。だからセナは聖女の子ども……ふむっ?」



 途中で言葉が変な声に変わったのは、セナの片手によって両頬がぷにゅっと潰されたからだ。



「はにふんのよ」

「馬鹿か。どーしてくれんだよこの空気」

「はー?」

「まあお前はそれ以前の問題だもんな? 繁殖うんぬん、なーんも心配いらねえわな」

「にゃに?」

「もーいいから食ってろお前は」

「ふがっ?」



 言うが早いか、セナは持っていたパンをマリアの口に突っ込んで黙らせた。

 なんなのよ、と言いつつ思いの外パンが美味しかったのか、マリアはそれ以上語らずパンを咀嚼(そしゃく)している。



「すみません、私の指導力不足でした。年ごろの男の子にこんな話をする機会があるとは思わず」

「あー、な。聖女の勉強より大事な教育があったよな」

「セナさんに教育を問われる日がくるとは……誠に遺憾です」

「ごっほん! 情報を整理します」



 事態が収集つかなくなりそうだったので、クリンが咳払いをして本題に戻した。



「セナのお母さんが聖女じゃないっていうのは、わかった。ちなみに念のために聞くけど、聖女って、女性だけなんだよね?」

「ええ、そうです」

「そうか。じゃあセナ本人が……という線も消えたわけだね」

「もしかして、さきほどの飲み薬のおかげでしょうか」

「あー……うーん」



 ミサキの言葉に、クリンはイエスともノーとも言えなかった。

 だとしたら、自分の母親は一体何者なのだろう。



「とりあえずセナの不思議な力に関しては今に始まったことじゃないし、ここで議論するのはやめよう。体調に関しては一応経過をみるとして。ジャックさんがいない今のうちに今後の方針を固めないか」

「それもそうですね」



 ミサキがうなずいて、四人は生物兵器が現れてから離れていた間のことや、セナが気を失っていた時のジャックとのやり取り等を情報共有した。



「セナとマリアは、戦ってみてどうだった? 生物兵器のこと」

「うーん。破壊力はすごかったわ。でも、これはあたしのカンだけど、セナがシグルスの生物兵器かもしれないっていう話はハズレだと思う」

「そうだね、僕もそう思う」



 マリアの予想に、クリンも同意した。


 ジャックの『ついに完成させてしまったか』という口ぶりからすれば、あの生物兵器はやっとできあがったところ、しかも暴走してしまったことから失敗だったと言える。


 一方のセナは十五年も前に産まれている。万が一にもセナが生物兵器だったとして、ここまで人間そのものだというのに、今さらあんな出来の悪い生物兵器を作るはずがない。



「あ、でも」



 全員一致でセナの生物兵器への疑惑が外れたところで、セナはふと思い出した。



「なんか、やたら俺ばっかり狙ってきたよな、あいつ」

「だからそれは、あんたがハエみたいにぶんぶんうるさかったからでしょ」

「……」



 このやろう、とマリアに脳天チョップをするセナを見ながら、クリンはホッと安堵していた。

 弟がミサキの言っていた生物兵器と関連がないとわかっただけでも、十分な収穫である。


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