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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十三話 巨人との戦い
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マリアの新しい力


 混乱に乗じてうまくまけたようだ。

 ジャックの姿が見えなくなったのを確認し、クリンは狭い路地に入り込み、建物の隙間にある物陰に隠れこんだ。


 走っている最中、ミサキは何度か力が抜けて足が止まった。

 セナたちのことは気になるが、彼女をいったんここで落ち着かせたほうがいいだろう。


 遠くで喧騒に混じって、時折、ドォンと激しい地響きが鳴る。


 ミサキは息を整えながら、力なくその場に座り込んだ。

 その瞳には大量の涙が。



「……クリンさん」

「うん?」



 呼び声があまりに小さくて、クリンも膝をついて目線を合わせ正面から覗き込んだ。

 さらりと金の髪をたらし、頭が揺れたと思ったらそれはクリンの胸に着地した。



「……っ。う……」



 髪に隠れて涙は見えなかったけれど、彼女が泣いているのはわかった。

 クリンは一度彼女の背中まで手を伸ばしたが触れるのを躊躇って、けっきょく宙をつかんだまま地面に逆戻りさせてしまった。



「記憶、戻ったのか?」



 ミサキは首を振って否定する。


 まだ、か。

 そう理解するなり安堵が先に浮かび上がって、罪悪感とともに彼女への心配が遅れてやってくる。



「ここなら見つからないと思うから、ミサキはここにいて。僕はセナたちを追うよ」

「いえ! 私も行きます……」

「でも」

「お願いします。私だって、マリアとセナさんが心配なんです……。でも、もう少しだけ……」

「……」



 クリンは押し黙る。


 たしかに、この状態の彼女を置いていくのは気の毒だ。

 ジャックのことも気がかりだし一緒にいてあげたほうがいい。

 そうはわかっているのに、今、彼女とこうして向かい合っていることが不安でたまらなくなって、距離を置こうとしてしまう自分がいる。


『彼女はジパール帝国を統べるヴァイナー皇帝の第一皇女、ミランシャ・アルマ・ヴァイナーだ』


 ジャックの言葉がずっと頭の中から消えてくれない。

 あらかた予想して身構えていたはずなのに、突きつけられた彼女の真実にただただ落胆するしかない。


 ……ああ、遠いな。


 そう思った時、クリンはやっと自分のこの気持ちに名前をつけることができた。



「じゃあ、二分だけだ。二分経ったら僕は行くよ。それまでに泣き止めたら一緒に行こう」

「……はい」



 二分経ったら、この気持ちを黙殺する。

 そう心に決めた時、素直にうなずいた彼女の背にやっと手を添えることができた。





 

「セナ、待って、ちょっと止まって」



 ジャックに案内された建て物を去ってすぐのことだった。

 ぴょんぴょん屋根づたいに移動しているセナに、抱えられた状態のマリアが声をかけた。

 その声に従って建物の屋上で止まれば、マリアはセナから飛び降り、セナの手を取った。



「あんた血だらけ」



 セナの両手はジャックとの交戦のせいで血がポタポタと滴り落ちていた。



「あー、そういや痛かった」

「あんた、痛覚は人並みなんじゃなかったっけ。ほんとバカね」



 マリアはあきれながら、自身のリュックから応急セットを取り出して手当てを始めた。

 それを素直に受け入れながら、セナはマリアの洋服に自身の血がついてしまったことに気がついた。

 怒られるだろうな、と、バレた時のことを考えてげんなりしてしまう。



「あんたが怪我すると、クリンまで痛そうな顔するんだから。あんまりお兄ちゃんに心配かけちゃダメだよ」

「へいへい」

「騎士になれなんて言った手前、怪我するなとは言えないけど、自分のことも大事にしてよ」

「へいへい」

「よし、できた」



 セナの両手は白い包帯でぐるぐる巻きにされていた。クリンほどの手際の良さではないが、これならあの生物兵器とやり合っても多少の痛みには耐えられそうだ。



「さて、それからもうひとつ」

「まだあんのかよ、早くしろよ」

「うるさいわね! お望みどおり早く行くわよ」



 マリアは向かい合ったままセナの片手をギュッと握った。



「は?」

「猿みたいにピョンピョン飛び跳ねるなんて非効率でしょ」



 言うが早いか、マリアの体から白い光が(ほとばし)る。

 それは手と手を伝ってセナにまで伝染し、二人はまばゆい光を放つと、その場から消え失せた。


 気がつけば景色は一瞬で変わって、建物の屋上にいたはずの二人は見覚えのある産業地帯に居た。

 それはジャックに襲われたあの場所であった。



「はぁ!? 何やったのお前」

「場所移動の術よ」

「そんなことできたのかよ!?」

「ううん。覚えたて」



 キョロキョロ周囲を見回し最後にマリアの顔で視線を止めた時、その術の持ち主を理解してセナはぎくりと顔を強張らせた。

 マリアはそれに気づかず、同じように周囲を確認している。

 どうやら巨大な塊はゆっくり移動しているらしく、ここは奴が過ぎ去ったあとのようだ。

 地面は深くひび割れ、いたるところから火の手が上がっている。

 噴煙に囲まれて視界が悪く、近くにいるはずなのに生物兵器は見えない。



「司教の術か」

「うん。あたしのこと治癒してくださった時に、司教様のお力も流れ込んできたみたいなの。あたし得意なんだ、人の術を真似するの」

「……」



 思わず彼女の鎖骨に目がいく。

 あんな奴の術なんか二度と使うな、と言ってやりたいが、理由を問われればこちらが困るハメになる。



「でも司教様と違って、あたしは自分の行ったことのある場所しか行けないみたい。まだまだね」

「つか、使えるようになったなら早く言えよ」

「だから覚えたてなんだってば。今初めて試したんだもん」

「はぁっ!? てめえ、俺を実験台に巻き込みやがったな」

「だって、失敗して別の場所に飛ばされても一人じゃ心細いけど、あんたがいるなら安心でしょ」

「……」

「さて。のんびり話してる場合じゃないわね。行きましょ!」



 マリアはさっと顔を引き締めて、騒ぎの主のところへ向かった。

 その背中に、セナは盛大なため息で返すのだった。


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