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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十話 いざない
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アフターケア


「え、買い出しですか?」

「そう。さすがに薬やら包帯やら、他にもいろいろ足りなくなってきてね。一足先にラタンに戻ろうかと思うんだけど、荷物も増えるからミサキに手伝ってもらえたらと思って」

「……ですが」



 テントに戻って、クリンは先ほどの案を提案してみた。

 さすがに「君の精神状態が心配だから」というのは伏せておいた。ミサキのことだから、そんなことを言ってしまえば「大丈夫です」の一点張りになるに決まっているから。


 やはりミサキは渋い顔をしていた。



「マリアがこんな状態なのに……ほうっておけません」



 一同がマリアを見る。

 顔の腫れはひいてきたが、いまだに体温は平熱に戻らない。

 体が痛むのか、眠っていてもうなされて、それに疲れてまた眠る。その繰り返しである。



「もちろん、目が覚めたらでかまわない。マリアは強い子だ、すぐ快復するよ」

「でも、クリンさんが居なくなったらマリアの看病は誰がするんです?」

「セナがいるさ。こいつだって簡単な手当てくらいならできるよ」

「……」

「おい。そこで無言になるな。俺に失礼だろ」



 無言で不信感を訴えてくるミサキに、セナは説得を試みる。



「俺はガキの頃からナマ傷が絶えなかったからな。親やクリンが俺の手当てしてるの、何十回何百回と見てきたんだ。ちょっとくらいの手当てなら朝飯前だぞ」

「セナ、それ全然自慢になってない」

「だから安心して……」

「ではセナさん、マリアのお着替えはできるんですか?」

「「え」」



 男子二人がピシッと固まった向かい側から、ミサキは淡々と続ける。



「お洋服を脱がせて体を拭いてあげたり、下着を取り替えて古い下着は洗ってあげたり、できるんですか?」

「…………」

「できるんですか?」

「できません」



 セナはあっさり白旗をあげてしまった。

 たしかに、そんな細かいところまで気が回らなかった。



「で、でもさ。そういうところは、里の女性に頼んでみるのはどうかな? 里の人たちも、マリアの様子が気がかりって言ってたよ」

「いやです。あんな野蛮な人たちにマリアを触らせるなんて、冗談じゃありません」

「……」

「私、やっぱり心配です。こんなところにマリアを残しておけません。申し訳ないのですが、クリンさんだけ下山してください」



 ミサキの決心は固いようだ。

 クリンはその断固とした意見を受け入れながらも、やはりミサキが気がかりだった。


 野蛮な人。

 こんなところ、か。



「そうだね。僕たちが間違ってた」

「いえ。わかってくれてありがとうございます」



 そう、間違っていた。

 このまま下山したって、傷ついた心をケアしたことにはならないのだ。



「ミサキ、ちょっと散歩しないか?」

「え……?」

「今日はいい天気だよ。畑の野菜を好きに採っていいって言われてるから、マリアのために収穫してあげてよ。僕、マリアの好きなものわかんないし」

「……でも」



 こんな急な話題の方向転換かつ強引な誘い方、魂胆はバレバレだと思われたが。

 真意を探るようなミサキの視線をあえて無視し、彼女の手を取ってみる。



「ね。行こう」

「……」






 テントを出ると、雲ひとつない青空が待っていた。

 太陽の強い日差しを受けて、ミサキは目を細める。

 穏やかな風が吹いている。


 テントから出てきた珍しい人物に、里の者たちが興味津々の視線を投げてくる。

 ミサキがビクッと体を強張らせた時、クリンはその手を強く握り直した。



「大丈夫。僕がいるよ」

「……」



 クリンはゆっくりと歩き始めた。

 里の女性と目が合ったので「畑の野菜、もらいますね」と声をかけると、その女性は笑顔で頷いてくれた。



 畑にはたくさんの野菜が育っていた。

 四季のない地域柄、採れる種類はさほど多くなさそうだが、それでもこの小さな里にはじゅうぶん過ぎる量だ。


 目の前に、早く採ってといわんばかりの、みずみずしそうな野菜。

 故郷の島では見たこともない野菜もあって、目を楽しませてくれる。



「一個、食べてみない? 甘くて美味しかったよ」



 オレンジ色の丸い野菜を手に取り差し出すと、ミサキは目を伏せたまま、それに目をやることもなく、ふるふると首を振った。


 ミサキはこの里に来てから、ほとんど食べていない。

 リュックの中の水と食糧をなんとか口に含んではやり過ごすといった状態で、里の人たちから分けてもらった料理には一切手をつけなかった。


 クリンはその名前の知らない野菜を眺めた。



「この畑も雨でダメになるかと思ったけど……母親の水害対策を手伝ってたおかげで守れたよ。雨が上がったあとも、みんなで水を吸ったりしてさ。大変だった」

「……」



 ミサキは伏せた目をクリンへ向けた。

 

 どうして彼らに親切にするの?

 その質問を飲み込んだ。


 マリアが川に流されてしまいそうだった時、クリンはとっさに交換条件を出したのだ、水害対策を教える代わりにマリアを助けろと。

 クリンのこの親切は、ボランティアでも愛情でもなく、契約を交わした上での行為なのだ。

 それはじゅうぶんに理解している。


 だが、割り切れない。

 契約は果たされたのだから、これ以上関わる必要なんかない。

 むしろ、また相手がどんな恐ろしいことを仕掛けてくるかもしれないのだから、仲良くなんかなれない。


 まさか、彼らを許せとでも言いたいのだろうか。


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