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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第九話 チカラのカタチ
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マリアを救え!


 クリンが川へ一目散に駆けていく一方、ミサキは彼の後を追わなかった。



「セナさん、セナさん!」



 見張りの制止を振り切り、セナを幽閉する牢屋にすがりつく。ガシャン、ガシャンと音を立てるたび、格子に巻かれた有刺鉄線が両手を痛めつける。それでも、ミサキは構うことなく牢を揺らしてセナを呼び続けた。



「セナさん、お願い、助けて!」



 当然、里の男たちに羽交い締めにされたのだが、諦めるつもりはない。格子から引き剥がされないよう力を込めれば、鉄線が食い込んだ手のひらから血が滲み出す。



「起きてください、セナさん! お願い、マリアを助けて! マリアが死んじゃう!」



 激しく叩きつける雨が、この声をかき消してしまう。喉が枯れるほど強く叫んだせいで、唾に血の味を感じた。それでもミサキは叫ぶ。非力な自分が今できることはこれしかないのだから。



「セナさん、お願い! マリアの騎士はあなただけなんです! あの子を救ってあげてください! セナさん、セナさん!!」



 ガンッと鈍い音がしたと同時に、頭が前へと揺れる。後頭部を殴られたのか、足の力が抜けて地面にベチャッと沈んだ。

 それでも、格子を握る手は離さなかった。



「お願い……あの子を守って……」



 ふと、そこに感じる気配。



「!」



 顔を上げれば、格子の向こうでおもむろに立ち上がった、セナの姿。

 両腕を後ろで縛られ、目と口を塞がれて、何も見えないのだろう、頭を軽く振って自由を求めているように見えた。



「セナさん、ここです! ここに来て!」



 ガシャン、ガシャンと、ミサキは激しく格子を揺さぶる。見張りが何か叫んでいたが、無視して声をかけ続けた。

 その声に応じてくれたのか、セナが一歩、二歩と後ろへ下がった。それが助走であると瞬時に理解して、ミサキは格子から飛び退く。と同時にセナは地面を蹴った。

 加速した勢いのまま格子に体当たりすれば、外れた鉄格子はひん曲がった状態で宙を舞う。着地した場所は、見事に牢のこちら側。

 脱獄したセナを捕らえようと槍を構えた見張り二人を気配だけで察知したのか、セナは蹴りだけで仕留めていく。



「セナさん!」



 男たちが床にひれ伏したのを確認するなり、ミサキはセナに駆け寄り、目と口を自由にした。セナは全身、血だらけだ。



「あいつは?」

「川です。ここからまっすぐ東に下ったところに。雨のせいで増水していて、マリアの術でそれを抑えろと」



 簡単に説明しながら、携帯用ナイフで今度は後ろの縄を切っていく。



「そんなこと、あのポンコツ聖女にできんのかよ」

「ポンコツではありませんが、聖女にはできません」



 会話をしながら、ミサキはセナがいつも通りのセナであることを認識して密かに安堵していた。どうやら目の色も金色に戻っているようだ。

 しかしセナの顔色は青白かった。ひどい怪我を負わされて手当ても受けられず、だいぶ血が足りていないように見える。なんとか立っているのがやっと、という印象が拭えない。



「セナさん、お怪我は大丈夫ですか?」

「叩き起こしておいて、よく言う」

「そうでしたね。今、クリンさんも川へ向かってくれています。急ぎましょう」






 クリンが川へ辿り着くと、そこには数人の男たちが川辺のほうを向いて立っていた。彼らの視線の先は、川の中央。

 そこに、流されないよう必死に岩にしがみついているマリアの姿を発見する。



「マリア!」

「クリン!」



 土手をおりようと思った。だが男たちによって行く手を阻まれてしまい、身動きが取れない。

 見下ろした川は幸いにも水位はそこまで高くないようではある。ただ流れが思ったよりも早く、もしもマリアがあの岩を手放せば、一気に流されてしまうだろう。

 彼女の体はロープで繋がれており、それは土手の上、太い樹の幹に巻き付けられていた。腹部まで迫る水流に、なす術もないようだ。



「待ってろ。今、助ける!」



 男たちの制止を振り切って、樹の幹まで駆け寄る。

 樹に足をかけてロープをぐいっと引っ張った。



「く……っ」



 ロープごと彼女を引き揚げようと思った。が、悔しいことにビクともしない。

 血管が切れそうなほど力んで、すべての力を腕に集中させる。セナに噛まれた左腕の傷が開いたのか、包帯が一気に赤く染まり始めた。


 ヒュンッと風が鳴る。

 耳の横を弓矢が通過して、それは目の前、樹の幹に命中した。どうやら男たちが自分を威嚇しているようだ。

 そんな状況でも、長老はただ物静かに川の中の少女を眺めるだけ。マリアの力を信じているのではない、とりあえず実験してみよう。あわよくば功を成せれば良いが、失敗しても取るに足らない命だ。そんな魂胆が透けて見えて、反吐が出る。



「ふざけんなよ……っ。女の子にこんな仕打ちして、お前たちはそれでも大人か、男か! 恥を知れ!」



 もう一発、二発、当てるつもりのない弓矢が飛んでくる。そんなことで怯むつもりはないが、邪魔くさい。


 ああ、腹が立つ。

 この者たちは他に里を守る手段を知らないのだろうか。力でしか解決策を見いだせないなんて、どこまで無知で愚かなのだ。



「不思議な力? そんなものに頼ろうとするな!! 大人なら知恵を振り絞って打開策を捻り出せよ!」



 吐き捨てながら、これでもかと縄を引っ張る。

 その手元を矢が襲った。



「!」



 当たりこそしなかったが、運悪くロープをかすったせいで切れ目が生じてしまったようだ。切れ目より奥を掴み直して、ぐるぐると手首に巻き付ける。



「やめろよ! 彼女を殺したって川の水はおさまらないぞ!」



 巻きついたロープが手首をどんどん締め上げていき、そこから赤い血が滴る。激痛が走って悲鳴を上げたくなったが、それでも絶対に力を緩めたりしたくなかった。


 だが、先に根を上げたのはマリアだった。

 手がすべったのか、岩からはがれた彼女は音もなく水流に飲まれてしまった。



「! マリア──!」



 ロープがピンと弓なりに反り、川の中の彼女を引き止める。だが彼女はもう水の中。



「くそっ」



 助けに入ろうと思った。

 島国育ち、泳ぎは得意だが、この水流ではそんなものなんの役にも立たないだろう。

 だが、そんなこと言ってられるか!


 覚悟を決めて服を脱ごうとした、その横を、ヒュンッと風圧が駆け抜ける。

 激しい水しぶきをあげて川の中に飛び込んだ塊をようやく視認して、クリンは目を見開いた。



「セナ!」

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