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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第九話 チカラのカタチ
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対話を


 足音が二人を囲う。セナが動かなくなったのを確認するなり、里の者に包囲されたようだ。そこに明確な殺意を感じとり、クリンはセナの前で両手を広げた。



「弟はもう攻撃したりしない! 里をめちゃくちゃにした償いはする。だから命だけは……!」



 その輪の中心から杖をついた老人が現れる。セナを睨みつけるその顔が険しくて一抹の不安を覚えたが、彼はボソッと呟いた。



「子ども、目覚ざめた」

「!」

「お前の言葉、本当」

「……よかった。無事だったんですね」



 ホッと安堵の息が漏れる。子どもたちの安否が知れたこともそうだったが、この状況を打開できそうな小さな光明を見出だせたようだ。

 だが、ことはそう簡単には済まないようだ。



「ゲミアの民、感謝する。だが、その男、危険」

「! 待って……待ってください! 僕たちは、この弟のためにこの里にやってきたんです。ここはゲミア民族の里ですよね!? どうか僕らの話を聞いてください!」

「……」

「彼がしたことへの償いはします。僕が必ずします」



 ポタッと赤い血が、腕から流れ落ちる。この腕が震えているのを、老人はじっと眺めているようだった。虚勢を張っていることなどお見通しなのだろう。

 だが、これだけは絶対に引けない。



「お願いします。どうか、対話を」






 処刑は回避されたものの、セナは厳重に拘束されることになった。

 弟の怪我の手当てもさせてもらえず、強引に座らされた話し合いのテーブルで、クリンはまず子どもたちを助けたことへの謝礼と引き換えにセナの自由を訴えた。

 が、それは却下された。セナが里で暴れた損失も大きかったからだ。


 次にマリアたちが里の弱者を避難誘導したことを引き合いに出してみたが、これについても、そもそもがセナが暴れたことが原因だということで、封じ込められてしまう。


 それならばと、クリンはラタン共和国で預かってきた手紙を見せた。

 この里の長老であるあの杖を持った老人は、「ほう」と興味深そうにその紙を開いたが、「里のもの、字、読めない」とあっさり突き返されてしまった。

 驚きだ。この里がそこまで旧時代だったとは。


 手紙を読んで聞かせてみたものの、反応はイマイチ。

 ただ、手紙という文化がないのかその紙を興味深そうに回し読みしている里の重鎮であろう成人男性たちを見るのは、なんとも可笑しいものがあった。


 他にセナを解放してもらう交渉材料は、と考えをめぐらせていると、今度は老人のほうから提案があった。

 セナの力の秘密を知りたい、と。あれだけの怪我を負ったにもかかわらず、あんなに暴れまわることができたことが不思議だったようだ。


 クリンは少し考えて、いっそ、本題に突入してしまったほうがいいのでは、と思い至った。もしもセナがここの出身なのだとしたら、それだけでセナを開放する交渉材料になる。

 クリンは長くなりそうなセナの生い立ち話を、慣れない言語を用いてなんとか伝え始めた。




 

 手応えを感じない話し合いは終わった。

 長老と重鎮たちの中にセナのことを知っている者はおらず、翌日、里でも調査をしてもらえることになった。


 しかし、最後の会話で驚いたことがひとつ。

 もしもセナがこの里出身の子なら、それは里の宝であり貴重な戦力になる。セナがこの里に留まると言うなら、クリンたち三人を山の(ふもと)まで送り届けてやると言うのだ。

 あれだけ攻撃をしかけてきた危険な人間を、里と血縁があるならというだけで手のひらを返したように歓迎されるのは、どうにも釈然としないものがあったが、返事は保留とさせてもらった。

 本来ならその答えはセナにしか出せない。だけど……。



 話し合いの席から解放されてテントを出る。

 対話と言っても周囲は敵だらけ、おまけに見張りの者がずっと槍を構えている状態で、始終生きた心地がしなかった。

 空にはどんよりと覆われた雲間から星が瞬いていた。

 ほう、と息を吐けば白いものが出る。標高が高いせいだろう。


 その足で向かったのは、石畳の大きな四角い建物。

 入り口には鉄線がくくりつけられた格子があって、見張りが二人。格子の向こうに静かに横たわる弟の姿を発見する。

 里の者たちはこちらの訴えを無視し、気を失ったセナを縄できつく縛り上げ、猿轡(さるぐつわ)をかませ、黒い布で視界を覆った。そしてここへ乱暴に放り投げたのだ。



「人の弟を、荷物みたいに扱いやがって……」



 ギリッと奥歯を噛んでもらした言葉は、母国の言語。見張りの奴らには伝わらなかったようだ。

 

 微動だにしないセナに、一抹の不安を覚える。この距離では、呼吸の確認もできない。

 だが声をかけるのは許されていないので、ただひたすら、彼の命を信じるしかなかった。


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