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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第九話 チカラのカタチ
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僕が止める


 吹っ飛んだ柵の破片が派手に飛び散る。

 そこから勢いよく里へ倒れこんできたのは、おそらく里の住民であろう男。怪我をしているのか、全身が血塗れだ。

 里の住民から悲鳴が上がる中、男は憤慨した表情で起き上がると拳をかまえて空を睨んだ。

 男の視線の先を追えば、空高く舞い上がり男の頭上めがけて飛び込んでくる少年を見つけて、クリンは息を止めた。



「──セナ!」



 落下とともに両拳をかざし、男めがけて振りかぶっているのは、自身の弟セナだった。男が避けて、拳は地面を殴る。雨上がりのぬかるみで泥が舞い上がった。



「セナ! セナ!」



 生きてた!

 そう喜ぶのも束の間、セナの様子が違うことにハッと気づいて悪い予感を覚える。こちらにまったく気がついていないのか、セナは低い唸り声をあげながら逃げた男に突進して行った。その瞳は本来の金色を失い、血のように赤く変化していた。

 男は傷だらけで、防戦一方である。


 そこへ里の外から男の仲間であろう弓兵が駆けつけてきた。弓矢はまっすぐにセナの肩を突き刺す。



「セナ!」



 一瞬だけよろけはしたものの、セナはその矢を一気に引き抜いた。そこから鮮血が溢れてもまったく気にするそぶりを見せず、矢を握り直して交戦相手に向かって走って行く。

 身の危険を察知した男は思わず背を向けた。しかしいくら戦闘力に長けたゲミア民族と言えども、セナのスピードに敵う者はいないようだ。あっという間に距離を詰められ、力任せに地面へと叩きのめされてしまう。

 セナは男の背に馬乗りになると、持っていた矢を男の肩に突き立てた。悲鳴をあげる男の肩に、何度も何度も突き刺しては、真っ赤な返り血がセナの顔を濡らしていく。



「セナ……! 何してるんだ、やめろ!」

「待って、クリン」



 セナを止めるため動き出そうとしていたところに、後ろからマリアの声がかかる。ふらつきながら起き上がったマリアの顔は、右半分がひどく腫れ上がっていて右目が見えていないようだ。崖で殴られた時の怪我だろう。



「マリア、君……!」

「縄をほどくわ」



 そう言い、マリアは懐に隠していた短刀を取り出してクリンの縄を切った。

 マリアの手に視線を落とせば、おそらく炎の術で自分の縄を燃やしたのだろう、彼女の両手首が赤く火傷を負っていた。その手でクリンの背中に触れ、矢で射られた傷を治していく。



「僕なんか治してる場合じゃないだろ! マリアが……」

「いいから」



 治療するマリアの手のひらは震えていた。

 当たり前だ、こんな仕打ちを受けて……怖いに決まっているのに。



「あれが……凶暴化したセナさんなんですね」



 ミサキもようやく地面から体を起こせたようだ。しかしマリアの怪我に気がついて、一瞬で顔を真っ青にさせた。



「マリア……あなた顔が!」

「平気だよ。それより、小さな子やお年寄りを避難させたいの。ミサキも手伝って」

「あなたにこんなことをされて、助けろって言うの!?」

「言うよ、聖女だもん」

「マリア!」

「クリンはセナを止めることができる?」



 マリアの問いかけに、クリンは力強く頷いた。



「やるよ。僕にしかできない」

「そっか。じゃあ任せた!」



 マリアはミサキを立ち上がらせると、怯える住民のほうに駆け出して行った。ミサキは渋々といった形だったが、それでもマリアに従うことにしたようだ。


 セナは相変わらず自我を失っているようで、止めに入る男たちをこれでもかとなぎ倒していく。

 この里は戦闘部族のようで、男たちは皆鍛え抜かれた動きでセナを追い詰めていくのに対し、セナはめちゃくちゃに暴れ回っているだけ。それなのに、誰ひとりとしてセナを捕らえることができずにいた。

 全身傷だらけで立っているのも不思議なくらいなのに、なぜあれだけの力が出せるのだろう。

 血にまみれたセナの顔は、笑っていた。だけど、泣いているようにも見えた。



「僕は代わりに崖を飛び越えてやることはできない」



 だけど、と呟いて、クリンはセナめがけて走り出す。



「セナを止めることくらいはできる……!」



 複数の男に羽交い締めにされたセナは左肘で一人の男を倒し、右の拳でもう一人の男を倒している。そこに加勢してきた別の男が背後から殴りかかるが、セナは回し蹴りでそれを撃退した。吹っ飛んだ男に飛び乗ると、馬乗りになって拳を振り上げる。

 そこへクリンが止めに入った。



「やめろ、セナ! セナ!」

「うぅっ!」



 言葉も失ってしまったのかセナは呻き声を上げてその手を振り払った。



「セナ!」



 後ろからセナを羽交い締めにする。力が強く、気を抜けば吹っ飛ばされそうだ。



「痛っ」



 左腕に激しい痛みを感じた。どうやら噛まれたようだ。



「セナ、聞け! 落ち着け!」



 それでも絶対に離さないと誓って、セナの耳元で叫び続ける。

 最悪の事態になる前に止めなくては。



「落ち着け、大丈夫だから! もう敵はいない! 誰も傷つけるな!」

「うぅっ!」

「セナ! 戻ってこい、セナ!」



 噛まれ続けている箇所から血が滴り落ちる。腕がしびれるような痛みを訴えていたが、それでも腕の力を緩めたりはしなかった。


 どれほどの攻防が繰り広げられただろう。時間にすれば数分の出来事、だがありったけの力を振り絞っていたその時間は、とてつもなく長く感じられた。



「ク……リン」

「セナ!」



 唸り声の中に、いつものセナの声。

 戻ってきた!



「大丈夫、ゆっくり息を吸……痛っ」



 深く歯を立てられて、腕が引きちぎられるような激痛を知る。つつ……と、液体が流れるのを感じていた。



「大丈夫だ……。落ち着け、セナ。……セナ」



 荒ぶっていたセナの呼吸が、しだいに拍を長くしていく。それでも彼の背中にまだ闘う意志があることを感じ、呼びかけを続ける。



「楽しいか? セナ。それは本当に楽しいことか? 目をそらさずにちゃんと考えろ。その力は守るためにあるんじゃなかったのか」

「うぅ……っ」

「帰ってこい、セナ」



 どれだけ呼び掛けただろう。

 やがて力がふっと抜けて、セナはその場に崩れ落ちた。



「セナ!」



 地面にべちゃっと転がったセナは、意識が朦朧(もうろう)としているのか、その目を虚ろ気に揺らしていた。



「ク……リン」

「セナ!」

「ごめん……クリン。俺、止められなか……」

「大丈夫、僕が止めたさ」

「……俺……助けようと思ったんだ」

「ん?」

「守れ……なかった」



 そう言って、セナはそのまま意識を失った。


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