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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第八話 ゲミア民族の里へ
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入山


 翌日。一行は世話になった老婆の家をあとにして、山に入った。

 雨上がりの湿気にまみれた山内は、蒸し蒸しとして四人の体力をたやすく奪っていく。クリンはこまめに休憩を取るのを忘れなかった。



「はい、水」

「……ん」



 クリンが水を差し出せば、セナは素直に返事をして受け取る。ちゃんとした仲直りはしていないが、二人の空気感は昨日よりもマシになったように見えた。それぞれの反省期間である、ということを、当の本人たちはわかっていない。



「けっこう登ってきたな。二人は大丈夫?」



 女子二人を気遣えば、二人は汗を拭いながらも、笑顔で頷き返してくれた。



「以前も山登りをしたことがありますから平気です」

「そうそう、あの時は三つ目の教会に行くためだった。寒かったし足場も悪かったしで、ここより酷かったわ」

「そうなんだ。それは心強いな」



 クリンが素直に賛辞をのべると、ミサキとマリアも力強く頷き返してくれた。ただ、女子二人で登るペース配分とは違って、男子の体力に合わせるのは想像以上に大変かもしれない。こまめに気を遣わなければ。



「あと五分したら、また歩き始めよう」

「俺、その間にちょっと向こうまで見てくる」

「えっ。おい、セナ……」



 こちらの制止を聞かず、セナはすっと立ち上がると、お得意の身体能力を駆使してぴょんぴょんと山の上を駆けて行った。おそらく危険な場所がないか調べてくれるつもりなのだろう。



「あいつ、物語じゃ真っ先に死ぬタイプだ」

「ふふっ。じっとしているのは性に合わないんでしょうね」

「いやー、どうだろ。喧嘩してるから気まずいだけじゃないか」



 二人とも気を遣わせてごめんな、とクリンが謝り、ミサキが首を振る。

 その横で、マリアはおずおずと手を挙げた。



「ごめん、たぶん気まずい原因は、あたしだ」



 そのまんま気まずい表情で謝罪するマリアに、ミサキとクリンは首を傾げる。



「二人には言っておかなきゃと思ってたんだけどね」

「なあに?」

「昨日、セナにフラれちゃった」

「「えっ」」

「騎士になってってお願いしたの。あと二つの巡礼先にも、ついてきてもらえたらって思って」

「び、びっくりした……そういう意味か」



 一瞬別の意味に捉えてしまって青天の霹靂を食らったが、クリンは心底ホッとする。マリアはきょとんとしていたが、そういえばこの子は同世代のコよりも少し幼いのだった。



「セナさん、マリアのお願いを断ったんですね」

「うん。『いや、無理』ってバッサリ」

「ひどいな……ごめん、バカ弟が」

「ううん、なんとなく予想してたから。だからね、セナもちょっと気まずいんだと思う。ごめんね二人とも」



 そこまでダメージが大きくなかったのか、マリアの顔色はあっさりしたものだった。



「でも、それは残念ですね。私も、四人でこのまま旅を続けられたら嬉しいと思っていました。ですが、本来ではゲミア民族の里までというお約束でしたものね」

「うん……」



 そうなのだ。

 思えばラブレスの町で旅の同伴を受け入れてから、二人とはずいぶん長く一緒にいる。うっかり、このまま旅が続いていくような錯覚を覚えてしまうが、当初の約束どおりであれば、もうすぐミサキたちとお別れなのである。

 


「寂しくなるな」



 なんだかしんみりしてしまって、それぞれが目を伏せていると、そこへセナが何食わぬ顔で戻ってきた。



「おかえり」

「あっちに川がある。でも、昨日の雨の影響で増水してるみたいだ」

「そうか。それじゃあ、そこは避けて通ったほうがよさそうだな」

「いや……」



 真っ当な回答をしたつもりだったが、セナはその答えに少し迷っているようだった。



「何か、気になることがあるのか?」

「……たぶん、あの川の向こうに何かある」

「何かって?」

「わかんない。でも、風に乗って違う匂いがした」

「違うって、何と?」

「この山の中でずっと嗅いできた匂いと」

「どう違うんだ?」

「それは、わかんない」

「……」



 野生の勘、とでも言うのだろうか。セナの要領を得ない言葉に、誰もが顔を見合わせて困惑する。

 議論の結果、じゅうぶん警戒大勢をとりつつ、とりあえず川の近くまで行ってみることにした。




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