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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第六話 かりそめの
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今回限り


 少しだけ不穏な空気が訪れたが、ミサキが「では」と、それを打ち破った。



「本題に戻りますね。今までは騎士が不在でも中に通してもらえていましたが、今回だけは騎士が必須条件のようです。そこで、私から提案があります」



 背筋をぴっと伸ばすと、ミサキはセナに向かって深々と頭を下げた。



「セナさん。どうか今回限り、マリアの騎士になってください」

「はぁっ!?」



 叫んだのはセナではなく、マリアである。



「冗談でしょ、ミサキ。セナに騎士がつとまるわけないじゃない。よく見て、あの気品をいっさい感じられない顔つきを」

「おまえ、いい性格してるよなホント」

「あんたは黙ってなさいよ永遠に!」

「それ死ねって言ってないか!?」

「ほら、お二人、とっても息がぴったりですし」

「「ぴったりじゃない!!」」



 またしてもガルルルタイムに入ってしまったので、クリンが「まあまあ」とたしなめる。建設的な話がちっともできやしない。

 しかし、セナが騎士とは。兄弟にこんなことを言うのはどうかと思うが、正直言ってこの兄ですら、セナの騎士姿は想像できない。姿格好(かっこう)はともかくとして、騎士としての資質はいかほどのものだろう。

 それよりも、つい先ほど危険な試練の話を聞いたばかりだ。



「ミサキ。もう少し詳しく説明してくれる?」

「はい。とにかく今、必要なのはあの門を通ることです。そこをクリアしなければ何も始まりませんから。ですからセナさんに騎士として御同伴いただければと思うのです」

「騎士になるには何か制限みたいなのが生まれたりするの? 例えば、一度契約すれば巡礼が終わるまで一緒にいなきゃいけないとか」

「いいえ、そんなことはありません。印をつけたりなど体に残るようなものもございませんし」

「服装だけ騎士の格好して、門を通ればいいってことかな?」

「そうです。門さえ通ってしまえば、後はなんとでもなるかと。マリアだけ先に試練の間に入ってドアを閉めてしまうとか」

「ということは、セナが危険な目に巻き込まれることはないってことだよね?」

「……はい、その通りです」



 ミサキは困ったように笑った。

 クリンがあまりにもセナの安全を優先することに、マリアの同行者としては呆れてしまったかもしれない。しかし、クリンにとってウエイトを占めているのは、いつだって弟の存在だ。



「それなら、僕から言うことはないや。セナが決めろよ」

「俺か。俺は……」



 じっと、三人の視線が重なる。セナはそれを一身に受けながら、とくに考えるそぶりを見せずにあっさりと返事を返した。



「いいよ、やっても」

「本当ですか!?」

「ただし、条件がある」



 セナはピッと三本の指を立てた。



「貸し三つだ。ただし、お前が全部返すこと」

「はぁ? あたし!?」

「当たり前だろ、お前の案件だろうが」

「〜〜〜〜っ。わかったわよ!」

「お願いしますが聞こえませ〜ん」

「おっ……おねがい、します」



 わなわなと屈辱に耐えるマリアを見て、セナは満足そうにふんぞり返る。こうして一人の騎士がここに誕生したのだった。ハリボテの騎士だが。




 コスプレや七五三という概念が存在しないこの世界で、セナのそれをどう表現するべきか。

 洋品店で、ああでもないこうでもないとうるさい女性陣に散々試着させられ、ようやく一式購入したのは、普段のセナからは想像もできないほど凛々(りり)しくて洗練された衣装だった。

 セナの青い髪に合わせて、白の布地に青ラインが入ったロングサーコートと、白い刺繍が施された青のジャケットマント。ボタンやベルトなどの小物は、瞳と同じ金色で統一感を出している。腰に帯びた剣は深い青の(さや)におさめられており、(つか)には美しい金の装飾が施された上質なものだった。全身を白・青・金の三色でトータルコーディネートし、バランスの良い仕上がりになった。



「ざっとこんなもんでしょ」

「あとは髪の毛ですね。固めて全部うしろにもっていきましょう」

「俺、あっちがよかった……」

「いやよ、あんなむさくるしい甲冑」



 全身を覆うプレートアーマーを指差したセナをバッサリ否定して、女性陣は今度は髪の毛をいじる。

 頭をぐわんぐわん揺らされ、ワックスでベタベタにされていく髪の毛。洋品店に入った時から抵抗を続けていたセナも、もうすべてを諦めて考えるのを放棄した。

 余談だが、できあがったセナの騎士姿を見てこれでもかと笑い転げたのは、兄のクリンである。




 アレイナの儀式は、(から)くも成功したと噂で聞いた。騎士が一人犠牲になったらしいが、アレイナは無事だったようだ。


 マリアたちは再び教会を訪れる。最初はうんざりな顔を見せた門番だったが、後ろのセナを見てギョッと顔を強張らせた。先ほどは居なかった騎士に、驚きを隠せないようだ。



「マリア・クラークスです。お申しつけ通り、騎士を連れて参りました。中へ通してください」



 門番の老人は、ガタンと音を立てて立ち上がる。守衛室から出てくるなり、その視線を上から下から、セナの全身へ注いだ。

 あまりにも早いリベンジとは言え、驚きすぎではないだろうか。まるで亡き者でも見ているかのようだ。



「もしかして、偽物だってバレたんじゃないか?」

「いえ、そんなはずは……」



 うしろでクリンとミサキが不安げに見守る中、マリアが「あの」と催促すると、男はハッと仕事を思い出して門を開けた。



「お連れできるのは騎士様とお連れ様一名ずつでございます」

「クリン、ごめんね」

「わかってる。頑張って」



 騎士としてセナが、同伴者としてミサキが付き添うため、クリンは一人、門の前で待たされることになった。門の奥へ入っていく彼らを、無事を祈りながら見送る。その横で、門番の表情が青ざめていることに、クリンは気づかなかった。



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