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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第六話 かりそめの
32/327

巡礼の教会(地図掲載)


挿絵(By みてみん)


 リンドワ王国に入って、何日も何日も馬車を乗り継いできた。一行がようやく訪れたのは、聖地巡礼に指定された教会がある都市だった。

 いよいよマリアの本業を目の当たりにできると思うと、クリンは不謹慎ながらもワクワクした。


 その都市は、リンドワ王国のいくつかある主要都市のひとつであり、流通が盛んな様子が見て取れた。三百メートルにも並んだ露店には、見たことのない果物や珍しい食材、骨董品なんかが売られていた。大通りの脇を覗けば、大きな建物やスマートな造りの家々が並ぶ。


 教会は都市の中心部から少し離れたところに位置していた。大きな門の奥に、手入れの行き届いた庭に囲まれるようにして、古びた教会が見える。その佇まいから、厳かな雰囲気が感じ取れた。

 敷地内に入るには、この大きな門を開けてもらわなければならないので、管理者がいる守衛室へ向かった。



「わたくしは、マリア・クラークス。プレミネンス教会よりリヴァーレ族殲滅(せんめつ)の任を受け、聖地巡礼に参りました。どうか門を開けてください」

「ああ……」



 守衛室にいたのは、聖職者の証である白い服を着た老人だった。椅子に腰掛けたまま上から下までマリアを値踏みし「なるほど」と呟くと、しかしその老人は首を横に振った。



「申し訳ありませんが、あなた様は許可できません」

「えっ!?」

「神父様より固く命じられております。どうぞお引き取りください」

「ちょ、ちょっと待ってください。いったいなぜですか!?」



 こんなふうに門前払いをされてしまうのは初めてのようで、マリアもミサキも戸惑いを隠せないようだ。



「当教会の神父様は大変格式を重んじる方であります。伝統的な聖女様はみな騎士を(ともな)い巡礼され、儀式にも御同伴させられます。ですが、あなた様は騎士どころか侍女もお連れでないとか。総本山聖女としての威厳と品格を損なうような方は、聖女として認められません」

「そんな! では、神父様に拝謁(はいえつ)を希望します。どうか、御目通りを」

「許可できかねます」



 マリアがなおも食い下がろうというところで、それを止める声があった。



「無駄よ、マリア・クラークス。そこをおどきなさい」



 甲高い声でそう笑うのは、複数の騎士と侍女を引き連れた水色の髪の女性、アレイナだった。あのアルバ王国でマリアに意地悪をしていた女性である。



「アレイナ……」

「まさか、わたくしより早く到着できるなんて。さすが、ゴキブリのようなしぶとさですこと」



 扇子で口元を押さえながら、アレイナは優雅に向かってくる。ふと、マリアの脇にいるクリンたちに気がついたようだ。



「同行者が増えたようね。……あら、あなた」



 セナの顔を見てようやくカフェでの出来事を思い出したのか、アレイナは顔を真っ赤にさせた。



「よくぞ私の前に顔を出せたものね……!」

「フリフリのパンツ履いてるんだって?」

「っ!」

「貴様!」



 とたんにアレイナの騎士が剣を抜く。

 しかし険悪な事態に陥る前に、マリアが止めた。



「やめなさい、セナ!」



 セナは不服そうにしながらも「へいへい」と従う。同時にアレイナも片手で騎士を制していた。



「あなた、マリアの騎士なのかしら」

「は? 違うけど」

「あら」



 セナの答えに満足したのか、アレイナはクスッと笑って、憐憫(れんびん)たっぷりの目をマリアに向けた。



「なあんだ、やっぱり違うのね。いまだに誰ひとり、あなたの騎士になってくださらないなんて、かわいそうに」

「そんなの、いらないわ。あたしは守ってもらわなきゃ困難も乗り越えられないような弱い聖女じゃない」

「ふん。けれど、あなたはここで門前払いされたのでしょ。先に進めないならそんなプライド、ただの負け惜しみにしかならないのではなくて?」

「……」



 何も言い返せないマリアの悔しげな様子に今度こそ満足したのか、アレイナは「ふふん」と笑って横を通り過ぎていく。

 アレイナが名を名乗るなり、老人は「おまちしておりました」と、先ほどとは違ってやすやすと門を開けた。それからアレイナは騎士と侍女を一人ずつ選ぶと、他の者に待機命令を下し、難なく門の奥へと入っていく。


 その背中を見送りながら、自分たち一行はその場で立ち尽くすしかなかった。




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