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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第四十一話 試練の先に
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崩壊


 マリアが縄梯子を渡り終える直前で、ついに台座は崩れ落ちた。

 縄梯子は橋の役割を放棄して、地面へと急降下する。当然、マリアの体も空中に投げ出されてしまった。



「!」

「くっ……」



 あわやというところでセナが咄嗟に右手を伸ばし、マリアの背中を抱きとめる。ドアに引っかかった縄梯子を頼りに、左手で宙ぶらりんのマリアを抱えている状態だ。



「間一髪……だな」



 ほうっ、と一息ついて、二人はなんとか縄梯子の足場を確保する。床はすべて崩壊してしまったため、四方の土壁が剥き出しになっていた。


 すべての崩壊が終え、残されたのは静まり返った空間と、二人の呼吸だけ。



「終わった……んだよね?」

「たぶん……」



 崩壊とともに飲み込まれて、聖石の姿はどこにもない。だが、マリアは確かな手応えを感じていた。



「あたし、わかったかもしれない」

「……何が?」



 ここに至るまで、マリアにはどうしてもイメージができなかったことがある。

 自分の使命である『リヴァーレ族の殲滅』だ。

 儀式では、ある種の命を奪うのだとリヴァルは言っていた。だが、その漠然とした術のイメージを、脳内でどうしても描けなかったのだ。


 だが、この聖石の浄化でコツを掴めた気がした。あの穢れを浄化するイメージを応用すればいいのだ。

 そしておそらくこれが最終試練のクリア条件に違いない。普段どおりの浄化ならばきっと間に合わず、台座とともに崩落に巻き込まれていただろう。



「今なら儀式を成功させられると思う。行こう、セナ」

「ああ」



 セナはマリアの声に従って、ドアを開けた。薄暗い視界にドアの向こうから輝かしい光が注がれている。

 このドアを最初にくぐったのは、もちろん聖女のほうだった。

 

 




「司教さま」



 負傷者に治癒術を施していた司教のもとに、教会の者が声をかけた。

 外では相変わらずリヴァーレ族との攻防が続いている。だが、その音もずいぶんと小さくなっていた。ここへ運び込まれてくる負傷者も数が減ったようだ。


 同じく応急処置を手伝っていたクリンは、その女性が司教に耳打ちしているのを横目で見て、ミサキと顔を見合わせた。


 マリアとセナが試練に向かってからかなりの時間が経過している。この報告に、彼らは関係しているのだろうか。



「クリン・ランジェストン。間もなく最後の儀式が執り行われます」

「……!」



 こちらの疑問に答えるようにして発した司教の宣告に、クリンとミサキは息を飲む。マリアが無事に試練を突破したのだろう。



「よかった……よかったわ、マリア」



 ミサキが安堵のため息をついていた。

 しかし、マリアが無事なのはわかったが、そこに騎士の生死は関係ない。



「司教さん、セナは!?」



 クリンは応急処置の手を止めず、司教へ問いかけた。



「報告はありません。気になるのならば、儀式に参列しますか?」

「いいんですか!?」



 基本的に一般人の参列は認められていない。だからここですべてが終わるのを待つしかないと思っていた。



「かまいませんよ。こちらとしても、一箇所に集まっていてくれたほうが後処理がラクですから」

「ありがとうございます!」

「待ってください、クリンさん。ディクスを……!」

「!」



 ミサキの声に、クリンはハッと入り口のドアを見る。外ではディクスとジャックがリヴァーレ族と応戦してくれているのだ。

 戦闘中に一人きりで最期の時を迎えるなんて、ディクスがあんまりだ。



「あの、司教さん! ディクスとジャックさんを迎えに行ってからでもいいでしょうか」

「仕方ありませんね……。ではあの二人は私が迎えに行きましょう。あなたがたは先に儀式の間に向かってください」

「え、でも」



 司教がそう言ってドアへ向かったので、クリンは戸惑う。



「外の戦況が気掛かりでしたので、ついでです。それに、私が儀式の間へ入ればすぐに儀式が執り行われます。順番的に私が最後に入室したほうが都合がいいでしょう。移動術も使えますから、そんなに待たせはしませんし。……青き騎士が、気になるのでしょう?」

「ありがとうございます!」



 本音で語り合ってから、司教はずいぶんと当たりが柔らかくなった気がする。きっとこれは彼女なりの恩返しなのだろう。


 司教が教会の外へ消えて行ったのを見送って、クリンは目の前の応急処置をしっかりと終わらせた。間も無く儀式が終わってしまう。そうすれば治癒術を使える聖女がいなくなってしまうのだ。傷の深い者だけはしっかりと手当てしておきたかった。

 


「もう……すぐ」



 小さな声は、外の喧騒のせいで誰の耳にも届かない。

 治療に集中していたクリンは気が付かなかった。シェルターに囚われているリヴァルが目を覚ましていたことに。



「儀式が……」



 リヴァルは誰にも気づかれないよう、わずかな身じろぎだけで右腕を伸ばした。聖女として天才と呼ばれた彼女である、シェルターの仕組みを理解したのは早かった。

 指先がシェルターの外へ出る。刹那、リヴァルは光の膜を打ち壊した。



「このまま殺されるなんて嫌!」

「!」



 クリンがリヴァルの声に反応した時にはもう遅かった。

 彼女が放った突き刺すような光がエントランス全体を包み込み、視界を奪う。その直後、冷たい何かが首に巻きついた。



「うぐ……っ!」



 強く絞るように巻きついたそれは容易く自分の呼吸を封じる。声を出すこともままならず、両手でそれを引き剥がそうとしてみてもビクともしない。



「クリンさん!」

「おさがりください、皇女殿下!」



 ミサキの悲鳴とアパルの声に薄目を開ければ、瞼の向こうに光の鎖が見えた。鎖の主であるリヴァルは目尻を吊り上げてこちらを睨んでいる。

 唐突に襲い掛かる死の予感に、クリンの心臓は早鐘を打つ。



「おやめください、リヴァリエ様!」

「来ないで! 近づいたら殺すわ!」



 駆け寄ろうとするアパルに、リヴァルは光の鎖を引いて警告を飛ばす。その弾みで鎖はさらに喉を圧迫し、クリンは痛みで顔をしかめた。

 リヴァルの記憶にアパルの存在は失われて久しい。そもそも、ここに帝国軍がいることにリヴァルは気づいていなかった。


 かろうじて理解しているのは、ここは自分とレインが訪れた最後の教会だということ。そして赤髪の聖女が居ないこと。

 きっと、もうすぐ儀式が執り行われるのだろう。そうすれば、自分の命はない。



「おとなしく死んでやるもんですか! 利用されて、裏切られて、そのまま殺されるなんて冗談じゃないわ!」



 リヴァルの声とともに、クリンの視界はぐにゃりと歪んだ。全身を光の粒子が覆う。最後に見えたのは、今にも泣き出しそうなミサキの姿だった。



 



 

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