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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第五話 奴隷の町
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寂れた鉱山の町


 次の町は、さらに治安が悪そうだった。鉱山で生活を営んでいる者が多く、昼間だというのに町は閑散としており、男たちの姿が見当たらなかった。女性たちは忙しなく道を行き交い、その表情はみな薄暗い。裏通りには仕事にあぶれたような浮浪者が、地面に座り込んで酒を飲んでいた。



「鉱山の採掘量が年々、下がってきているそうです。経済的にきびしい町のようですよ」

「そうなんだ」



 ミサキの説明にクリンは町を見渡す。

 すると、この町には不釣り合いなほど高そうな服を着た、恰幅の良い男の姿が目に止まった。ひとつの古びた家の前に立つその男は、家の主であろう貧しい姿の母親らしき女性と、高圧的な笑顔で話している。女性の隣には、不安げな表情を浮かべる、まだ十代にも満たない少女。

 やがて男が少女の手をとり、女性が深々と頭を下げた。



「奴隷商人ですね」



 ミサキの沈んだ声を聞いて、クリンの足が止まった。

 あの子は売られてしまうのだろうか。



「行くわよ、クリン」

「……うん」



 四人は停留所で馬車をおりて、一泊できる宿を探している最中だった。

 少し歩くと、この町にとっての繁華街へ出た。

 旅人向けなのか、鉱石を使ったアクセサリーを売る露店や飲み屋が並んでいたが、繁盛しているとは言いがたかった。



「何か買ってあげようかな」



 ふらっと露店の前に立ち、石が埋め込まれた栞を見つける。石はお世辞にも綺麗とは言い難かったが、自分の瞳と同じ深い緑色をしていたので、それを購入した。



「ほんと、お人好しだな」

「いいだろ。気に入ったんだ」



 購入した栞をさっそく日記に挟んで、パタン、と閉じる。さて宿を探そう、と思ったところに、ふらりと近づいてくる人物があった。

 ボロ布をまとった小さな少年。さきほど買われていった少女と同じくらいの年頃に見える。表情はうつろで、いつからお風呂に入っていないのだろう、汚れた体と洋服からは異臭が放たれていた。



「奴隷です。物乞いが仕事のようですね」



 ミサキの説明を聞きながら、少年の胸元にぶらさげたメッセージボードを見る。


『ぼくは、ことばがしゃべれません。

 だからおしごとができません。

 どうか、たすけてください』


 旅人の良心を狙った誘い文句に、クリンは戸惑う。露店で買い物をしたから、金銭的に余裕があると思われたのだろう。

 こんなことでお金を稼ぐなんて、不健全だ。断ったほうがいいのだろうと心を鬼にした時、その子の頬と体に痣があるのを見つけてしまい、出てきた鬼はポキリとツノを折られてしまった。



「じゃあ、少ないけど……」

「おいこらクリン」

「いいんだ。可哀想じゃないか」

「あーあ」



 旅の最初でも似たようなことがあったような。そんなことを思って、セナは止めるのを諦めたようだ。

 一番安い紙幣を一枚手のひらに置いてやると、少年はニコッと微笑んで去っていった。



「クリンさんは、お優しいのですね」

「偽善者だと思う?」

「どうでしょう。それは受け取る側の問題では」



 ミサキが曖昧に笑ったので、やはりこういったお恵みを与えることは良くないのだろうと思った。だけどこんな荒んだ町で、奴隷のあの子が働ける職場なんて見つからないのではないだろうか。

 クリンは去っていった少年を見ながら、どうかあの子の現状が少しでも良くなりますようにと祈った。




 宿はボロボロで、今にも崩れ落ちそうな建物だった。



「僕、今日も寝れないかもなぁ」

「神経質すぎんだよ、クリンは」

「お前は同じ環境で育ったのに、なんでそんなに無神経でいられるんだ」



 軽口を叩き合いながら宿に入っていく兄弟の後ろを、マリアとミサキも続いて入っていく。

 ふと、建物の影から視線を感じて、ミサキは違和感を覚えた。


 カウンターにいた店主は、この町では少し浮いてしまうほどの明るい笑顔で接客してくれた。ふた部屋頼んだら、男女それぞれに丁寧な対応で鍵を渡してくれ、夕食もぜひうちの食堂で、と申し出てくれた。

 聖女の存在って、すごい。クリンはそう思った。


 さっそく部屋に荷物を置こうと階段を上り始めた直後、後ろのほうからミサキがセナに声をかけた。



「セナさん。上着に汚れがついてますよ」

「え?」

「私もそろそろ洗おうと思っていたので、セナさんのもついでに洗いますよ。今、脱いじゃってください」

「マジで? サンキュー」



 ミサキがセナの手から鍵とリュックを預かる。しかしセナが上着を脱いでいると、「あっ」とミサキが荷物を落としてしまった。



「すみません、重たくて」



 そう言い訳をしながら荷物と鍵を返し、セナから上着を預かる。別にいいよ、と気にしない様子のセナに、ミサキはまた背後から「本当に、すみません」と小声で謝った。

 鍵をすり替えたことは、誰ひとり気づかなかったようだ。


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