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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第三十三話 囚われの
240/327

ひと騒動の後で

 


 やがて様子を見に来た騎士団の連中に、地下牢にいた騎士たちは有りのままを説明した。一命を取り留めたアパルは騎士団所属の医務室へ連れて行かれたようだ。

 天井が崩れかけている地下は危険ということで、囚人たちは皆、皇宮とは別の棟に監禁されることになった。

 

 騎士団の話だと、レジスタンスは仲間を脱獄させたあと強行突破で城を脱出したらしい。セナの手柄で三名の捕縛に成功したが、残り八名の脱獄を許すことになってしまった。

 レジスタンスが城まで侵入したのはこれが初めてであり、面目が丸潰れとなった騎士団の連中は、みな一様に苦い顔をしていた。


 さて。レジスタンスとは無関係とはいえ、いわゆる脱獄をしてしまったセナとマリアの処遇についてだが、解錠したのがミランシャ皇女だということもあり、皇帝陛下の指示を仰ぐことになった。


 ミランシャ皇女を残し、ひとまず軟禁されることになったクリンたちが連れて来られたのは、始めに案内された客室ではなく、家具のない質素な個室であった。反省室として用意されているようだが、皇宮勤めの者の多くはエリートだったり貴族出身だ。使用頻度が少ないのか、狭い個室はやや埃が舞っている。



「弟くん。あの時、なぜ組織の連中を捕らえたんだ?」



 廊下の見張りを警戒し、部屋の隅に腰をおろしたジャックは声をひそめる。

 セナは対角線上の壁に背中を預け、非難か否か正体のつかめないその質問に、簡潔に答えた。



「しらね。体が勝手に動いてたんだよ」

「あの捕まった三人は間違いなく銃殺刑だ」

「俺のせいだって言いたいのか?」



 ジャックの質問は、前者だったようだ。



「そうは言っていないが、放っておけばよかっただろう」

「やられっぱなしのまま放置しろって?」

「やられっぱなし……? どちらかと言えばクリンを撃ったのは帝国軍だろう」

「レジスタンスの奴らが乗り込んで来たのがそもそもの原因だろ。お前が古巣の人間に味方したいのはわかるけど、俺に当たるのは違うだろ」

「弟くんこそ、ご両親の故郷だからって帝国軍に情がわいたんじゃないか」

「はぁっ? 俺の親はクリンの親だよ……!」

「やめてください、ジャックさん。セナも、マリアが起きちゃうだろ」



 部屋の中央で、クリンは制止の声をあげた。

 マリアはさすがに疲れたのか、あのあと倒れるように眠ってしまい、今はセナの横で眠りこけている。

 セナは黙り込み、ジャックは「すまない」と詫びた。二人の水と油な関係は今さらであるが、ずいぶんと空気が重たくなってしまったようだ。



「ジャックさん。僕たちは今、難しい立ち位置にいます。ネオジロンド教国、ジパール帝国、レジスタンス。僕たちはどの組織にも肩入れをしてはいけないんです。セナがあそこでレジスタンスを捕らえたことで、双方が『痛み分け』に終わりました。セナの判断は正しかった」

「……」



 立場上、ジャックがレジスタンス側に寄り添ってしまう気持ちはクリンにも理解ができる。だが、彼らだってテロ行為によって人を傷つけているのだ。そして逃げた彼らは再び他者の命を脅かすのだろう。



「……わかっている」



 そう、ジャックにだってそれはわかっている。だが、それ以上に家族や故郷を奪った帝国が憎く、セナが帝国軍に助力をしたことを許容できなかったのだ。



「すまなかった、弟くん。失言だった」

「ホントにな。俺はクリンを撃った帝国軍なんかに与するつもりはないからな」

「……。ああ。わかっている」

「いや、なに笑ってんだ」



 相変わらず、弟のブラコンっぷりは健在だ。やれやれと肩をすくめながら、クリンは今後のことに思考を巡らせ始める。


 レジスタンス側が侵入してきたことは、まったくの偶然である。脱獄した彼らは今後、さらに活動を加速させていくのだろうか。

 それはクリンにとっても望ましいことではない。今、帝国が揺らいでしまえば、悠長に停戦交渉などやっていられなくなる。間違いなく教国側との停戦協定は遠退いてしまうだろう。



「なるべく早めに決着をつけなくちゃ……」



 ぽつりと独りごちた時、コンコンとドアをノックする音が響いた。開いたドアから顔を見せたのは、ミサキである。



「お待たせして申し訳ありませんでした。みなさん、客室に戻っても良いそうです」



 どうやら皇帝陛下から許可がおりたらしい。囚われていたセナとマリアも解放されるということは、地下牢での一件は好意的に受け取ってもらえたのかもしれない。



「クリンさん。アパルさんが目を覚まされたようですよ」

「そうか、それは良かった」

「一緒にお見舞いに行きませんか?」

「うん、ぜひ」



 ミサキの目は真っ赤に腫れている。地下牢でマリアがアパルの治療を終えたあと、ミサキは(せき)を切ったように涕泣(ていきゅう)しクリンへ謝罪した。クリンが撃たれたのはミサキのせいではない。しかしどれだけ(なだ)めても、彼女の涙はしばらくの間、止まることはなかった。

 ちなみにセナが叩きのめした騎士も無事に目を覚ましたらしく、アパルと同じ医務室で手当てを受けているようだ。


 その医務室へ向かうわけだが、マリアがまだ眠っているためセナは彼女を連れてひと足先に客室へ戻ることになった。



ヒヤヒヤする章が続いていますがクリンたちは突破口を開けるでしょうか?

次章では、帝国側の背景が見えてきます。

帝国編、もうしばらくお楽しみください!

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