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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第三十一話 聖女マリアと青き騎士
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決意の先に






 荒野を抜けた先は白樺の林が広がっており、一行はそこで夜を明かすことにした。

 焚き火を囲う仲間たちから、具体的な案は出ない。セナが小枝を投げると、炎の中でパチパチと音が鳴った。揺らめく炎の明かりが木々に影を落としている。


 マリアが覚悟を決めた。

 しかし話はそれで終わりではない。結末を迎えるにあたって、いくつもの準備が必要なのだ。


 まずはリヴァルのことだ。殺さずにという条件のもと、海底に閉じ籠っている彼女を儀式までに地上へ連れてこなければいけない。それを誰がやるのか、どこに捕えておくのか。

 そしてその後の彼女の進退をどの機関に任せるべきかも重要である。彼女自身が被害者とはいえ、世界じゅうを震撼させた大罪者だ、無罪放免というわけにはいかないだろう。


 また、セナが案じていたように、儀式のあとでマリアを教会から脱出させる方法も考えなければならない。自分たちはネオジロンド教国から追われる立場になるだろう。移動術も使えなくなってしまうのだ、何かしらの機関に身を守ってもらう必要がある。



「……」



 荒野と違って風にさらされることはないが、それでも冬の空気は肌を刺す。ディクスは温もりを求めてマリアにぴっとりと体を密着させている。

 早いところ女性陣を客車に帰してやりたいが、なかなか結論が出ないのだ。


 クリンはマリアが淹れてくれたコーヒーをすすった。いつも話し合いの場では進行をつとめている自分が、今日に限っては口数が少ないということは自覚している。

 先ほどからミサキの視線を感じてはいるが、応じれば不都合な方向へ転がっていくとわかっているから、視線を返したりはしなかった。

 もちろん、それがただの時間稼ぎにしかならないということも心得ていたのだが。



「クリンさんは……おっしゃらないのですね。もうとっくに考えていることがあるというのに」

「……」



 けっきょくミサキ自身が口火を切った。みなの視線が集中したが、クリンは軽く首をかしげるだけで、明言を避けた。


 考えていることは、ある。既出の問題点をクリアし、なおかつ力を失った聖女たちが命の危機を回避できる唯一の策が。

 ただし、自分の幸せを(なげう)ってまで提案したいとは思わない。



「なんだよ、クリンらしくもない。考えてることがあるなら言えよ」



 催促するセナの隣には、当たり前のようにマリアが並んでいる。あの(いさか)いの時のことを具体的に聞かされたわけではないが、彼らの様子から察するにその関係性は大きく前進したらしい。それはとても喜ばしいことである。

 だからこそ、その幸せに水を差すようなこともしたくないのだ。この提案を口にすれば、マリアがまた不安になってしまうかもしれないから。



「クリンさん。私の尊敬するクリンさんは、いつも武器を持たずに戦ってきました。今こそあなたの本領を発揮するときです。あなたの考えは正しい。マリアを救出し、犯罪者にしないためにも、私たちには後ろ盾が必要なのです。そしてリヴァルさんも救われ、長かった帝国とネオジロンドの戦争にも休止符が打たれます。良いことづくしではありませんか」



 静寂な森に落とされるミサキの声には少しも曇りがなかった。それに反比例するように、みんながその表情に暗い色を落としていく。彼女の言葉の意味を理解したのだろう。



「どうぞおっしゃってください、あなたの考えを。迷うことではありません」

「……」

「お願いします。あなたを卑怯者にはしたくない。どうかわたしの口からは言わせないでください」



 プレミネンス教会で防衛会議をしたあの時、クリンはミサキの自己犠牲を許さなかった。ここでまた彼女にその言葉を言わせれば、全部彼女のせいにして、自分はただの被害者でいられるだろう。だが、そんな自分でいたいとは思わない。

 覚悟を決めなくてはいけないということは、とっくにわかっていた。



「……ミサキ」

「はい」

「僕たちを……ジパール帝国へ連れて行ってくれ。戦争を止めたい。……協力してほしい」

「……はい」



 力強くうなずいた彼女の笑顔は、相変わらず綺麗で眩しかった。






 


ついに『選択』をしました。

次回から帝国編が始まります。


※ここまでの閲覧&応援ありがとうございます。

 今日まで毎日更新とさせていただきましたが、帝国編をしっかりと書き上げたいので少しお時間をいただきたいと思います。そのため、今後の更新は2〜3日に1度とさせていただきます。

 ぜひ、ブックマークはそのままでお待ちいただけると幸いです。


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