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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第四話 再会は、またしても
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止まった馬車に(地図掲載)

地図を作ってみました。

クリンたちが現在どこらへんにいるのか、参考にしていただけたらと思います。






挿絵(By みてみん)



「なあ、本当にこっちであってるのか?」



 セナのその質問は、もう三度目だ。



「たぶん」

「さっきもそう言ったけど、左手に湖なんかなかったぞ」

「もうちょっと進めばあるかもしれないだろ」

「やっぱさっきの道、絶対左だったって。この道、見るからに新しいじゃん」

「うるさいなぁ」



 クリンは弟をあしらいながら、地図とにらめっこしている。

 次の中継地までは馬車なら一日で到着するはずの距離なのだが、徒歩だと地図を見ながら、そしてたっぷりと休憩をとりながらになるので、ちっとも辿りつかない。

 おまけに地図が微妙に古いのか載ってない小道が増えていたりなんかして、余計歩みを鈍らせる。

 歩けども歩けども町が見えないので、兄弟間に険悪なムードが漂っていた。



 と、そこへ後方から馬車が走ってきたので、クリンとセナはさっと地図で顔を隠した。本当ならヒッチハイクでもしたいところだが、あの村からやってきた馬車だったらと思うと、ばつが悪すぎる。

 しかしその馬車はクリンたちを追い抜くと、ゆっくりと停車したではないか。見たところ乗合馬車ではなく、個人向け馬車のようだが。



「クリンさん、セナさん!」



 疑問に思ってその馬車を眺めていると、馬車の窓からひょこっと見慣れた顔が飛び出した。ストレートのキラキラ輝く金髪に、ロシアンブルーの澄んだ瞳のその女性は。



「ミサキ!」

「奇遇ですね。お元気でしたか?」

「元気元気!」



 馬車に駆け寄り、窓越しに再会の挨拶をする。もちろん隣にマリアの姿もあった。

 まさかこんなところで会えるとは思わなかった。



「お二人は徒歩で旅をされているんですか? 風流ですね」

「え? えっと」

「はは」



 一歩間違えたら嫌味にも受け取られかねないミサキの素朴な質問に、クリンとセナは曖昧に笑うしかない。

 なんとなくワケありだと察したのか、マリアが助け船を出してくれた。



「あたしたち、このままラブレスの町を経由してリンドワ王国へ向かうの。もしあんたたちもラブレスへ行くなら乗っていきなさいよ」

「えっ、いいの!? ありがとう」

「よっしゃー!」



 願ってもない一言に、是も非もなく頷く兄弟なのであった。





 馬車は聖女を乗せているせいか内装は広々として豪華なものだった。聞けば、マリアたちは四つ目の聖地巡礼を終えて高速船を使って別ルートからやってきたらしい。



「そういえば近くの村でリヴァーレ族が出たと聞きましたが、クリンさんたちは大丈夫でしたか?」

「あ、ああ。うん」



 彼女たちの近況報告が一段落してすぐ、ミサキから向けられたその質問に、兄弟は曖昧に答える。

 マリアはすぐに勘づいたようだ。



「もしかして、あんたたちもリヴァーレ族退治に一枚かんでたりして」

「ははは」

「やっぱり。隠すことないのに。相変わらずサルみたいに暴れまわってんのね」

「うっさい、チビ。サルって言うな」

「チビじゃないわよ。絶賛成長期ですから」



 相変わらずなのはマリアとセナのほうだ、とクリンとミサキは苦笑する。いがみ合う二人から、ガルルルと唸り声が聞こえてきそうだ。

 あきれながらも、クリンはセナの様子がすっかり戻っていることにホッとしていた。



「もしかして、その村で何かあったのですか?」

「……」



 ミサキの鋭い質問に、兄弟は顔を見合わせる。

 ここまで縁のある二人だ。旅の目的を、そろそろ話してもいいかもしれない。

 クリンは順を追って、今までの経緯を話し始めた。





「そうですか……。セナくんがすごく元気なのは、特別な何かがあるのかと思っていましたが、ご家族ですら原因がわかっていないのですね」

「うん。最初は病気の線を疑っていたんだけど、遺伝的なことも視野に入れようと思って」

「ゲミア民族ね。聞いたことないわ」



 ミサキもマリアも、セナのことを真摯(しんし)に受け止めてくれたようで、難しい顔をしている。



「それにしても、その村の人たちには失望させられるわね」

「ええ、本当に。命を救ってくれた英雄に、そんなひどいことをするなんて」



 それどころか、あの村での出来事に対してはクリンと同様に怒ってくれた。



「別にもういいよ、どうでも。俺が異常だっていう事実は変わらないし」

「なにがよ。じゃあ聖女のあたしはどうなるのよ。あんたが異常なら、あたしたち聖女だって同じじゃない」



 セナの投げやりな物言いに、マリアはムッと口を尖らせた。



「聖女だって、人のために役立ってきた歴史があるから受け入れてもらえるけど、そうじゃない時代もあったのよ」



 そう、彼女の言うとおり、聖女たちは最初から聖女として崇められてきたわけではない。その不気味な力ゆえに魔女だと怖がられ、迫害されてきた歴史がある。だが一人の聖女が立ち上がり、聖女たちを束ね、導き、多くの人々を救うことで偏見を変えてきた。そうして今があるのだ。

 その聖女の教えは、今もなお聖女たちに受け継がれている。その力は自分のために使うな、多くの人を救いなさいと。



「それにね。大事なのは、どう見られたいかじゃなくて自分がどうしたいかよ。違う?」


 

 マリアはまだ言い足りないのか、ピッとセナの眼前に人さし指を突きつけ、言葉を続けた。



「その力を、守るために使ったんでしょ。役に立ったんでしょ。じゃあいいじゃない、これからもそうしなさいよ。相手が受け入れてくれないから卑屈になるなんてナンセンスだわ。その村人には怒りを覚えるけれど、気にしてやる価値もないことよ。鼻で笑っておきなさい」

「……」



 セナはその指をうざったそうに払い退けながらも、いつもみたいに反論したりはしなかった。

 よかった。

 二人のやりとりを見ながら、クリンはここで二人に会えたことを心から感謝した。


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