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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第三十話 ネオジロンド教国
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二人の関係は


 マリアは依然として盛り上がりを見せている恋バナに、ほとほと困り果てていた。「仲間内で恋人同士の人はいないの?」と尋ねられたから「ミサキとクリンがそうだよ」とバカ正直に答えてしまった。そのせいでミサキが恥ずかしがってどこかへ行ってしまい、そこから盛り上がり始めた恋バナの矛先がすべて自分に向けられるという状況に陥っている。



「やっぱり巡礼中の聖女って騎士との恋が王道ですよね!?」

「ロマンよね〜。一般聖女の憧れよ」

「そこらへん、現実はどうなんですか?」

「ど、どうって言われても。他の人とそういう話はしないからわからないよ」

「マリア様にそんな人はいないの?」

「えっ?」



 ドッキーンと心臓が跳躍した瞬間、恋に飢えた聖女たちに「これはあるな」と察知されてしまい、ますます逃げられない状況に追いやられる。

 


「やっぱりそうですよねー! あの騎士、めちゃめちゃカッコいいですもん」

「あれは惚れるわー」

「……えっ……」

「でもちょっと年が離れすぎてない?」

「何言ってるの、だからいいんじゃない! あれは包容力あるわよ」

「大人の余裕ってやつね!」



 きゃあきゃあ盛り上がっている女子たちの中で、マリアだけはその顔に「???」を浮かべている。

 たしかにセナはカッコいいというか男の子特有の強さがあるのは認める。他人に言われるとモヤッとするような気がして不思議だが、まあ、認める。年もたしかに上だ。だが上といっても一つ二つだし、包容力だの大人の余裕だのという言葉からは遠いところにいるような気がするのだが。

 いまだ頭のなかで疑問符を並べまくっているマリアに、ひとりの聖女がコソッと言った。



「で、ジャックさんとはどこまでいったの?」

「………………あー、なるほど」



 なんだろう。納得しながらも、なぜだかとても不愉快になった。

 彼女たちはマリアの騎士がジャックだと信じて疑っていないようだ。だが自分の騎士は彼じゃない。それなのに本物のほうをハナから除外されていることに腹が立った。



「あたしの騎士はセナだよ」



 きっぱりと言い切った自分に、きょとんとした視線が集まって居心地の悪さを感じたけれど、それだけは訂正しておきたかった。



「セナってどれ?」

「ああ、あの青い子……」



 周囲から「へぇ」「なんていうか意外ね」なんて、明らかにガッカリした雰囲気が漂い始めた。理想を打ち破られたことですっかり興味をなくしたようで、そのまま話題は別の方向へ移っていった。

 なんだか釈然としないが、マリアは難を逃れてホッと胸を撫で下ろした。幸いにもセナは兵士たちと腕相撲に興じているらしく、この会話は聞かれていないようだった。






 夜中、ミサキはテントの中で目を覚ました。隣のマリアはすやすやと眠っているようだ。そのさらに横ではディクスがツタンカーメンのように仰向けになって眠る真似をしている。「マリアのこと見ててね」とお願いし、ミサキは一人、テントを出る。



「あら」



 出入り口に待機しているセナを見て、ミサキは目を丸くした。すぐ横には男性陣が貸し出されたテントがあるのに、彼は女性陣のテントの脇に腰をおろしている。横から吹く風は冷たかった。



「見張りですか、ご苦労さまです」

「ジャックと交代でな。そっちは? 便所?」

「サイテーですね。お散歩です」



 軽く罵倒して立ち去ろうとしたミサキのあとを「一人で行くなアホ」と、セナが追ってくる。

 マリアの護衛はいいのかと聞けば、ディクスがいるだろと返される。どうやら一人にはしてくれないらしい。


 寝静まったテントの群れを、二人は無言で歩いた。横に並んで歩く兄とは違って、この弟は後ろからついてくる。会話をする気はさらさらないらしく、本当に護衛に徹するつもりのようだ。


 ふらふらとたどり着いたのは、あの結界壁。五年前まで、ミサキの世界はあの壁の向こう側にあった。絶望と悲しみしかない世界だったが、奇しくも今は境界線のこちら側で笑って過ごしている。

 だが、本当にこれでいいのだろうか。自分にはやるべきことがあるのではないだろうか。

 立ち止まったまま結界を見上げ続けるミサキの横に、いつの間にかセナが並んで立っていた。



「どっかの誰かが言ってた。大事(だいじ)なのはどう生まれたかじゃなくて、どう生きるかだって」

「……」

「皇女として生まれてきたとしても、どう生きるかはお前が決めていいんじゃない?」



 セナの視線は高い壁の頂きに向けられていた。その横顔は、初めて出会ったときよりも大人びて見える。まだまだ少年の雰囲気は残るが、彼なりに成長をしているらしい。こんな野生児に悩みを見抜かれてしまったどころかアドバイスまでもらう羽目になるなんて、自分もまだまだである。



「まるで他人事のようにおっしゃっていますが、セナさん、気づいてますか?」

「は?」

「あなたは現皇帝の妹君リヴァリエ皇女の息子です。あなたも立派な皇族なんですよ。私とあなたは従兄弟(いとこ)にあたるんです」

「…………」

「もうひとつ付け加えるならば、現皇帝には私の下にも息女しかおりません。帝国法に女帝は認められておりませんので……おや? このまま名乗り出ればあなたが皇太子になるのでは」

「……」



 こちらとしても認めたくない事実だったが、目の前で顔面蒼白になっている彼を見て気持ちがスッキリした。



「私への心配は不要です。さきほどの言葉はどうぞ仕える聖女様におっしゃってあげてください。あなたの言葉が響くかはわかりませんが」

「……どうせ俺は『意外』そうな騎士ですよ」

「? なんのことです?」

「さーあね」

「まあいいです。無駄な時間を過ごしてしまいましたね。戻りましょうか」

「無駄って……」



 真横から非難めいたため息が聞こえてきたが、ミサキはそ知らぬ顔で踵を返した。が、その足はすぐに止まった。

 なぜなら背後にはこちらを睥睨(へいげい)する四人の兵士がいたからだ。皆すでに抜刀していることから、楽しい会話を繰り広げるつもりは皆無に見える。そして夕食をともに囲った兵士たちとは違った色の鎧を装着していた。彼らとは毛色が違うということだろうか。


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