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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十九話 最後の巡礼に向けて
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結界攻略





 マリアがその一歩を踏みしめた時、遠くで音が聞こえた。何かがぶつかるような鈍い音だ。

 しかし円柱の結界が張られた台座には自分のペンダントが浮遊していて、前回見た時となんら変わらない様子にホッとする。


 ふと台座の奥、壁に空いた大きな穴を見て眉をひそめる。ディクスと初めて会った時とは別の穴だ。不思議に思いながらも第二のディクスが駆けつけてくる前に、ペンダントを回収しなくてはと思い直した。



「計画どおりにいかなかったら即座に帰る。移動の準備しておけよ」

「う、うん」



 ずいぶんと上擦ってしまった声で返事をしながら、マリアは隣を盗み見る。ディクスとマリアの間で周囲を警戒しているセナは、あれ以来本当にあのこと(・・・・)を忘れてしまったかのように堂々としていて、気まずさを見せない。移動の術を使う時ですら、こちらが触れるのを躊躇っている間に簡単に肩に触れてくる。

 まるで自分だけが意識しているようで悔しくもあったが、聖女と騎士としていつも通りに仕事ができることには少なからずホッとする。


 さて、と気を取り直して、マリアは作戦実行にうつった。床に手を伏せ、体の中から湧き上がるエネルギーを手のひらに集中させる。流れる川をイメージして床の中を這わせ、力を送った先はペンダントを包む台座の中。内側から結界を破るというクリンの作戦その一だったが、残念ながら結界のほうが強かった。



「ダメみたいね」

「さすがポンコツ」

「なーんであたしのせいみたいに言うの!?」

「ほれ、次だ次」

「くぅ〜納得いかない」



 どうやらあの夜に彼が放った三文字は夢だったようだ。そう確信しながら、マリアは作戦その二を実行する。

 石を溶かすほどの高温ならば冷やせばいいのでは、というマリアの発案した作戦だが、これには注意が必要だ。



「間違っても水蒸気爆発は起こすなよ」

「わかってるわよ。またバカにして」



 超高温物質と冷水が接触すると爆発が起こるという原理をマリアは知らなかった。作戦会議の時に「水をかけて冷やそう」と言ったらセナに小馬鹿にされたのだが、クリンが「触れないように外側から冷やしてみるのはどうかな」とフォローしてくれた。

 クリンとはあの話し合い以来、少し気まずい。「泣かせてしまってごめん」と謝られはしたが、けっきょくクリンも折れるつもりはないようで決定は先延ばしになった。だが話題をペンダントのほうに切り替えてくれたおかげで、互いになかったことのようになっている。


 氷の壁を四枚作り出し、触れない距離で円柱を包み込む。様子を見ながらしばらく冷やし続けてみたが、なかなか結界の温度は下がらないようだ。やがて氷の壁のほうが音を上げてしまって、たちのぼる水蒸気のせいで室温が上がってきた。



「あっちー。まだかよ?」

「うーん」

「ディクスー、追っ手の気配はないのか?」



 ディクスは透視するかのように壁の向こうを見据えながら、セナの問いにこくんと頷いた。リヴァルのことだ、すぐにお掃除要員を派遣するかと思われたが、今のところ誰も来る気配はなさそうだ。

 結界の温度は下がっただろうか。セナは石を投げてみた。が、残念ながらそれはジュッと音を立てて消え失せ、まったく変化を見せなかった。



「やっぱりこの作戦もダメみたいね」

「じゃあ次行け、次」



 わかってるわよ、と返事をしながら、マリアは司教に見せたあの結界術を施してみた。人を通すが聖女の術は通さないというアレだ。作戦はこれが大本命なのだが、リヴァルにこの術を知られたくないので本当は使いたくなかった。


 ディクスが巻き込まれないよう、マリアと台座を包み込めるだけの小さめの結界はさっそく効力を発揮してくれたようだ。台座は瞬く間に光の粒と化して、跡形もなく消え去っていった。カツン、と音を立ててペンダントが床に落ちたので、マリアは結界を打ち消してすぐさま駆け寄った。



「おい、バカ!」



 セナの制止にかまわず、それを拾い上げる。無機質なダイアモンドのペンダント。まるで自分の半身が帰って来たみたいに思えて、ギュッと胸のところで抱きしめた。

 しかしホッとしたのはほんの一瞬のことだった。突如目の前から強い光が発現し、目を閉じる間もなく眼球を刺激して焼けつくような痛みを知る。



「痛っ……」

「リヴァル!」



 遅れた条件反射で目を閉じれば、腕を掴まれ後ろに引き戻された感覚と、耳元で唸るセナの声。

 どうやらリヴァルが現れたようだとマリアが理解したのと、セナがマリアを後ろに隠したのは同時だった。

 

 リヴァルの右手にはすでに光の塊が存在している。おそらくマリアの目を攻撃したのは、あれだ。

 ダガーでその首を切り裂いてやりたい衝動にかられたが、セナは騎士としての仕事を自覚してなんとか思いとどまった。今回反撃を担当するのはディクスであり、自分はマリアを守る盾となる。


 だが、まさかリヴァル本人がここに足を運ぶとは思わなかった。

 しかしどうしたことか。マリアを睨むリヴァルはドレスがところどころ破れており、その頬と右腕にも切り傷のようなものがあった。


 リヴァルが追撃に出るよりも早くディクスが光の石つぶてを放ち、注意を引き付ける。石つぶては簡単に結界で弾かれたが、その隙にセナはマリアを抱えてリヴァルから遠ざかることができた。


 驚いたのは、次の瞬間である。

 光とともに空間が歪んで、それはリヴァルの背後から現れた。



「げ、司教!?」



 そう、司教である。リヴァルと同様に彼女も肩と腕に多少の傷がありそうだ。しかし彼女が視界にとらえているのは一点、リヴァルのみである。


 司教の手から放たれた氷の欠片(かけら)はリヴァルの背後をとらえていた。が、それが当たるよりも前にリヴァルはすでに居なく、パッと現れたのは逆に司教の背後。司教はすでに予想済みだったのか、リヴァルが手をかざすよりも前に振り返り、結界を施していた。


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