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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十八話 リヴァルの謀略を防げ
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皇女vs司教


 やがて司教は考えをまとめたのか、ゆっくりと首を横に振った。



「せっかくの申し出ですが、お断りします」

「……」

「理由は三つ。まずあなたに人質としての価値がどれほどあるのかわからない以上、リスクが大きすぎますから。二つ目、仮にも世界を救うと謳っているネオジロンド教国が人質を取るなど外聞が悪すぎます。そして最後ですが、さきほど人柱がどうのとおっしゃっていたのはそちらでしょう? ずいぶんと矛盾していらっしゃる。まるでこちらが断ることを前提で提案なさっているように見受けられるのですが……。さて、次の手はなんでしょうね?」

「なるほど。ご理解いただけないようで残念です」



 ミサキは心底残念そうに、しかし穏やかに微笑んで立ち上がった。



「ではこの防衛会議は交渉不成立ということで解散いたしましょう。お手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」

「……」



 こちらがずいぶんとあっさり引き下がったものだから、司教はその意図を理解したようだ。



「なるほど。次は帝国側へ……というわけですか」

「当然です。世界は今、救いの手を求めています。聖女様のお力添えをいただけないのでしたら、世界屈指の軍事国家が、教会に代わって民衆をお守りしなければなりません」

「その際はラタン共和国とアルバ王国が、帝国に協力を申し入れましょう」



 コリンナの追い打ちに、司教は「ふ」と敗者の笑みを浮かべた。



「そして教会の権威は失墜。あげくリヴァルのことを暴露され、世界は再び魔女狩りの悲劇へ……ということになるのですね。参りました。こちらには始めから逃げ道はなかったようです」



 その悔しそうな口ぶりとは裏腹に、司教の顔はどこか愉快そうにも見える。おそらく文書が届いた時点で、こうなることを予測していたのだろう。それにしてはずいぶんと言葉遊びを楽しんでくれたようだが。


 けっきょく防衛会議は、プレミネンス教会が全面的に立ち動くということで落ち着いたのだった。ラタン共和国とアルバ王国は教国の英断について称賛と支持を表明するべく、いったんそれぞれの国に持ち帰ることとなった。両国が正式に発表すれば、ネオジロンドへ進軍をもくろむ帝国軍に多少の圧力はかけられるだろう。


 最後にこちらの要望として『巡礼ルートに結界を張らないようにしてほしい』と提言すれば、司教はあざやかな術を披露し、地図を出現させた。受け取った地図には赤いラインが引いてあり、そこを結界の圏外にすると約束してくれた。

 これでマリアは今まで通り術を使用でき、ディクスも最後まで一緒にいられるようになったのである。







「マリア・クラークス。あなたは少し残りなさい」

「……はい」



 応接室をあとにする一同を見送りながら司教が落とした言葉に、マリアは立ち止まった。騎士として最後に退出する予定だったセナも足を止めたが、司教の無言の否定により退出を余儀なくされた。



「あなた、ペンダントはどうしたのです? それはアレイナ・ロザウェルのものですね」

「申し訳ありません。リヴァルさんに奪われてしまって」

「……ではあなたのペンダントがあるところに、リヴァルの城が?」

「はい。ですがそこは海底です。リヴァルさんがお亡くなりになれば、城も消えてしまいます」

「なるほど。こちらから攻撃をしかければ味方も全滅……と」

「は、はい。すみません」



 マリアは怒られると思って、びくびくしながら受け答えをしている。本来ならばマリアのような若輩者が並んで会話を許されるようなお方ではない。司教は教皇の次に、教会で実権を握っている。だが教皇は国政を担っているため、実質的に教会を動かしているのはこの司教なのだ。

 クリンやセナはズケズケと物を言ってのけるが、マリアには恐れ多くてそんなことはできない。



「で、ですが、必ず取り戻してきます。どうかお待ちください」

「……。さきほども地図の話が出ましたが、アレイナ・ロザウェルの話を聞いてもなお、巡礼を続けるというのですか?」

「は、はい。最後の儀式の話もリヴァルさんから聞いています。でも……もう覚悟を決めました」

「……」



 司教から訝しげな目を向けられたが、マリアの目には少しの迷いもなかった。



「マリア・クラークス、私はあなたを見くびっていたようですね。ご立派です」

「き、恐縮です」



 素直に礼を言えば、司教はふっと笑った。



「帝国の皇女に、リヴァルの息子に、リヴァーレ族の仲間。なかなかのメンツをそろえたものです」

「!」



 ディクスがリヴァーレ族であると司教は気づいていたらしい。しかし特にお咎めはなく、早々に話は切り上げられた。



「話は終わりです。まあ、正直期待はしていませんが……粛々と巡礼に励みなさい」

「はい! ありがとうございます」



 マリアは最敬礼の角度でピョコンと頭を下げた。



「あのぅ、すみません」



 開けっぱなしのドア、二人の会話が終わるのを見計らうように、ひょこっと顔を出したのはコリンナだった。



「おや、忘れ物ですか?」

「ええ。ぜひあなたにお願いがありまして」

「なんでしょう?」



 司教と同様、マリアもその顔に疑問符を浮かべた。このシチュエーションは計画外だ。



「実は私、個人的に聖女の力を研究しているんですけどね。一人か二人でいいので、ちょっと血を抜かせてもらえないかしら?」

「…………」



 コ、コリンナさ────ん!?

 まさか本当に言ってのけるとは思わず、しかも言い放った相手が相手なだけに、さすがにマリアの顔面は凍りついた。



「マリア・クラークス」

「ひっ……ひゃい」

「あなたのお仲間は、本当に愉快なかた達ばかりなんですねぇ」

「……」



 穏やかな口調でそう言った司教の顔を、マリアは怖くて見ることができなかった。







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