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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十八話 リヴァルの謀略を防げ
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師弟の共闘





 一方のギンはセナのような身軽な動きで暴れ狂う泥人形へと近づいていく。と、そこへ青白い光が出現し、ディクスとともに本物のセナが現れた。セナはギンが駆け寄っていることには気づかなかったようで、まずは周囲の状況を把握したあとで目の前の怪物に意識を集中させている。


 ここは大都市のど真ん中である。街道へおびき出すよりもここで叩きのめしたほうが被害が少ないと判断し、セナとディクスは分散攻撃に出て、怪物の動きを止めることにした。

 なるべくリヴァルの視界に自分がいたほうが、奴の動きは最小限で済むはずだ。よってセナは真正面から泥人形と対峙した。その間にディクスが赤い石を探り出すのだ。



「おおい、おまえ何やってんだ!?」



 捕まらないように怪物の手から逃げまわっていると、背後から聞き覚えのある声がしてセナはぎくりとした。



「おっさん!? おっさんこそなんで」



 と言いながら、セナはジャンプした。その直後に伸びてきた大きな手のひらが、目標物をとらえることなく宙をさまよう。セナは落下とともにダガーを引き抜き、巨大な右腕を切りつけた。が、太い腕は切り落とすには至らなかった。

 チッと舌打ちしながら地面へ着地したその瞬間、真後ろからヒュンッと風が通りすぎた。それがギンであると目視できたのは、彼がその右腕をしっかりと切り落としたあとだった。ギンの手には紺色のダガーが握られていた。セナのそれよりも刃が太く、やや重たそうな印象である。



「ヘタクソが。力に任せず太刀筋を意識しろ」

「くっそ。久しぶりに会ったのにまた説教かよ」

「で? おまえは何やってんだ?」

「命がけの鬼ごっこだよ!」



 答えつつ、セナは再び泥人形の手から飛び退ける。

 泥人形が攻撃ではなくセナを捕獲しようとしているのだと、ギンはすぐさま状況を把握した。そりゃおもしろそうだ、と笑い、手もとでクルクルとダガーを回して遊んでいる。


 ギンはセナのように高い跳躍力はもたない。ここから飛んでも巨大な泥人形の頭部には届かないだろう。ダガーを握り直すと、ギンは上半身を仰け反らせて勢いよくそれをぶん投げた。それは泥人形の眉間ど真ん中に突き刺さり、とどまることなく頭部を貫通させた。

 顔面に風穴を開けた泥人形は痛覚によって制御を失い地面にひれ伏す。



「まず視覚を奪え。次は足だ」

「前回はちゃんとやってたっつーの!」



 泥人形の背後から石つぶてが飛んでくる。ディクスはセナとギンがやりとりしている間も背後から赤い石を捜索していた。やがて石のありかを見つけたのか、ディクスは大きな鎌を生み出している。



「あれはおまえの妹か? ずいぶんと物騒なお嬢ちゃんだ」

「……認めたくはねえけど、今はそういうことにしておく」



 赤い石を見つけた以上、自分がやるべきことはひとつである。ディクスの動きを気取られないよう、泥人形の気を引き続けるのだ。



「ほれほれリヴァル。俺はこっちだぜ」



 セナの声に、泥人形はすぐさま反応を示し、息も絶え絶えであるにも関わらず残った左手でセナを捕まえようと躍起になっている。

 いったいなぜリヴァルがそんなに自分を欲しているのか、セナにはまったく理解できない。だが、おめおめと望みを叶えてやるつもりは毛頭ない。

 巨大な手のひらが真正面から迫ってくる。セナはそこから一歩も動かず、ダガーを真っ直ぐに突き出した。巨大な手のひらの中心から腕までまっすぐに突き刺し、骨の流れに沿って肘まで到達したところで、それを真上に切り裂いた。と同時にディクスが赤い石を取り出したのか、泥人形は動きを止め砂となって崩れ落ちた。

 砂化粧を見送りながら、ギンはダガーをおさめてセナの横に立った。



「なんか知らんが厄介なことになってるみてえだな。おまえさん、そんな色の目だったか?」

「へっ。どうだったかな、忘れちまったよ」

「……」



 一難去って久しぶりの対面だと言うのに、セナはギンの目を見ることができなかった。『唐揚げの味を忘れるなよ』と言った師匠の教えを自分は破ろうとした。いや、今でも衝動的に見失いそうになる。それを見抜かれたくなかった。



「おっさんがいるってことはシグルスか? また銃で撃たれちゃたまんねーや、じゃあな!」

「あ、おい」



 武器をおさめるなり、セナはそれだけ言うとディクスのもとへ駆けて行き、ディクスとともに消え去っていった。






 ジャックが組織流の合図を送ってくれたおかげで、クリンたちはすぐにギンとも合流することができた。

 クリンたちは被害の少ないエリアまで逃げ延びて、兵士たちに見つからないよう建物の陰に身をひそめていた。いまだシグルスではミランシャ皇女の行方を探しているため、目立つわけにはいかないのだ。

 先ほど保護した女の子は、マリアが近くの避難所へ連れていってあげた。


 合流するなり、クリンはギンへミサキとマリアを紹介した。マリアは一度だけ会ったことがあるが、ミサキは初対面なのだ。



「……ミランシャ皇女ですね」

「今はミサキ・ホワイシアと名乗っています。お見知り置きを」



 初対面と言っても、帝国のレジスタンスだったギンにとっては敵である皇女の顔など見慣れたものである。だが事情をすべて知っているため皇女への敵意はなく、その顔は穏やかなものだった。

 かつての敵同士。多少の気まずさは残しつつも、一同は本題へと移った。



「で、いったいどうなっているんだ? なぜ弟くんに似た怪物が暴れ回っているんだ」

「かくかくしかじかでして」



 ジャックの質問に、クリンは手短に今までのことを説明し始めた。リヴァーレ族の生みの親が聖女であること。それがセナの母親であること。セナがリヴァーレ族から生まれた特殊な体であること。そしてセナの母親がセナを捕まえるために、世界中にリヴァーレ族を放つようになってしまったこと。内容が内容なだけに、さすがのギンも顔をしかめていた。



「それで、俺に頼みたいことと言うのは?」

「形式的に騎士が一人必要なのですが、頼めるかたがジャックさんしか思いつかなくて。一日だけでいいんです。ぜひ、一緒に来ていただけませんか?」

「もちろんかまわんが……」



 とジャックが返答する横で、ギンは当然の疑問をぶつけた。



「おまえたちはこれから何をするつもりなんだ?」

「はい。リヴァーレ族の脅威から世界を守らなければいけません」

「それはずいぶんな大事(おおごと)だ。おまえさんたちが背負うには重すぎるんじゃねえか? そもそもの原因が聖女にあるなら、プレミネンス教会が立ち上がるべきだろう」

「そうですよね、ギンさん。僕たちもそう思っています」

「……ほう?」

「ですから僕たちは、これからプレミネンス教会に交渉という名の殴り込みに行きたいと思っています」







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