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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十八話 リヴァルの謀略を防げ
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シグルスでの再会





 その日のシグルス大国は青空が広がっていた。

 いつかこの国の柱になるであろう者たちと有意義な対話を終えたジャックとギンは、首都の大通りをぶらぶらと歩いていた。

 あの時くれたクリンの助言がまるで予言だったかのように、すべての計画は順調にとどこおりなく進んでいる。むしろ、自分たちが立ち上がる必要があったのかと思うほど、次世代に必要な意思はシグルスのそこいらに芽吹いていた。自分たちはそこに水をまいただけである。


 クリンたちに会える日が来るのも、そう遠くないかもしれない。ジャックがそう確信を得て空を仰いだ時、視界の隅で何かが光った。



「やっと見つけた! ジャックさん! あ、ギンさんもいる」



 いましがた考えていた人物の声が大通りの向こう側から響いて、ジャックは足を止めた。行き交う車の合間を縫って、こちらへ駆けてくるのは一人の少年と二人の少女──そう、クリン、ミサキ、マリアだった。



「クリン! なぜここへ?」



 旅をしているにしては荷物も持たず身軽な格好のクリンたちを不思議に思いつつ、ジャックは再会に顔を綻ばせる。



「ジャックさんにお願いがあって、探していたんです。でも絶対首都にいると思ったので、ここに狙いを定めて正解でした」



 クリンは答えつつ、ジャックの隣にいるギンにぺこりと頭を下げた。



「ギンさん、お久しぶりです。いつぞやはセナがお世話になりました」

「おう、クリンも元気そうだな。で、うちの弟子は挨拶に来てねえのかい?」

「すみません。セナはいつでも出動できるように家で待機中でして……」

「出動?」

「はい、その説明も含めて、どこかでゆっくり話を……」



 とクリンが本題に入り始めたところで、会話は打ち切られた。


 ──ドォォオン!


 足元を揺るがす地響きとともに、目と鼻の先で爆音が起こる。粉塵の向こうから巨大な人影が見えて、そこここで悲鳴が上がった。



「まさか……!」

「またニーヴ大統領の化け物か!?」



 生物兵器がもたらした悲劇は、シグルスの国民にとってまだ記憶に新しい。彼らは三度目の災害に、再び恐怖にかられた。

 しかしクリンたちはもとより、ジャックとギンはいち早く、ソレが生物兵器でないということに気がついた。



「あの姿は……」

「おいおい、おいおい。ずいぶんと規格外に成長しちまったなぁ、ウチの弟子は」



 そう、リヴァルが放ったセナそっくりのリヴァーレ族である。それは家屋をなぎ払い、人を鷲掴みにしては放り投げ、舗装された地面を叩き壊した。



「そんな……まさかここに来るなんて!」

「最悪の偶然ですね。クリンさん、どうします?」

「悔しいけど、僕たちがいるとわかったら、セナの不利になる。逃げよう!」



 視界の隅に映る負傷した人々を見ると胸は痛んだが、今自分たちがなすべきことを最優先に考える。



「ジャックさんたちも、いったんここを……って、ギンさん!?」



 説明よりも先に、ギンは動いてしまっていた。



「ジャック、おめえはクリンたちを守れ! ちょっくら弟子に挨拶してくらぁ!」

「ちょ、ちょっとギンさん! あれはセナじゃ……って、行っちゃったし」



 追いかけたいが、リヴァルの視界に自分が映るのはまずい。セナの師匠だ、不幸なことにはならないだろう。クリンはそう割り切って、逃げ惑う人々の流れに沿って走り始めた。

 しかし、すぐに足を止めてしまった。マリアがついて来ていないのだ。



「あれ、マリアは……!?」



 振り返れば、なぜかマリアは大通りから外れた路地へ入っていったところだった。一人、いち早く追いかけたミサキの頭上へ、飛んできた瓦礫の破片が降ってくる。



「きゃっ」

「ミサキ!」



 クリンの手は届かなかった。

 コンクリートの破片が砂埃を巻き上げながら地面をえぐる。心臓がひやりとして駆け寄れば、瓦礫からわずか数センチのところでミサキはへたり込んでいた。その横では彼女の肩に手をかけて膝をつく、ジャックの後ろ姿が。



「私を……助けてくれたんですか?」

「……そのようだ」

「えっと……お礼を申し上げるべきでしょうか?」

「いらん。返答に困る」

「でしょうね……」



 おそらく条件反射だったのだろう、助けた本人であるジャックも、また助けられたミサキのほうも、複雑そうに目を背けあっている。

 クリンだけは二人の無事をホッとしながら、マリアが消えていった方角へ目を向けた。路地の向こうでは、マリアが怪我をして泣いている子どもに治癒術をかけていた。三歳くらいの小さな女の子だが、逃げ遅れたのか近くに親の姿はない。

 すぐに合流したクリンたちは、その子も引き連れてその場をあとにした。




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