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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十七話 忍び寄る魔の手
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セナとディクス

 

 マリアがコリンナに血液を引っこ抜かれている頃、セナは村一番の高い樹にのぼって、村全体を眺めていた。


 自分を育ててくれたこのフェリオス村は、海と山に囲まれた過ごしやすい気候ということもあり、移住してくる者も多い。酪農、農業、漁業だけではなく生活に寄り添った細やかな仕事も豊富のため、力のない女性たちも住みやすいと評判の村だ。


 だが一番アピールしたいところは、そんな表面的な情報ではなく、笑顔の絶えない村人たちの優しい気性である。小さな村というのは排他的なイメージがあるが、この村にその言葉はあてはまらない。他者を尊重し、補い合い、担い合う、おおらかな者が多いのだ。

 セナはこの村が好きだった。




 ふと、家出をする前まで通っていた学校を見る。今ごろ友人たちもあの学舎(まなびや)で授業を受けているはずだ。

 アルバ王国の成人は二十歳、義務教育は十二で終わるが、ほとんどの子どもがさらに上の教育を受けるため学校へ通い続ける。だからクリンもセナも当然まだまだ学生だ。もっとも兄は飛び級制度を利用して、そろそろ最高学府の学校まで卒業してしまいそうだが、頭の悪い自分は同級生のどんぐりの背比べについていくのがやっとである。

 だがどうしても、今のセナにはあそこへ戻るイメージがわかなかった。




 絶え間なく脳裏に浮かぶのは、崩壊したラタン共和国の光景と、そこで浴びた人々の恐怖に満ちた視線。

 自分があの国にいないと知ったリヴァルは、今後何をしてくるだろう。

 故郷の情報を漏らしたつもりはないが、ここにはディクスがいる。もし探知などされたら、この村まで危険に晒されてしまうかもしれないのだ。

 だが、自分ひとりがリヴァルのところへ行くと言えば、必ずクリンは止めるだろう。移動に巻き込んだマリアだって危険に晒しかねない。



「……?」



 そこまで考えていたところで足音が聞こえて下を見れば、ディクスがこちらを見上げて立っていた。

 セナは顔をしかめた。

 ミサキやマリアはアレをしきりに可愛がっているが、自分は苦手だ。あの女が作ったのだ、当たり前である。



「あっち行けよ」

「……」



 だがディクスはこちらをじっと見つめたまま動く気配がない。だからと言って相手にしてやる気はさらさら起きないので、セナは樹の反対側からおりて、そこから立ち去ろうとした。

 その手をディクスが掴んだので、イライラは頂点に達した。



「てめ……っ!」

『──リヴァルのところに行っちゃダメ』

「……っ」



 その手を振り払おうとして、セナは頭の中に直接響いたその声に動きを止めた。



『あなたが居なくなったらクリンたちみんなが悲しむ』

「……」



 幼さなさを残した、少しだけ舌足らずな喋り方に甘い声。

 耳ではなく頭の中に語りかけてくるような、その声は……。



「おまえの声か……?」

『そう。私とあなたは同じ力でつながってる。リヴァルのこともあなたのことも、私にはわかる』

「……リヴァルともつながってるのか?」

『つながっている。だけどこちらの居場所は知られていない。ただリヴァルは世界じゅうにあなたを模した泥人形を放とうとしている』

「──!」

『急がなくてはダメ。私なら泥人形の場所を探知できる。あなたと私なら止められる』

「……」



 想像していたとおり、リヴァルは自分を探しだすために強行手段に出るようだ。だが……その情報源がコレから発信されたものである以上、信用していいものかわからない。



『罠だと思ってる。でも違う。私はクリンたちが好き。あの三人を助けたい』

「……」

『泥人形のくせにって? 泥人形だって痛みも喜びも知っている。ただ表現をしないだけ。クリンに優しい言葉をもらえて嬉しかった。マリアが遊んでくれて楽しかった。ミサキがくれたワンピースが温かった。あなたが私を嫌いなのも、ちゃんと悲しいと感じている』



 こちらの考えをすべて言い当てながら、ディクスはさらにしゃべり続ける。



『でもあなたは私たちと決定的に違う。あなたは泥人形とも、そこから産まれた肉の塊とも違う。ルッカの母乳を飲んで血液を融合させたから、あなたは人間の細胞を多く体に取り込んだ。あなたは人間として生きていける。うらやましい』

「…………」

『だからあなたはこれから泥人形を倒さなくてはダメ。あなたが生きていく居場所をなくさないために』



 さあ、早く武器を用意して。ディクスはそう締めくくった。

 それが罠かもしれないとは、セナはもう思わなかった。







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