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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十七話 忍び寄る魔の手
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コリンナとの対話


 セナの出自を聞いて、さすがのコリンナも度肝を抜かしたようだ。いくつか質問を投げかけられて、こちらが返す。そのやりとりの間、コリンナは始終難しい顔をしていた。あまりにも膨大な情報量のため、用意したメモ用紙はぎっしりと埋まってしまった。


 重たい沈黙が流れる父の診察室には、父とコリンナとクリンの三人だけ。他のメンバーには席を外してもらうよう、クリンのほうからお願いをした。

 いかんせん問題が山積みすぎて、もはや大人の力を借りるしかないと判断したのだ。そしてこの話をマリアとセナに聞かせたくなかった。



「マリアちゃんが巡礼を終わらせたら、リヴァルさんもセナも死んでしまうかもしれない。おまけに、マリアちゃんまで同じ聖女の方々に処刑されてしまうというのね」

「はい。でもセナは自分がリヴァルさんを殺せばいいと思っているんです」

「自分の命までも消滅してしまう可能性がある……とは気づいていないのかしら」

「はい、たぶん。でも、知ったとしてもセナの答えは変わらないと思います。それにリヴァルさんが身を潜めているところは海底です。そこに乗り込んでリヴァルさんを殺めてしまった場合、城そのものも崩壊してしまうでしょう」

「……じゃあたとえセナにリヴァルさんの力を抑える特効薬のようなものを打っても、城に乗り込んだ場合はけっきょく死んでしまうってことね」

「はい」

「詰んでるじゃない」



 コリンナは「お手上げ」とばかりに、文字通り両手をあげた。



「やっぱり聖女には聖女の力で対抗してもらうしかないんじゃないかしら。私たちの医学や化学で太刀打ちできるものではないと思うわ」

「……マリアにもセナにも、人殺しにはなってほしくないんです。リヴァルさんはたしかに罪人だ、誰かが罰をくださなければならないのはわかっています。でも……それは大人がやるべきだ。十五歳前後の子どもに背負わせるような世界なんて間違っていると思います」

「…………」



 父とコリンナが困ったように顔を見合わせている。その二人へ、クリンは深々と頭を下げた。



「お願いします。どうか知恵と力を貸してください。いただいた恩は必ずお返しします。……お願いします」



 しばらくそのままの状態で、数秒間。やがて頭を上げるよう命じ、コリンナは言った。



「聖女の力を分析してみたいわ。マリアちゃんの血液を採取させてもらいましょう。手がかりが掴めるかもしれない」

「……! 呼んできます!」



 ガタガタと音を立てて椅子から立ち上がり、クリンはすぐさま診察室を出て行った。部屋に取り残されたコリンナは、父・ハロルドへ向かってにやりと笑った。



「『大人がやるべきだ』ですって。ぐうの音も出ないわね」

「すまんな、まだまだ礼儀知らずで」

「なに言ってるの。いい男に育ってるじゃな〜い」

「そうか? そうだろう? 妻の教育が素晴らしかったんだ。自慢の息子たちなんだよ」

「…………あほらし」



 カタブツだった元同僚からノロケと親バカ発言のダブルパンチを食らってしまい、コリンナはやれやれと首を振った。



言質(げんち)はとったわよ。ちゃ〜んと恩返しをしてもらわなきゃね。うちの研究所に引っこ抜こうかしら」

「残念だったな、あいつは臨床医希望だ」

「あら。研究医のほうが向いてそうだけど」

「だとしても、君のもとにはやらん。君は危険だ、色々と」

「何がよ! まったく……私の研究結果を見てもそんなことが言えるのかしら?」



 まったくもって非建設的な会話を繰り広げていた大人たちであったが、話題はコリンナの研究のほうへ移った。コリンナはボストンバッグの中から何冊かのノートを取り出し、ハロルドへ渡した。



「この結果は……」

「驚きでしょう? 私を褒め称えてくれてもいいのよ」

「ふむ。たしかに興味深い。なるほど、もしもコレと同じものがマリアさんの血液成分に含まれているのだとしたら」

「そう。そういうことよ」

「しかし単体の採取は難しいと言っていなかったか? なぜだ? 他の細胞を壊してしまうとかか?」

「いいえ。消えてなくなってしまうからよ」

「……」

「そう。どこかの泥人形とおんなじ原理ね」



 大人たちが研究について語り合っているところへクリンが戻ってきた。連れられてくるなり採血をさせてほしいと懇願されて、マリアはびくびくしながらもそれに応じてくれた。


 果たしてこれが解決の鍵になるのかは、誰にもわからない。だが根っからの研究者であるコリンナは、未知なる領域へ踏み込んだことに、不謹慎ながらもわずかに心を踊らせていた。

 その後採血を終わらせたコリンナは「世界じゅうの聖女の血を抜いてまわりたいものね」と呟き、いよいよマリアを震え上がらせていた。






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