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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十四話 セナ出生の秘密
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実験披露


 リヴァルはいったんベッドから離れ、大きな棚の扉を開けて、中から二つの箱を取り出した。一辺が三十センチほどの大きめの箱と、ペンケースほどの小さめの箱だ。



「これはね、わたくしが考えた冷凍ボックスなの。知ってる? ナマモノって凍らせると長持ちするのよ。二つの温度はそれぞれ違うの。調節するのがとても難しいのよ」



 電気が普及されていないこの世界で、冷たいものを保存する方法は限られている。おそらくリヴァルは自身の術でその保存方法を編み出したのだろう。

 だが、気になるのは方法ではなくその中身である。



「何が……入っているんですか?」



 クリンの質問と、リヴァルが大きめの容器から中身を取り出したのは同時だった。

 彼女の手よりわずか三センチほど離れたところで宙にぷかぷか浮いているそれは、まるで鶏肉とホルモンを混ぜ合わせたような、白味がかった薄桃色の生肉。



「子宮よ」

「──っ」



 マリアが顔をそらし、ミサキが口元を手でおおった。

 彼女たちを背後に隠しながら、クリンは隣の弟にも「見るな」と言った。だが、セナは凍りついたようにその目をそらすことができなかった。



「わたくしの子宮は使いものにならないから、他の方に譲ってもらったの。安心して。ちゃんとお金を払って買った、奴隷のものだから」

「……っ!」



 彼女はそれを宙に浮かせながら、もう片方の手で小さな容器を持ち、ベッドへ向かった。



「もういい、やめてください! これ以上は何も見たくありません!」

「だめよ、せっかく解凍したのに無駄になってしまうわ」

「やめてください!」



 リヴァルはクリンの訴えをまったく気にすることなく、泥人形の腹の上に子宮を置いた。

 突如現れた青白い光とともに、その肉片は水でも吸い込むかのように体内へと吸収されていく。泥人形は苦しそうに暴れ、甲高い金属のような音で悲鳴をあげた。


 次にリヴァルが小さい容器から取り出したのは、先端の細長い注射器である。クリンが立ち会った医療現場では見たことのない、その異様なほど長い形状の注射器には、すでに何かの液体が含まれていた。



「これにレインの精子が含まれているの」

「!」

「知ってる? 精子ってちゃんと冷凍すると十年以上もつのよ」



 クリンはこれから起こるすべてのことを理解した。

 そしてそれは弟に見せてはいけないものだということも。



「リヴァルさん! もういいです、これ以上は必要ありません!」

「いいえ。もう残り少ないから大切に使わなきゃいけないの。だからちゃんと見ててあげね」

「やめてください! もうわかりました、十分理解しました! だからどうかやめてください!」

「……。ごめんなさい、ちょっと静かにしててね」



 なおも制止の声をかけ続けるクリンに、リヴァルは初めてその顔に苛立ちを表した。

 刹那、クリンの頭上──天井から青白い鎖が出現し、それはまっすぐクリンの首に巻き付く。



「……っ! ぅぐ……っ」

「クリン!」

「クリンさん!」



 鎖は強い光を放ちながらぎゅうぎゅうに喉を締め付けていく。息もできず、喉仏を潰されてしまいそうなほど強い力に、視界が白く(かす)んでいく。

 セナのダガーでも、さらにはマリアの術を用いても、その鎖を断ち切ることはできなかった。



「やめろ! てめえ、リヴァル! やめねえと承知しねえぞコラ!」



 格子をガンガン殴って、セナはなんとか注意を引きつけようと罵声を畳みかけた。

 リヴァルは困ったように微笑んで、クリンを解放した。



「ゲホッ……ゲホ……ッ」

「クリンさん、しっかりしてください!」



 ようやく息をすることを許されて、クリンは膝をついて酸素を貪る。クラクラしながら見えた視界に、ミサキの泣きそうな顔が映った。



「ごめ、大丈夫……」

「息子に嫌われるのは悲しいけれど、次はお別れしてもらうわね」



 なおも咳き込み続けるクリンを一瞥し、リヴァルは警告ひとつ落とすと、また作業に戻った。

 リヴァルの体に隠れて作業の内容は見えなかったが、埋め込まれた子宮に注射器の中身が注入されたということは、容易に想像できた。



「これで着床完了。以前はうまくいかない時もあったけど、こうやって注入している時に術をかければ必ず着床に成功するの。聖女の力って便利でしょう? そこの聖女さんも、覚えておくといいわ」



 リヴァルの目には、青ざめているマリアの表情は映っていないらしい。

 彼女は嬉々として自身の功績を語り続けながら、まだ続きがあるのよと言わんばかりにベッドの上の泥人形に手のひらをかざした。


 手のひらから生まれた青白い光は、泥人形の腹の中へ次々と吸収されていく。やがてその光は腹の中で命を育み、瞬く間に腹囲を肥大化させた。



「……何を」

「十月十日も待つなんて、退屈でしょう?」



 クリンの質問に、ゲームの攻略法を教えるかのように、リヴァルは得意げに答える。

 腹部がじゅうぶんな大きさに育ったのを確認するなり、彼女の手のひらは動きを変えて、鋭利な刃物を生み出した。



「! 見るな!」

「いやっ……」



 その先を想像し、全員は目を閉じる。

 泥人形の、声とは程遠い金属音の悲鳴。そして肉を断ち切る音と、部屋じゅうに充満する血の匂い。

 視界を拒絶した世界に伝わってきた情報を否応なく受け止めながら、やがて消え入るほど小さな泣き声を聞き取って、クリンは目を開ける。


 リヴァルの手には小さな肉の塊がおさめられていた。

 が、それは子どもが作った粘土細工の人形のように、とても人間とは思えないほど不細工な形状だった。



「ああ。やっぱり失敗……。何回、何十回繰り返しても……どうしても五体満足にならないのよ。やっぱり精子が悪くなってるのかしら」



 やがてリヴァルの腕の中で、小さな泣き声は聞こえなくなった。



「また海に流さなきゃ。あなたもお疲れ様」



 小さな塊を作業台の上に放り投げたあと、リヴァルはベッドの上で息絶えようとしている泥人形の腹から、こともなげに赤い石を取り出した。

 悲鳴をあげる間もなく絶命した泥人形は、細かい砂となって崩れ去っていった。


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