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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十四話 セナ出生の秘密
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出産秘話


 兄弟とリヴァルの間に短い沈黙が訪れる。

 しかし、やがて彼女から打ち返された言葉は返答と呼べるものではなかった。



「凶暴になってしまうの? どんなふうになっちゃうのかしら。ちょっと見せてくださらない?」

「…………」



 まるで芝居の上演を楽しみに待つ少女のように、彼女は目をキラキラと輝かせている。

 我が子が抱えている悩みに対して、それはあまりも軽い、むしろ馬鹿にしているのかと思えるような態度に、クリンは失望を覚えた。

 隣の弟を見るのはやめよう。さすがに気の毒すぎる。



「弟のそれは無意識です、やろうと思ってできることではありません。だからこそ彼は苦しんでいます。遊びや実験のように思われるのは不愉快だ」

「あら……ごめんなさい、怒らないで。ここまで成長した子どもは初めてだから、興味深くて」

「他にも、お子さんが?」

「ええ、作ったんだけど全部壊れちゃった」

「…………壊れた?」



 ドクンと心臓が(うごめ)く。

 およそ人に使う言葉ではないソレに、クリンは本能でこの先を聞いてはいけないような気がした。

 だが、リヴァルは続けた。



「ええ、何度やっても成功しないのよ。死産だったり、形状がうまく保てなかったり」

「なんの……話を……」

「何って、出産の話でしょう?」

「…………」



 たしかにその通りなのだが、何か……何か噛み合っていないような気がする。

 そう言えば彼女たち聖女は子どもが産めない体だと聞いた。



「あの、不躾(ぶしつけ)ですが……。聖女のあなたがどうやってセナを産んだんですか?」

「わたくしが産んだわけではないわ。代わりに産んでもらったの」

「代わりに……ってまさか、代理出産……ですか?」

「なんだよそれ?」



 セナには聞いたことのない言葉だったようだが、クリンはいくつかの医学書で目にしたことがあった。



「子どもを産めない人の代わりに、他の女性が出産してくれるんだ。たしか……リヴァルさんとレインさんの受精卵を他の女性の子宮に着床させて、妊娠と出産を代わりにしてもらうってこと」

「……それ、問題はねえの?」

「理論上はな。でもまだ医学界でも実験段階だったはずだよ。それに倫理観の問題で実用化までには時間がかかるって」



 もしリヴァルが十五年も前にそれを成功させたというなら、それは医学界においても大きな衝撃を与える。

 しかし聖女の卵子は機能しないはずだ。その場合はレインの精子を代理母の卵子と受精させたと考えられるが……だとすればリヴァルとセナに直接的な血の繋がりはなくなる。セナに聖女の力が含まれることに説明がつかない。



「リヴァルさん、セナには聖女の力があります。リヴァルさんと血のつながりはありますか?」

「……それは、難しい質問ね」

「え……?」

「いいわ。説明するよりも見てもらったほうが早いと思うの」



 言うが早いか、リヴァルは椅子から立ち上がって両手を前にかざした。



「!」



 全員が息を飲んだその一瞬で、体はこうこうと青白く輝き、視界が一変した。さきほどの宮殿のような建物とは打って変わって、そこは質素で清潔感のある空間だった。


 二十畳ほどの室内には作業台や天井まである大きな戸棚、そしてベッドが置かれてあり、研究室のような印象を受けたが、やはりここもリヴァルの力で作られた空間らしく、すべてが青白い光に包まれていて現実味を感じられなかった。


 マリアのそれとは違ったあざやかな場所移動に、彼女とマリアにはよほど大きな力の差があるように思える。


 場所が変わったことでセナの警戒心はさらに研ぎ澄まされたようで、鋭い表情で視線を張り巡らせていた。マリアとミサキの間には、どうやら一緒についてきてしまったらしい青い髪の少女の姿もあった。



「実験に集中したいから、みなさんはその中で見物していてくださいね」



 リヴァルは一歩離れたところで手をかざすと、空気を振動させて術を放った。クリンたちの足元から光の柵が現れて、それは五人を囲う(おり)となった。



「おい!」



 身動きを封じられ、セナは非難とともに檻を殴った。が、それは音も振動もなく、ただ鈍い感触を拳に与えただけでビクともしないようだ。

 リヴァルは駄々っ子でも宥めるような目でそれを見やると、くるりと背を向けてベッドへ向かった。


 空っぽのベッドに光が集まる。それは今までの青白いものとは違って血のような赤褐色の光だった。空気中の成分をかき集めるかのように細かい粒子がひとつの塊を形成していき、やがて人のような物体になっていく。


 しかし遠目から見たクリンたちにも、それが通常の人でないことだけは理解ができた。

 右腕は半分より下がなく、左手は三本の指に骨が入っていないのかぐにゃぐにゃに(しな)びており、足は異様に長く、関節がバラバラで膝の形がおかしかった。



「なにを……しているんですか」

「これが分身よ」

「……」



 説明しながら、リヴァルは術を放って鎖を生み出すと、出来上がったソレの手足をベッドにくくりつけた。

 女性のような体に作られたソレは服を着ておらず、(へそ)よりわずか上部分に赤い光が灯っていた。おそらくそこに赤い石が埋め込まれているのだろう。すでにリヴァーレ族特有の凶暴な性質が現れており、鎖をガシャンガシャンと音を立てて暴れ始めている。


 鼻はつぶれており、顎は左右非対称、片目しか開いていない目は炎のように赤い色をまとっており、その異様な姿に、クリンは頭の片隅でこれ以上見てはいけないと警鐘が鳴り響いているのを自覚する。


 恐怖心を逃すために格子を握るセナの袖をつかんだら、彼の腕もまた異様なほど震えていることに気がついた。

 自分たちはセナの出生について尋ねたはずなのに、これから何を見せられるというのだろうか。


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