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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十三話 不思議な城
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リヴァルの正体

 

 ‘友だち’というキーワードにうっかり否定しそうになったが、脱線させたくないのでひとまずスルーする。



「ありがとうございます。僕はクリン・ランジェストンと申します。僕たち四人は仲間です。まずはどうしてあなたが彼女をここに呼び出したのか、教えていただけますか?」



 と、まずはミサキを呼び出した理由について尋ねてみたら、返事は予想通りだった。



「ごめんなさいね。彼女に用はなかったのよ。息子に会わせてもらえるかお願いしようと思って、聖女さんに来てもらうつもりだったの」

「なるほど。教会が発信した、青き騎士の復活という話を耳にしたからですね?」

「ええ。もう死んでしまったのかと思っていたのに……。生きているとわかって嬉しかったわ」



 リヴァルのセナを見つめる瞳は優しかった。

 ひとまず、ここまで会話が成立したことにホッとする。どうやら敵意もなさそうだし、ごく一般的な感情も持ち合わせているようだ。ゲミア民族や司教のように利益優先で攻撃をしかけてくるつもりはなさそうなので、次は要求を出してみることにした。



「では、目的は達成したわけですよね。彼女のペンダントを返してもらえませんか?」

「……それは、困るわね」



 しかし、やはりというべきか、彼女の答えはノーだった。


 あの台座に張られた結界を見て、簡単にペンダントを返してくれるつもりはなさそうだとは思っていた。

 だが、マリアにとってその返答は予想外だったようだ。



「どうしてですか? あたしは巡礼中の聖女なんです。ペンダントがないと巡礼を終わらせることができません。どうか返してください!」



 リヴァルは穏やかに、だが慈愛たっぷりの瞳で微笑んでいる。



「ペンダントをお返しすることはできないわ。これは、息子とあなたのためでもあるのよ」

「……巡礼が終わったら聖女が、殺されてしまうからですか?」

「まあ、知っているの?」

「はい。それでもあたしもセナも、最後までやり遂げると決めました」




 マリアの決意を聞いて、リヴァルは理解ができないようで、初めて笑みを消し、その顔に戸惑いを作った。

 彼女たちの会話を聞きながら、その事実を初めて聞いたミサキはやはり驚いたようで、クリンの隣で眉をひそめていた。その件については後で説明すると約束し、今はリヴァルとの会話を優先させてもらうことにした。

 


「リヴァルさんも、ご存知だったんですね」

「ええ」

「もしかして、リヴァルさんも七つ目の巡礼を終えて殺されそうになったんですか?」

「そうよ。そしてここへ逃げてきたの」

「……できれば、その時のことを教えていただきたいのですが」



 無遠慮な質問だとは思ったが、七つ目の巡礼についてはなんとか情報を手に入れたいところ。

 ありがたいことに、クリンのその質問に、リヴァルは機嫌を損ねることなく答えてくれた。



「もう三十年前になるかしら……。当時、世界各地で疫病が流行っていて、感染力の強さと致死率の高さに多くの人が亡くなったの。わたくしはその疫病から民を救うよう命ぜられたのよ。そしてレインとともにその任務を終えることができた」

「!」



 三十年前に大流行した疫病。プレミネンス教会から派遣された力の強い聖女が、巡礼ののちに世界じゅうに光の雨を降らせ、疫病から人々を救った。それは村の学校でも教えられるほど、有名な話だった。

 まさか彼女がその聖女だったなんて、驚きである。



「だけど儀式の泉から出ようとしたわたくしを待っていたのは、仲間からの刃の嵐だった。相手は六人だった。やめてくださいと、なぜこんなことをするのかと問えば、力の強すぎる聖女は世界のために排除するしかない、と……」



 淡々と語るリヴァルとは対照的に、その時のことを想像して自身に置き換えてしまったのか、マリアは青い顔でぶるっと身を震わせていた。



「死にたくなかった。レインと必死に抵抗して、なんとか一緒に逃げたわ。ペンダントも捨ててしまった」

「……」

「レインもひどい怪我を負った。もちろん、わたくしも……。おかげで足は、このざまよ」



 彼女は椅子に腰かけたまま、ドレスの裾をまくりあげた。その大胆な行動に驚く間もなく、(あらわ)になった左足を見て、全員が驚愕した。



「──っ!」



 枝のように細い足、膝よりわずか下の部分。そこに、皮膚をも通り抜けるほど強い光を発した赤い石が埋め込まれていたのだ。



「これがなければ、歩くことももうできないの」

「その石は……!」



 それぞれの脳内で映し出された怪物は別の形容であったかもしれない。だがその種族の名前と彼女の名前を比べれば、連想するのは容易かったと気付く。

 ただ四人の中で、クリンだけは反応が違った。



「やっぱり……あなたがリヴァーレ族の生みの親だったんですね」

「! おまえ、知ってたのかよ!?」



 セナに問い詰められ、返せる言葉は「ごめん」と、たった一言。

 とは言っても、クリンだって気づいたのはたったの前日だ。

 初めの違和感は、アレイナを追ってきた司教が不可解なことを尋ねてきたからだ。


『リヴァーレ族と対峙したそうでしたが、何か変わったことはございませんでしたか?』


 なぜそんなことを聞くのだろう、と思ったその後に、リヴァルというセナの母親の名前を初めて耳にして、もしやと疑惑が生まれた。そして、たしかあの怪物に‘リヴァーレ族’と名称をつけたのもプレミネンス教会だった、と思い出したことがダメ押しになった。


 それから今までのことを整理すれば、答えは簡単に導き出された。

 おそらく司教が誘き出そうとしていたのは父親ではなくリヴァルのほうなのだ。予想通りリヴァルは食いついた。シグルスの町を襲った鳥人間がそれなのである。

 鳥人間はなぜかセナには攻撃を仕掛けてこなかった。当然だ、あれを操っていたのがリヴァルなのだとしたら、彼女の目的はただひとつ。破壊ではなく、我が子をその目で確かめること。さらには生物兵器からセナを守ったという理由も、もはや説明するまでもないだろう。


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