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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第三話 兄だから
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少年マルク

 

 目指すのは、出発地点からやや北東に位置する先進国である。別の南東ルートもあるが、そちらは遠回りであることと、治安があまり良くないため、北東ルートを歩むことにした。

 馬車は順調に進み、東を目指して進んでいく。



「見ろよ、セナ。地平線が見える」

「おお……。すごいな」

「初めて見た」

「うん」



 馬車の窓から見える島国とは違った新鮮な景色に、兄弟はしきりに感動していた。遠くに見える地平線。名前の知らない鳥の群れ。道に咲く見たことのない植物。

 決して観光に来たわけではないが、この胸の興奮は抑えられそうもない。


 やがて日は落ちかけ、乗合馬車は休憩地点である村に立ち寄る。兄弟はそこで一泊し、さらに東へ進む別の馬車へ乗り換えるのだ。


 村はそれほど大きくはなかったが、乗合馬車の中継地点ということもあり、多くの人で賑わっていた。

 馬車の停留所付近にはいくつかの露店が並び、旅人をもてなしている。街灯も多く道も舗装されていたりと、生活水準は悪くなさそうだ。宿に困ることはないだろう。


 宿を探すため街路樹に沿って舗装された道路を歩いていく。

 ふと、街路樹の下で困っている様子の男の子を発見した。ギンの娘・ナターシャより、いくつか上だろうか。



「どうしたの?」



 足早に歩み寄ると、少年はビクッとしたあとで、街路樹を見上げた。背の高い樹の枝に、紙飛行機がひとつ。どうやらひっかかってしまったようだ。


 セナは二・三歩 後ろへ下がると、助走をつけてジャンプした。手を伸ばせば、あっさりとそれはセナの手の中へ。



「ほらよ」

「すごいや、ニイちゃん! ありがとう!」



 紙飛行機を受け取ると、少年は目をキラキラと輝かせた。



「懐かしいな、紙飛行機。僕らもよく遊んだよね」

「こっちにも同じ遊びがあるんだな」

「お兄ちゃんたちもやる?」



 はい、と少年が差し出してくれた紙飛行機を受け取って、セナはそれを飛ばした。しかしそれはうまく気流に乗ることなく、ポトリと落ちてしまった。



「相変わらず下手くそだなぁ。力まかせに投げるから」

「ほっとけ」



 クリンがそれを拾い上げ、少しだけ紙飛行機の先端をいじらせてもらう。軽く手を放せば、それはふわりと風に乗って、遠くまで飛んで行った。



「すごいやお兄ちゃん! どうやったの?」

「折り方をちょっと工夫しただけだよ」

「ねえ、教えて教えて!」

「いいけど……。そろそろ暗くなるよ。見たところ村の子みたいだけど、お家に帰らなくて大丈夫?」

「俺らも宿を探さなきゃいけないしな」



 セナの言葉に、少年は目をぱちくりさせた後でバッと右手を上げた。



「僕ん家、宿屋だよ!」






 少年に案内されてついた宿屋は、こじんまりとした温かみのある宿屋だった。



「マルク! 遅かったじゃない」



 カウンターにいるエプロンをつけた女性が少年を見るなりホッとした顔を浮かべた。



「ママ、お客さんだよ!」

「え?」



 マルクと呼ばれた少年は、クリンの手をひいてカウンターへ案内する。女性は少年が客引きをしてきたことに驚いた様子だ。



「あの……息子がご迷惑を?」

「いえ。本当に宿を探していたところだったので、助かりました。二人分ですが部屋は空いてますか?」

「まあ、本当にお客様なんですね。いらっしゃいませ、今ご用意します。すみません、息子の遊びに付き合わせてしまったのかと」



 マルクの母親であろうその女性は、クリンの説明にホッと胸を撫で下ろした。



「このお兄ちゃんね、紙飛行機をとってくれたんだよ。木にひっかかったのをね、ぴょーんって飛んで取ってくれたの。それからこのお兄ちゃんはね、紙飛行機の達人なんだよ!」

「やっぱりご迷惑をかけたんじゃないの!」



 少年の報告に、またしても母親はすまなそうに頭を下げた。



「息子のマルクがご迷惑をおかけしました。店主をしております、ジーナと申します。お部屋代、安くさせていただきますね」

「いえ、お気になさらず」

「安くしてくれんの? ラッキー」



 遠慮する兄の横から、ちゃっかり喜んでいる弟。

 二人を見比べて、ジーナは楽しそうに笑った。




 女手ひとつで営んでいるだけあって、やはり小規模な宿だった。二人部屋が三つ、食堂はなく、風呂場は個室ではなく大浴場。

 しかし建物もそう古くはなく、廊下のすみずみまで掃除が行き届いているので、快適に泊まれそうだ。



「お兄ちゃん、遊んで!」

「いいよ、おいでおいで」



 外で食事を済ませてから一息ついたところで、マルクが部屋に入ってきた。

 よく飛ぶ紙飛行機の折り方を教えてあげたり、投げる時の手首のスナップを教えてあげる。そのあとは、別のカードゲームに興じたりと、マルクの気の済むまで付き合う。歳の差はあれど男同士、三人は時間も忘れて楽しんだ。


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