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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十二話 コスタオーラ大陸
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朝食会議




「なあ、マリア。巡礼、やめることって考えられないか?」



 翌朝、朝食を囲んでいた宿屋の一室で、クリンが昨夜のセナとまったく同じ提案をしたものだから、マリアは飲んでいたコーヒーを吹き出した。



「ケホッ、ケホッ。……この兄弟、どんだけあたしをリタイアさせたいの」

「クリン。それ俺がもう言った」

「えっ、そうなの!?」

「でもダメだった。こいつ頭カタイわ。ポンコツだから」

「なによサル」



 相変わらずガルルルとやっている二人を見比べながらも、クリンは難しい顔をしていた。彼女の決意が固いからと言って、「わかった、じゃあがんばれ」と見殺しにできるような薄情な人間ではない。弟とは違って自分は特別な力があるわけでもなく、二人が教会の中に入ってしまったらもう助けてやることはできないのだ。



「二人に何かいい案でもあるのか?」

「「なんにも?」」

「……」



 こういうところだけはシンクロするのだ、この年下組は……。思わず半目になって二人を睨めば、「そこはクリンの出番だろ」とめちゃくちゃ責任重大な案件を気軽にパスしてきた奔放(ほんぽう)な弟。

 悔しくはあるがこの二人に任せておいたら確実にバッドエンドルートを突き進んでしまうので、なんとか道を切り開きたいところだ。


 朝食のパンにバターを塗りながら、昨日の司教とのやりとりを考える。

 交換条件……は、どこまであの司教に通じるだろう。こちらの切り札となり得るものと言えば、ひとつだけ。それは弟の存在だ。司教はやたらとセナのことを気にかけている。青き騎士としてもそうだが、昨日、司教はセナにもうひとつの新たな価値を見出したはずだ。

 弟は、おそらく世界で唯一の‘聖女が産んだ子ども’である。それはものすごく稀有(けう)なことではないだろうか。もしかしたら聖女たちの希望になるかもしれない。



「弟を解剖させる代わりにマリアを助けてくれ……とかね」

「ちょいちょいちょい?」

「冗談だよ」

「おもしろくねえから全然」

「まあ本気だとしても『それとこれとは別問題です』って却下されちゃいそうだしな」

「……」



 責任をなすりつけてきた仕返しくらいはできただろうか。

 冗談はさておき。パンを頬張りながら、脱線した話を軌道修正してみる。

 セナの母親は聖女である。たしかリヴァルと言っただろうか。彼女はどうやってセナを産んだのだろう。そして、なぜ赤ん坊だったセナを手放してしまったのだろう。

 司教よりも先に会って、なんとしても話を聞きたいところである。さらにできることならこちらの仲間に引き入れてしまいたい。

 ただ、彼女の名前を聞いた時からクリンにはひとつ気がかりなことがあった。



「リヴァルさん、か。……なんか……」

「? なんだよ」

「いや、なんでもない」



 不確定な言葉は言いたくない。クリンはすぐさま話題をすり替えた。



「セナのお母さん、どこにいるんだろうな。セナの不思議な力のこと、教えてもらえないかなぁ」

「そうね。彼女の力さえわかれば、あたしの探知能力で探せるのにね」

「いや……ちょっと待てよ。それならなぜ司教さんはリヴァルさんを探さないんだろう?」



 探知能力は、もともとは司教の術だったはずだ。セナの父親を誘き出したいなら、セナを利用するなんていうまわりくどいことをする前に親友に会いに行けばいい。

 ということは……。



「たぶん、もう死んでるんじゃないか?」

「……」



 セナがあまりにもあっさりと結論づけたので、マリアはしょぼんと眉を下げた。



「あんた……ずいぶんドライね」

「や。ある程度覚悟してたっていうか……知ってたっていうか」

「え?」



 知っていた? なんで? と尋ねれば、セナからの「うーん」という曖昧な返事。

 セナの説明では、南シグルスで瀕死の状態だった時、不思議な夢を見ていたらしい。それは自分が赤ん坊の頃の夢で、クリンの母親であるルッカがこう言っていたのだそうだ。『母親が命をかけて守ったんだもの』と。



「ずっと夢だと思ってたんだけど……あれがもしも本当にあったことなら、もう死んでるんだろうなって覚悟してた」

「……」

「ねえ、待って」



 なんとなく重たい空気になりそうだったので、一度話題を変えようかと思ったところへ、マリアが待ったをかけた。



「生きてると……思うんだけど」

「なんで?」

「だって、北シグルスの教会で神父様がおっしゃってたもの。『どうかリヴァル様をお救いください』って」

「あっ! そういやそんなこと言ってたな……」



 クリンの知らない話がまた出てきたようだ。一度彼らに‘ほう・れん・そう’という大事な言葉を教えたほうがよさそうだと思いながら、話を聞いてみる。神父の口ぶりから察するに、セナの母親はまだ生きている可能性がありそうだ。

 そしてクリンもまた、彼女は生きていると予想していた。



「じゃあ、やっぱあれはただの夢だったのか」

「そうね。お母さんが生きててくれることを祈りましょ」



 セナとマリアの会話を聞きながら、クリンは目を伏せる。


 マリアと同じルートをたどっていたリヴァルと青き騎士。そんな彼女を救ってほしいと願う神父様。セナの父親を追い求める司教。そして司教が昨日現れた直後に発した不可解な言葉。

 クリンはゆっくりと目を閉じた。

 ‘まさか’が‘やはり’に変わっていく。



「どーした、クリン?」

「いや……なんでもない」



 おそらくこの予想は、的中する。だが、言いたくはない。



「とりあえずミサキと合流することを優先しよう。巡礼の話も、みんなで話し合ったほうがいいだろ」



 自然と会話を最初の話題に戻して、すっかり冷めたコーヒーを飲み干せば、その味はいつもより苦く感じられた。

 セナとマリアは怪訝そうな顔をしながらも、それ以上の追及はしてこなかった。






 朝食を済ませたあとは、いよいよミサキを迎えに行くことになった。ペンダントを持ったまま、彼女はどこへ消えてしまったのか。プレミネンスに時差を合わせたとしても丸一日が経過してしまっている。無事だといいのだが……。

 クリンは胸にはびこる不安を押し隠し、目を閉じてペンダントの気配を探っているマリアの顔をじっと見守った。


 マリアは昨夜のうちにアレイナの術をすべてラーニングしたようだ。ついでに術だけではなくペンダントに宿ったアレイナの力も自身の体に取り込んだらしい。おかげでミサキの持っているペンダントの力を追いやすくなった、と彼女は言った。

 兄弟にはよくわからない話だったが、聖女が言うならそうなのだろう。

 やがて彼女は「見つけた」と言って、移動の術を発動させた。


 そこに絶望の扉が用意されてされているとも知らずに。



ライバルの力を受け継ぎ、マリアが新たな決意を抱きました。

次話、やっとセナの秘密が……?


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