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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十二話 コスタオーラ大陸
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司教、再び


 白髪の混じった紫色の長い髪に、白いマントを覆った威圧感のある女性。司教が現れるなり、アレイナは悲鳴をあげた。

 すぐさま騎士がかけつけ、ベッドにいるアレイナを抱きあげて入り口側へあとずさり、退路を確保する。その二人の前でトーマは剣を抜いて臨戦体勢を取った。

 セナもマリアとクリンを自分の前に下がらせて、司教の動きを警戒している。

 そんな緊張感の中で、司教だけは窓を背に、冷静沈着な様子で室内を見渡していた。ここがどんな場所なのか見定め、一人一人の人物を確認しているようだった。



「おや。意外な者たちがおりますね」



 開口一番、司教の視線はセナたち三人に止まった。

 ということは、彼女の目的がアレイナであるということがわかる。おそらくマリアと同様、アレイナの気配を追ってきたのだろう。



「シグルスの教会にいる神父に聞きました。ずいぶんと活躍されたそうですね、マリア・クラークス。そして青き騎士殿」

「司教様……」

「リヴァーレ族と対峙したそうでしたが、何か変わったことはございませんでしたか?」



 二人の名をあげながらも、司教の視線はセナ一点へと注がれている。それに不快感を覚えながらも、セナは簡単に情報を与えてしまわないよう表情を消し続けた。



「まあ、それは彼女の始末が終わってからゆっくりとお聞かせください」



 はなから素直に聞き出せるとは思っていなかったようで、司教はさほど気にしない様子で今度はアレイナへ向き直った。当然、アレイナはびくりと体を震わせる。



「失望しましたよ、アレイナ・ロザウェル。まさか最後の巡礼を目前にして逃亡をはかるとは」

「お……お許しください、司教様! どうか、どうかお助けください……!」

「なりません。逃げた者は理由がなんであろうと始末します。お覚悟を」

「いやぁ!」



 司教は片手をかざした。が、彼女が術を発動させるよりも前にマリアが結界を生み出し、アレイナの前にたちふさがった。



「お待ちください、司教さま!」

「おどきなさい、マリア・クラークス」

「いいえ。アレイナの話は本当なんですか!? 巡礼が終わった聖女は殺されてしまうのでしょうか?」

「…………」



 司教は片方の眉をぴくりと上げた。「なるほど」と、アレイナがなぜ逃げ出したのかを理解したようだ。司教はかざした手をおろすと、あっさりとそれを認めた。



「ええ、本当のことです」

「!」



 それが何か?とでも言うような涼しげな顔をする司教の返答に、一同は言葉を失う。

 司教が現れる直前、アレイナは殺した側の聖女たちの中に司教がいたと言っていた。にわかには信じがたかったそれも、今の彼女の様子からすると本当にあった出来事と考えていいだろう。

 いったん結界を解いたマリアの横で、声を荒げたのはクリンだった。



「なぜですか!? リタイアも許されず、命を()して世界を救った者に対して、なぜそんな(むご)いを仕打ちをするんです!? まるで死刑囚じゃないか!」

「……あなたは以前もお会いしましたね。お名前をお伺いしても?」

「クリン・ランジェストン。テントの中で弟がずいぶんとお世話になったそうですね」

「ああ……。青き騎士殿の義理のお兄様ですか」



 いちいち‘義理の’とつけるところに苛立ちを覚えながらも、クリンは本題からそらさぬよう、食い下がった。



「質問に答えてください。あなたたち教会の人間は『聖女の力を正義のために使え』と教えを説いているはずだ。その教えを信じて務めを果たした者を、なぜ殺さなければならないのですか?」

「プレミネンスの聖女はみな、力が強大なのですよ。強大すぎて、危ういのです。コントロールを失って暴走する者や、悪用しようと考える者がいてもおかしくありません。その危険性がある以上、彼女たちを生かしておくわけにはいかないのです」

「はあ? だったらなんでわざわざ巡礼なんかさせるんだよ」



 今度はセナがかみついた。力が強い者は排除される。この(ことわり)は、ゲミア民族の里でも南シグルスで被弾した時も、身を持って思い知らされた。

 だが、わざわざその力を増幅させる聖地巡礼に、いったいなんの狙いがあるのか。



「それは、逆に力の弱い聖女を魔女狩りから守るためです。‘聖女の力は世界を救う’──そう民衆に植え付けることで世界中の弱き聖女たちが受け入れられている。そのために聖地巡礼は存在するのですよ。だが、どれだけ世界を救う力でも強すぎればそれは畏怖の対象にしかなり得ません。プレミネンスの聖女は世界の平和と安寧のために、その命を捧げるのが使命なのです」

「クソみたいな理屈だな」

「人の命をなんだと思ってるんだ!」



 兄弟はそろってマリアの前にたちはだかった。今の話を、できればマリアには聞かせたくなかった。マリアはやはり青い顔で司教の言葉を受け止めている。



「たったひとつの命で多くの命が助かるのなら小さな犠牲では? その尊い使命から逃げる者を野放しにはできません。アレイナ・ロザウェル。教皇様の命により、あなたを処分します」

「いやっ……!」

「やめてください、司教様!」



 司教が動く前に、マリアは再び結界を張りめぐらせた。


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