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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第二十話 悲しみの末に
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振り返って


 聖女の術でも体調不良だけは治癒することができず、さすがにしんどくなってきた。マリアの治癒を受けながら隅にある木箱に寄り掛からせてもらい、クリンはぼうっとする頭に喝を入れた。



「そういえば、セナたちはよくソルダートの屋敷がわかったな。リヴァーレ族と生物兵器のほうも、大丈夫だったのか?」



 急な方向転換であったが、セナは「ああ」とその時のことを思い浮かべた。どうやらミサキへの追及は控えてくれたようで、ありがたい。

 だがそこで、セナとマリアが微妙な顔つきをしたので、ふと疑問に感じた。



「なんかあったのか?」

「いや……」



 言おうか迷っている、というよりは、なんて説明したらいいかわからない、といった表情の弟。



「なんか、違和感がずっとあったんだよな。あの鳥人間、こっちのこと観察してるふうだったっていうか……。生物兵器から守ってくれたような気もしたし。ずっと攻撃してこなかった。もしかして、人を攻撃しないタイプだったのかなって……」

「……いや、でも町では暴れまわってたよな」

「あたしのことも攻撃してきたよ。()けると町が被害に遭うから術でふせいだでしょ」

「……そっか。じゃあ、やっぱり気のせいだったのかな」



 そう結論づけながらも、セナはなんとなく腑に落ちない様子だった。だがそこへマリアが別の話題を振ってきたので、その話は終わりを告げた。



「そういえば、教会の人たちがクリンたちにもお礼を言いたいって言ってたよ。『救護活動を手伝ってくれてありがとうございました、五人のご恩は忘れません』って」

「へえ……それは嬉しいけど。あのあと教会は大丈夫だったのか?」

「うん! あたしたちの戦いを遠くから見物してた人たちがいてね。みんなにその時のことを広めてくれたみたいなの。その話を聞いて市長さんが教会にお礼を言いに来てくれたんだよ」

「それはすごいな……!」



 聞けば、教会で治癒術をかけてもらった人々も口々に感謝の言葉を述べてくれたらしい。

 このまま教会に対する評価がかわっていくかもしれない。シグルスとの和解への(きざ)しが見えて、クリンはホッと胸を撫で下ろした。


 そしてあの戦いのあと、マリアは術を使いすぎたため教会で休息をとっていたらしい。

 その間に、セナは町の救助活動にあたりながらミランシャ皇女がどこへ行ったのか情報を集め、ニーヴ家の別邸を探り当てた。それからマリアがある程度回復したタイミングで、警備を強行突破して乗り込んできたというわけだ。



「そうだったのか。二人のおかげで助かったよ。本当にありがとう」

「うん……」



 返事を返してくれたマリアの表情は浮かなかった。



「あたし……アイツのこと、うっかり術で吹っ飛ばしちゃったけど……。あんなんじゃ腹の虫がおさまらないや」



 マリアの言いたいことはよくわかる。正直、彼女があの時暴れてくれなかったら自分が代わりにヤツを殴っていたかもしれない。



「でも、もうダメだぞ、聖女が術で人を傷つけちゃ」

「はあい、ごめんなさい」



 あの時のことを振り返っても、あのタイミングでマリアが術を発動させてくれたおかげで誰一人被弾することなく無事にここまで来れたのはたしかだ。もちろんその行動が、あの場から逃げるためだったならなんら問題はない。しかしあの時のマリアには衝動的な私情しか存在していなかった。それが問題なのである。



「まあ、僕もざまーみろとは思ったけど」

「……」



 思ったんかい、とツッコミと入れたのはセナだ。だが、ジャックとミサキのことを思えば場の空気が和むことはなかった。

 たしかに、このままソルダートを見逃すのはシャクである。



「多くの命を奪ったんだ。罪は償うべきだよね」

「お。またなんか悪だくみを考えてるな?」

「何もないよ、人聞きの悪い」



 ‘また’ってどういう意味だよと弟を睨みながら、クリンはズキズキする頭で考える。



「それに……僕たちのような子どもが何か企んだりしなくても、あの人が裁きを受けるのは時間の問題だと思うよ」

「どういう意味?」

「うん……」



 マリアの問いかけに、答えようと思った。思ったのだが、そろそろ本気で体に限界がきてしまったようだ。



「……っ」

「クリン!」



 視界が急に斜めになったと思ったら、体が勢いよく床に倒れたのがわかった。受け身も取れずに頭を打って、風邪とは違った痛みで顔をしかめていると、セナが慌てて駆けつけてきた。

 セナのぬるい手が(ひたい)にあてられて、自分より低いその温度が心地良い。だが、おそらく熱が高かったのだろう、弟はその顔をこわばらせていた。



「ごめ……。続きが……」

「後回しだ、ばか」



 ぼんやりとした視界に、不安げに顔を揺らすミサキと、心配そうに見守っているジャックの姿が映って、重たくなる瞼にこらえた。まだ、眠ってしまうには早すぎる。もしも自分が眠っている間に彼らがいなくなってしまったら、悔やんでも悔やみきれない。



「ジャックさん……。お願いがあるんです」



 セナとマリアが背後で会話をしているのが聞こえる。教会の医務室に連れて行こうとするマリアを、セナが止めているようだ。おそらく今、司教や教会の者に会うのを警戒しているのだろう。



「ジャックさんの復讐を……別の方法で果たしてもらえませんか」

「……」



 ジャックは眉を寄せて、続きを待っているようだった。

 セナとマリアは議論の折り合いがついたのか、フードを被って、二人で外へ出かけて行った。どうやら近くの市街地に宿を取りに行ったようだ。


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