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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十八話 三つ巴
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セナの違和感





 セナは奇妙な感覚を覚えていた。


 ドォオォン!

 激しい爆音が至近距離で鳴り響き、同時に叩きつけられた地面が噴きあがる。


 おびきだした生物兵器は、街道に出た今もなお自分を狙って攻撃をし続けている。

 建物はなく、街路樹も街灯も身を隠すには心もとない。

 つまり自分は巨人にとって恰好(かっこう)の的なのだ。


 (おとり)としては最高の状況だが、一対一で戦うには身体的にも状況的にも分が悪すぎる。当然苦戦を強いられていたが、彼が感じた奇妙な感覚というのはこのことではない。


 巨体の怪物が再び、その腕をおろした。

 タイミングを見計らってジャンプでかわし、そのままヤツの肩に飛び乗って片足で踏み切る。腰の後ろに装備していた黒いダガーを握ると勢いよく横になぎ払った。

 それは狙いを定めていた眼球からわずかにずれて、ヤツの瞼を切るに終わった。



「ちっ」



 舌打ちをしながら下へおりていくセナのところへ、痛みに顔を歪めた巨人の反撃がやってくる。セナが地面に着地したそのタイミングで、巨人は拳を振り下ろした。



「……!」



 反撃がくることは想定済みだった。

 ギンの「待て」という声が脳裏に浮かんで、ギリギリのところで避けてから返り討ちにしてやろうと構えた、その時だった。


 横から風圧が飛んできて、風の刃が巨人の腕を切り落とした。



「!」



 まただ。


 数歩うしろに下がって、巨人の腕から放出される血しぶきを避けながら、セナは空を浮遊する鳥人間を見た。


 怪物がもう一体いることを、忘れているわけではない。

 青い羽を持つ鳥人間、リヴァーレ族。

 やつも交えた三つ巴の戦闘であることを、セナはちゃんと自覚しているはずだった。


 ……だが。



「なんで、また俺を……」



 つぶやいたその時、すぐ近くでパァッと白い光が浮き出て、そこからマリアが現れた。



「セナ!」

「おお。来たか」

「よかった、生きてるわね」

「あたりめーだ」



 二度とヘマなんかするか。

 そう心の中で毒づきながらも、自身の仲間が現れたことに安心感を抱いているのは否めない。

 が、マリアの様子が少し違うような気がした。



「向こうでなんかあったのか?」

「……婚約者って人が現れて、ミサキが全部……思い出したみたい」

「へえ」



 それはまた面倒なことになった。

 セナは兄の顔を思い浮かべながら相槌(あいづち)を打った。

 マリアの表情が暗いことを案じ、ゆっくりと聞いてやりたいところだが、あいにくのんびりとしていられる余裕はない。



「とりあえず、今はこっちの問題だな」

「そうだね」



 ドォン!

 派手な音を鳴らして巨人が鳥人間を攻撃したところで、今度はマリアから尋ねた。



「こっちはどんな状況?」

「……ああ」

「?」



 めずらしく言い(よど)むセナを不思議に思って、マリアは首をかしげる。


 目の前では怪物と怪物が派手に争い合っているが、セナは自身が感じたこの不思議な現象をマリアに伝えるべきか迷った。いや、余計なことを言って混乱させてしまうようなことはしたくない。

 結果、説明はあきらめ、セナは簡潔に指示だけ出すことにした。



「一体を集中攻撃する。まずは生物兵器を沈めるぞ」

「ん。わかった」



 マリアはさして気にするでもなく、素直に返事をしてすぐに手のひらから氷柱(つらら)を作り始めた。

 セナはすぐに理解して、囮を引き受けた。

 南シグルスでのあの作戦を今度こそ成功させたいところである。


 ありがたいことに巨人は人鳥のほうへ気をとられているようだ。セナは気配を最大限に抑えて巨人の背後にまわった。


 腕を切り落とされたせいか、巨人の動きはさきほどよりもぐんと鈍くなっている。ましてや相手は空を自由に飛びまわるため的を得にくい。


 ……まるでトンボを捕まえようとするクマみてえだな。


 セナはそんなことを考えながら、マリアの氷柱が最大の大きさになるのを待った。


 いい位置だ。

 すぐに間合いに詰められるほどのこの距離。巨人の体に隠れて鳥人間にとっても死角になる位置。かと言ってマリアからは離れ過ぎず、彼女を守ろうと思えばすぐに飛んでいける距離。

 この絶好のポジションで、ただひらすら息を殺していた。


 ──できた!


 マリアの目がその時を告げたので、セナは動き出した。


 ゆらりと炎のような残像を残して飛び込んでいった先は、巨人の足元。

 その間合いに入り込む直前で高く跳躍すると、狙いは巨人ではなく、踏みしめる地面めがけて拳を叩き込んだ。

 すべての力を拳一点にだけ集中して叩きつけた地面は、木っ端微塵に吹き飛び、地割れを起こした。

 突然足場を失って、巨人の体はあっけなくバランスを崩し、膝をついた。



「まだだ!」



 氷柱の照準がずれては意味がない。

 セナは再び跳び上がるとダガーを抜刀し、真下からそれを突き上げて巨人の顎を突き刺した。



「今だ、いけ!」

「うん!」



 顎を固定され、上向きのままもがき苦しむ巨人の真上に、稲妻のような輝きを放ちながら氷柱が落下する。

 その瞬間、セナはダガーを引き抜いてそこから飛びのけた。


 グシャッ……ッ


 氷柱が巨人の脳天を突き刺し、真っ赤な鮮血が一面に飛び散る。

 巨人はびくりと体を震わせたあとは制止して、そのまま前に倒れた。

 ドォーンッと激しい音を立て地面にひれ伏したそれは、こときれて動かなくなった。



「ひぃ〜、痛そう」



 自分でやったくせに、マリアはぶるっと体を震わせていて、セナは小さく苦笑した。


 だが、まだ終わりではない。


 セナとマリアは同時に空をあおいだ。

 三階建て家屋ほどの高さから見下ろす鳥人間、リヴァーレ族。今度はそちらを相手にしなければならない。


 セナは思った。

 正直なところ巨人よりもこちらのほうが厄介であると。空を操り、自身と同じく素早さに長け、かつ、攻撃の殺傷能力が高いときている。

 そして攻撃一辺倒ではない、あの奇妙な様子……。


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