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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十七話 六つ目の巡礼
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セナの変化

 

 階段はまだ続いているようだ。

 これはひたすら下っていくのは骨が折れるだろう。セナの階段すっとばし作戦は正解だったかもしれない。

 ……まぁ、やろうと思ってもなかなかできることではないが。


 そう考えているところにセナがまた光を要求してきたので、マリアは素直に従って光を放った。

 意味もわからずに放った先ほどとは違って、今回はなるべく彼がトラップを見やすいように大きな光を作り、ゆっくりと降下させた。


 セナがまた壁やら階段床やらを確認して、石を(おとり)にトラップを発動させていく。

 その横顔を黙って眺めながら、マリアは一週間前の彼とはずいぶん様子が違うなぁと感じていた。


 自分の知っている彼は、ひとつ前の巡礼では後先考えずに台座まで歩いていたし、良くも悪くも目立つ動きで敵を引き付けていたし、そう、とにかくみずから全力で危険の中に突っ込んでいくスタイルだったと思う。


 だが今の彼はどうだろう。

 事前にトラップに気づき、石を投げて試しに発動させてから安全ルートを確保するという慎重さが身に付いて、だけど今までのように大胆に飛び降りていくダイナミックさは変わらない。

 言うなれば持ち前の「動」のうごきに「静」が加わったのだ。



「あ、そうか」

「あ?」

「猿がヒトに進化したのね」

「……。よくわかんねえけど、俺に対してものすごく失礼なことを考えてるのはわかった」



 セナをまじまじと観察していたら、じとーっと半目を向けられてしまった。

 だがマリアはその目にとびきりの笑顔で返した。



「そんなことないよ。もっと頼もしくなった」

「……」

「これなら試練もラクショーだね。セナがいてくれてよかった!」



 聖女としてまったく役に立てないのは悔しくもあるが、とにかくさっさと儀式ができればそれでいい。騎士がいるだけでこんなに巡礼がスムーズになるのかと実感し、マリアは喜びにぐっと両拳を作った。


 その様子を見て、セナは「くっそ」と深く切実にうなだれるのであるが、マリアはその理由を知るはずもなく「ほら、続き続き」と、彼を急かすのだった。




 その後もうまい具合にトラップをかわしながら階段をおりていく。

 やがて階段に終わりが見えて、マリアとセナは最後の数段を残したところで立ち止まった。



「ドアだな」

「ドアだね」



 ドアである。

 階段の先、目の前にはなんの変哲もない木造のドアがひとつ、さあお入りと言わんばかりに二人を待ち構えていた。


 トラップをあらかじめ確認できた今までとは違って、この先の見えないシチュエーションに二人は警戒を高めた。

 とりあえず丸いドアノブに向かって石を投げてみれば、それはコツンと当たって床に転がり落ちる。

 どうやらここに仕掛けはないらしい。



「とりあえず俺が開けるから、おまえはここで待ってろ」

「うん。でも気を付けてね、無茶しちゃだめだよ」

「へいへい」



 一週間前までの無鉄砲で無様だった自分のイメージは、なかなか払拭できないらしい。

 セナは小さく苦笑しながらドアの前に立った。


 ギンの家に二度目の訪問をした時のことを思い出し、いつ何が出てきてもいいように神経を集中させる。


 人差し指でツンとドアノブをつついてみても、反応はなし。

 じっとしていても(らち)があかないので、覚悟を決めてドアを押し開けた。


 そこから一歩、足を踏み出す瞬間。



「!」



 風が動くのを察知し後ずされば、真上から大きな刃が落下してきて、激しい音とともに地面をえぐった。

 断首刑で用いられるような大きなそれは、ドアのすぐ奥、ちょうどセナが足を踏み出そうとした場所で静止している。

 あの時に後ずさらなければセナの体は今頃、縦に真っ二つになっていただろう。



「……セーフ」



 ふー、とゆっくり息を吐き出せば、同じように安堵したマリアのため息を背中に聞いた。


 改めてドアの奥を確認する。

 中は階段と同じく石だたみの壁で囲われ、蝋燭の灯りが中を照らしていた。

 二十畳ほどの小さな小部屋に家具はひとつもなく、中央の床に鉄の宝箱があるだけ。


 セナはとりあえずマリアを呼んで、ドア越しに部屋を覗き込んだ。



「あの箱があやしいな」

「とりあえず部屋に入ってみる?」



 マリアの問いかけに応えるように、セナはまた石を投げて危険がないかを確かめた。

 壁、床、天井、宝箱。どれもトラップは発動されないようだ。


 床に転がる大きな刃を飛び越え、ひとまずセナが中へと足を踏み入れる。あたりを十分警戒しながら宝箱のもとへ歩み寄っても、やはりトラップはないようだった。

 マリアもおそるおそる近づいて、二人で宝箱を見下ろす。


 散々トラップを仕掛けられてきたので過剰に警戒してしまったが、宝箱に触れても何かが起きる気配はなかった。

 宝箱に鍵はなく、蓋を上に開ければ中には黒く濁った聖石(せいせき)が一つ、丁寧に置かれていた。

 油断したところにトラップが、というのが定番なので、やはりここも先陣を切ったのはセナだ。


 そこで、驚くべき事態が起こった。


 セナが黒く濁った聖石を持ち上げたとたん、石は太陽のように明るく輝き、部屋全体を真っ白に染め上げたのだ。



「うわっ!?」

「きゃっ」



 あまりのまばゆさに目も開けていられず、二人は目を細めた。セナが慌てて聖石を手放すと、それはカツンと音を立てて床に転がり、輝いていた光は一瞬のうちに消え去った。



「なんだ、今の……」



 通常の暗さに戻った部屋に、セナの戸惑う声がひとつ。

 マリアは首を傾げながら、今度は自分がとばかりにその石を拾いあげ……



「うそ」



 と、息を飲んだ。



「ほとんど、浄化されてるわ……」



 彼女の手におさまった聖石はさきほどまでの濁りが嘘のように消えかかり、本来の透明感をうっすらと滲ませていたのだった。








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