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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十七話 六つ目の巡礼
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待ち受けていたのは


 ナイフが地面に転がったのと同時に、教会脇の茂みがザザッと動いた。



「なんでしょう……!?」

「組織の仲間がいる」

「えっ?」

「全員教会へ入れ。早くしろ!」



 雨でけぶる白い視界に、真っ黒な影が近づいてくるのが見える。標的を自分に向けるため、ジャックは一人、そこへ向かって走っていった。

 その影は高く飛び上がるとまっすぐにジャック目がけて剣を振り下ろした。


 ガキンッ!

 剣と剣が重なり合う音が雨の音に混じる。

 


「おまえは……ジャック!?」



 男の声とともにすぐにその影は後ろに飛び退き、ジャックと対峙した。

 ジャックと同じく黒いフードつきのマントを被っていることから、彼の言う通り組織の人間なのだとわかる。

 その男はなぜ仲間であるジャックがここにいるのか、戸惑っているようだ。



「ジャック、お前なぜここにいる!?」

「子どもを保護して送ったところだ。お前こそ、この教会に何の用だ」

「教会を見張っていた。ミランシャ皇女が聖女とともにいるらしいと、帝国側から情報が入ったんだ」

「なるほど」



 ジャックの頭の中で、三頭馬車に乗った官僚もどきの男の顔が思い出された。

 あの男は帝国側の人間だったため、自国にミランシャ皇女のことを報告したのだろう。

 だが帝国側はへたに他国の教会へは手を出せない。シグルス側と交渉を経由しなければならないため、人を送るのにも時間を要する。

 もたもたしている間に情報を聞きつけた組織の人間が、帝国よりも先に各地の教会を見張っていたというわけだ。

 


「ジャック、そこにいるのはミランシャ皇女じゃないのか」

「違う。ただの知り合いだ」

「知り合い? あやしいな」



 男はフードの下からミサキをまじまじと凝視した。

 ジャックはその視線をふさぎ声をあげた。



「クリン! 聖女が風邪を引くだろう、早く中にいれてやれ!」

「! はい!」



 その声に弾かれたように、クリンはミサキの手を取って走り出した。



「待て!」



 男の声を背後に聞く。と同時に、剣と剣がぶつかる金属音が響いた。

 ジャックが男を止めてくれたのだとわかった。



「なぜ止める!?」

「言ったろう、ただの知り合いだ。見逃せ」

「嘘をつけ! おまえ、組織を裏切る気だな!?」

「違う!」



 言い争う声を後ろに聞きながら、クリンは教会のドアをドンドンドンとノックする。

 背後で剣と剣が重なり合う音を聞きながら、おそらく時間にしてみれば数秒、とてつもなく長く感じたその数秒を待てば、ガチャッとドアが開いた。

 中の者へ説明するよりも先に、クリンはマリアとミサキを中へと押し込める。



「待てガキども!」

「やめろ!」



 自分も中へ入ろうとして、つい、ジャックのことが気になって足を止めてしまった。それが失敗だった。

 振り返ろうとしたとたん、くらりと目眩(めまい)がして、視界が歪む。



「う……!」



 刹那、背中に衝撃を受けた。と同時に激痛が走って、ベシャッと膝をついてしまった。



「クリン!」

「クリンさん!」

「くそっ」



 マリア、ミサキ、ジャックの声が同時に聞こえる。

 そのあとで剣が交わる音が響いた。


 どくどくと脈が早くなり、背中がじわりと濡れていくのがわかった。激痛に顔を歪めながら、おそらく刃物が突き刺さったのだろうということを冷静に理解する。

 痛い。痛い。だが、今はこの子たちを中へ!



「セナを呼んで早く儀式を! 絶対にドアを開けるな!」



 二人を中へ突き飛ばし、クリンは全身の力を振り絞ってドアを閉めた。

 ドアの奥から「クリンさん、クリンさん!」と、ミサキが乱暴にドアを叩く音が響いたが、クリンはドアへ寄り掛かりその場に座り込んだ。

 痛みに顔をしかめながら前を向けば、ジャックと交戦しながらこちらを睨んでくる男と目が合った。



「絶対……中には入れてやるもんか」



 不敵に笑って見せれば、その男の目がぎろりと光った。

 雨に濡れた地面に、赤い血が流れて広がっていく。クリンはぼうっとする頭でそれを見つめながら、弟の帰還をただただ願った。





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