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第二話 罪悪 side秋


 ほら。驚いてる。目を見開いている。

 引くだろ? ()()()()()()()()なんてさ。


 走ってきたからか、夏子は頬を赤く染め、口から乱れた息を漏らしていた。何を言えば良いか戸惑っているのだろう。視線を泳がせ、聞き取れない程の小さな声で何かを呟いている。


 ……もう、言ってしまった。後戻りは出来ない。


 呆然と立ち尽くす夏子に背中を向け、家へと向かう為に先の道へと進み始める。


 じゃあな、夏子。


 姿の見えない彼女に心の中で別れを告げたその時、後ろから腕を再び強く掴まれた。後方に蹌踉(よろ)めきつつ振り返ると、息を大きく乱しながら真っ直ぐな目で此方を見つめる夏子の顔が──


「秋! 最後にチャンスを頂戴!」


「……は?」


「今度の日曜日にデートしよう! もしそれで秋が心変わりしなかったら、諦めるから!」


「えっ、ちょっと」


「待ち合わせ場所は、一番最初にデートしたところ! 私、待ってるから!」


 夏子はそう告げると、そのまま俺の先を走り始めた。一つに縛った黒い髪を揺らし、制服のスカートを(なび)かせながら走るその姿。段々と小さくなっていく夏子を見つめながら、呆然と立ち尽くした。








 夏子と出会ったのは中学一年生の時。


 当時から元気が取り柄だった夏子は運動神経が良い反面、お世辞にも頭が良いとは言えなかった、つまり馬鹿だったのだ。

 中学レベルの勉強でひぃひぃ言っている彼女が何となく無視出来なくて、同情心から勉強を教え始めたところ、気付けば懐かれ始めていた。終いには中学一年生の終わり頃には夏子から告白された。断った。()()()()


 夏子はしつこかった。一度フラれた位ではめげずに、二度、三度、四度、五度……何回も何回も告白してきた。結局根負けしたのは俺の方。中学二年生半ばで付き合い始めることに。

 夏子は凄く美人と言う訳ではないが、愛嬌があって、笑顔が可愛い。そして何よりも努力家だった。中学では最下位レベルだった学業成績も、俺と同じ高校に行く為にと必死で勉強を頑張っていた。そして無事努力が実り、同じ高校に入学。高校でも彼女なりに勉強を頑張り、俺と一緒にいる時も笑顔を絶やさないようにしていた。

 

 ……結論から言おう。別に俺は夏子のことが嫌いになった訳ではない。夏子のことは好きだ。普通に大好きだ。可愛いし、愛しく感じる。手だって繋げる、抱き締められる、キスだって出来る。

 ……でも。無理だ。その先にいけない。俺は夏子でもダメなんだ。無理なんだ。




 だから、俺は夏子を裏切った。

 俺には、夏子と一緒にいる資格は無い。

 此れは、神様が俺に下した正当な罰だ。








「秋! おはよう!」


 日曜日を迎えた今日。


 都内の遊園地の前のベンチに座る俺の前に、空色のワンピースを着た夏子が現れた。


 凄い。まさかデート場所だけじゃなくて、服装まで当時に合わせてくるとは。何を考えてるのかな、この子は。


「良かった。来てくれたんだね」


 夏子は頬を赤く染め、息を乱しながら目を細めて笑う。彼女の蟀谷(こめかみ)にはうっすら汗が滲んでいた。


「まぁ。最後だし」


 (わざ)とぶっきらぼうに答える俺に夏子は大きく首を横に振ると、俺の手にそっと触れた。余りにも細い手の感触に、思わず自らの手を引っ込めそうになる。


「……最後だから、いい?」


 視線を持ち上げて俺を見つめる夏子。


 深い溜め息を吐き、仕方無く手の甲に添えられた夏子の手を握り締めた。同時に夏子の顔色がパアッと明るくなる。


「じゃ、行こうか」


「うん!」


 そのまま手を握った状態で、夏子と共に遊園地のゲートへと向かう。暑さのせいなのか、夏子の手は酷く熱く、汗が滲んでいた。



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