男の娘のチュートリアル
ライトは最初の仲間を手に入れた。
その子と噴水の端に座りながらパーティーの設定などをしている。
「ライトさんとスペードのパーティー結成にはこちらから申請しますね」
ライトより三日早く始めたスペードは優しく教えてくれている。
そして代わりに操作もしてくれる。
自己紹介はしてないけど、フレンド申請やパーティーの申請とかで見えたので、そこで覚えた。
スペードが操作してくれてると、ライトにはさっきの一件で注目し始めたプレイヤーの目線が気になった。
特にギルドから出てくるようなプレイヤーは全員一度くらい視線を向けてから何処かに行く。
男の娘がいきなりやりすぎたから目立ったのかもしれない。
そう思いながら辺りを見てると、スペードが操作を終えて声をかけてきた。
「ライトさん、終わりましたよ」
そう言われてハッとなって操作画面に目を移した。
スペードの言うようにパーティーの結成が完了していた。
パーティー名は《男の娘パーティー》になっているが、色々と任せたから文句は言えなかった。
「これからどうすればいいの?初心者だから分からないんだけど」
「なら、早速森に行きましょう。そこでこのゲームの世界について説明を聞けますから」
そう言われてライトは従うことにした。
先にプレイしてる人が案内してくれるのは楽だから、反発せずに言うことを聞くのが正解だ。
それで手を引かれて広場から西に向かって走らされた。
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森の入り口に着くと、進むためのチュートリアル要員が待っていた。
スペードはもう聞き終わってるからと一足先に森に入ると言って門を通ってしまった。
それを見送るとモブが説明を始めた。
「それでは、私ことアリアが説明させていただきます。ちなみに、私達NPCには成長速度の遅いAIが搭載されています。馬鹿にしてると痛い目を見ますよ」
彼女はいきなり笑顔で他のNPCを見下していたライトに警告した。
ライトはこの言葉で街中のNPCは監視役でもあると直感した。
つまり、さっきの脅しみたいなことをあまりすると運営に危険なプレイヤーとして通報するつもりなのだ。
この話だけでライトは反省した。
「では、説明の内容に移りますが最初に言われたようにここは自由です。広大なフィールドには魔物とプレイヤーが仲良く暮らしてるエリアもあります。それ以外にもNPCとプレイヤーを利用して村や町を作る人もいます。そうでなければダンジョンに挑む人もいます。イベントがなければ中央に集まらずに大抵は外で自由にしています」
本当に色々出来るらしい。公式の説明でそう言ってるのだから。
まだまだ説明は続く。
「次の説明ですが、この世界は13人の魔王がダンジョンを作って中心以外のエリアを支配しています。地図は後で配布しますが、ダンジョンをクリアしない限りエリアは開放されません。しかも、ゲームクリアにはダンジョンの攻略が含まれますが、戦闘狂でもない限りやらないので平和主義者が多ければ先に進みません」
なるほど、自由だけど制限がかかってるわけだ。
魔王の作ったダンジョンを攻略すればこちら側は先に進めて攻略要素をクリアできるわけだ。
戦いたい人用にそういう目標を立てたのか。
多分これからアップデートでさらに細かいダンジョンとかも増えるんだろう。
「ちなみに、まだダンジョンは誰にも攻略されていません。ボスモンスターなどが行く手を阻んでいるので、それが原因でダンジョンにすら誰も到達できていません」
マジか。すでに邪魔者が居るとなると、手前で鍛えてからでないと勝てないのか。
てか、まだ説明は続くみたい。
「その戦闘や生活にはスキルが役に立ちます。それは魔力を消費するので魔法と呼ぶ決まりになっています。武器や防具はモンスターから出る素材で作ってもらい、魔法も獲得しながらレベルを上げます。うまくそれらを利用して生き残ってください。それでは説明を終わります。戦いは実戦で覚えてください」
ようやく説明が終わったけど、なんか最後に聞き捨てならない言葉が聞こえた。
まぁ、色々と分かったから説明してくれたアリアさんに頭を下げてから旅立った。
AIが搭載されてるのだから人と同じように扱うべきだろう。
そんなアリアからライトが見えなくなったところで静かに呟いた。
「これは仕事じゃないから言えなかったけど、種族があんなことになってるなら今後のために上に報告しよう」
意味深な言葉を残してアリアは門の管理人部屋に戻った。
そこからゲームの報告役としての仕事をした。
複雑でデータが膨大なこのゲームはこの報告役のある程度自由に動くAIに助けられている。
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森に入ったライトは少し歩いてスペードの元にたどり着いた。
けど、数分ぶりに再会した仲間に少し引いた。
なぜなら、スペードと再会したら瞑想してモンスターに囲まれていたからだ。
これを見た他のプレイヤーさんは不気味に思っただろうな。
「えっと、スペード、終わって来たよ」
そう声をかけるとピクッと目をつぶったまま反応した。
そこで、瞑想から戻って目にもとまらない速さのナイフで20体の小動物や虫の雑魚を切り倒した。
たった三日でかなり差が付いてるようで、同じ初期装備でも勝てる気がしなかった。
ちなみに触れてこなかったが、ライトは黒髪のポニーテールでスペードは茶髪のセミロングだ。
その髪を揺らしてスペードは敵を蹴散らして立ち上がった。
「お疲れ様です。まずは小銭稼ぎと経験値稼ぎをしましょう」
「いやいや、ちょっと待ってよ!僕は初心者だからまずは魔法とかを教えてよ!」
「そういえばあそこでは教えてくれませんでしたね。なら、僕がちゃんと教えましょう」
聞けばスペードは教えてくれる。
超初心者にはとてもありがたいことだ。
でも、近くの切り株に腰掛けるのはちょっと怖い。
戦闘経験なしのライトはもしかしたら背後からの攻撃に反応できないかも知れない。
まぁ、そんなことを考えなくても強いスペードが居れば安心か。
そう思ってるうちにスペードがさっき倒した奴らのアイテムを回収し終えて座って話し始めた。
「さて、それじゃあ教えますね。ステータス!マジック!」
そう言うとスペードの目の前に画面が現れた。
ライトもそのまねをして画面を出した。
その画面を見比べると、ライトは空なのにスペードは20個くらいがずらっと並んだので、差がこれでも分かった。
「この画面には使える魔法と耐性とエンチャントが並びます。僕は今のところこれしかありませんが、ライトさんと一緒に増やすつもりです」
スペード
Lv6
使用可能な魔法
〈完全集中〉
〈瞬殺斬り〉
〈能力捕食者〉
〈毒耐性Ⅲ〉
〈火炎耐性Ⅱ〉
〈水中呼吸Ⅳ〉
〈水刃〉
〈脚力上昇付与〉
〈炎熱付与〉
〈猛毒精製〉
〈毒針の乱射〉
〈影入り〉
〈無音化〉
〈静かな死〉
〈暗視〉
〈死ぬか生きるか〉
〈暗殺者〉
〈電撃耐性Ⅲ〉
〈雷鳴の剣〉
見せてもらったけど、説明を聞く前から狩りに特化してるのが分かる。
これなら雑魚をすぐに倒せるのは当たり前だろう。
そんなスペードが優しく魔法の解説をしてくれようとしたが、ライトがちょっと差に絶望したので聞くのをやめて自力で勉強することにした。
それにしても仲間がゲーム発売から1週間後で三日しかしてないなら、今の実力だけなら高ランクにいるのかも知れない。
ライトも頑張らないといけないと思った。