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後編

   

 賑やかな、昼間の街中まちなか

 駅前の横断歩道を、OL風の女性二人組が、おしゃべりしながら渡っている。一人は帽子の下からチャーミングな巻き毛が覗いている女性で、もう一人は、セミロングの黒髪と赤い上縁トップリムの眼鏡が特徴的な女性だ。

「ねえ、こんな話、知ってる? こういう人混みの中で、眼鏡を外しても見える人がいたら、それって幽霊なんですって」

「はあ? 何それ?」

「幽霊って目で見てるんじゃなくて、実際には『心の目』みたいなもので見るから、視力は関係ないんですって。だから眼鏡がある時も無い時も、同じように見える、って話」

「ああ、『外しても見える人』って、そっちの意味か。……それで? 私に試してみろ、と? 今ここで?」

「そう! ほら、私の視力、眼鏡なんて使うほど低くないから、自分じゃ実験できないし」

「いやよ! 外したら私、本当に何も見えない、ってレベルなんだから。それに、今ここで幽霊なんて見つけちゃったら、それこそ大変でしょう?」

「それもそうか。ハハハ……」

「やめてよね、そういう冗談」

 二人は談笑しながら、僕たちのすぐ横を素通りしていく。それこそ肩がぶつかりそうな近くを、特に何も気にせずに。

 おそらく、僕たち二人のことなんて、見えていなかったのだろう。ならば「眼鏡を外したら幽霊を見つけるかも」なんて話、杞憂に過ぎない。最初から見えている場合にのみ、眼鏡の有無で、幽霊だと確定するのだから。


 一ヶ月前のあの夜。

「霊である私に、あれほど熱い視線を向けてくれたのだから……。あの時点で、あなたは私の、運命の男性ひとに決まったのよ」

 そんな理屈を振りかざして、彼女は僕に取り憑き殺した。僕まで幽霊にしてしまった彼女の理屈。いや、もう本当に、僕の都合を無視した一方的な理屈だった。

 あの夜以来、僕は成仏も出来ずに、この場所に――彼女と初めて出会った場所に――縛られている。殺された場所とは違うが、これも『地縛霊』ということになるのだろうか。


 僕と腕を組みながら、僕の横で嬉しそうに、ずっと笑顔を浮かべている彼女。赤いワンピースも長い黒髪も素敵だし、幽霊でさえなければ、僕だって幸せなのだが……。

 最近、ふと考えてしまう。

 もしも僕たち二人を認識できる人が現れたら、僕は彼女から解放されるのだろうか。その人に代わってもらえたら、僕は成仏できるのだろうか、と。




(「片眼の死角」完)

   

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