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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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エリザベス女王と『R.U』 1

今から二年前の某月某日、『R.U』所属のメーカーブランド『LOVE.RED』に衝撃が走った。


「チーフ、お電話です。」

「誰から~?」

「イギリス大使館ですって。」

「へっ!? 今忙しいんだから冗談は止めてよ。」

「そう思うなら直接言ってくださいよ~。」

「むっ、そう来るか。ハイハイ分かりましたよー。モシモシ、馬飼ですが。」


「初めまして、馬飼さん。私はマーガレットと申します。お忙しいところ申し訳ありませんが、女王陛下のお召し物のデザインを依頼したいので、ぜひお願い致します。」

「え~と、JOMO青果さんですか?」

「違います。」

「除毛経過さん?」

「違います。」

「お嬢平家さん?」

「違います、女王陛下です。わざと間違えてますね?」

「バレました? あの~女王陛下ってエリザベス女王のことですか?」

「女王陛下と言えば、我がイギリスのエリザベス女王陛下しかいらっしゃいません。」


「えーーーっ!!」




「というわけなの!律姉ちゃん!」

秘書室のモニターの中で里奈が喚いていた。


「ハイハイ落ち着いて、里奈ちゃん。それは分かったから、もう少し詳しく話して頂戴。」

「え~とね・・・」


エリザベス女王は今度の晩餐会に着ていくドレスで悩んでいた。

もちろん女王ともなればお抱えの王室デザイナーは何人もいるが、同じデザイナーがデザインしたドレスには少々マンネリを感じていた。

そこで女王は、女官のマーガレットに新たなデザイナーを発掘することを命じる。


女官マーガレットは『ジャパニーズアニメ』が好きな大の日本贔屓で、日本文化を知るために夜な夜な日本のサイトを覗いていた。


(陛下はなぜ私に命じられたのかしら?もしかしたら東洋のデザインに興味がおありなのかも・・。)

マーガレットが日本贔屓なのは有名で、女王がそれを知っていてもおかしくない。


(もしそうなら、やっぱりあそこがいいよね。)

マーガレットの脳裏に最初に浮かんだのが『LOVE.RED』というメーカーブランドだ。


LOVE.RED のデザインは「ドラゴンレッド」と名付けられたオリジナルカラーをワンポイントにあしらったものが多く、若者向けというよりシックなデザインを好むマダム向けの新鋭ブランドで、最近になって頭角を現している。


マーガレットはイギリス大使秘書に日本訪問を打診した後すぐに来日し、先日のLOVE.REDへの電話となった。


「なるほどね、事情はよく分かったわ。これは主様のご裁可が必要ね。」

「わー!主様にお逢いしたーい!本部へ行っていい?律姉ちゃん。」

「まだ来ちゃダメ。主様にお話しするから30分後にまた連絡して。」

「ぶーっ。分かったわよ。」

とは言ったものの、すでに里奈が本部出張のための準備を終えていることを、筆頭秘書は難なく見抜いていた。


「ふむ、こっちへ来なくていいと言ったところで、もう遅いのだろうな。」

「はい、主様。あの子はもう新幹線に乗っていることでしょう。」

「いくらなんでも、そりゃ早すぎじゃないかね?」

「私ども従は主様にお逢い出来るかも、と分かった瞬間、お逢いするための行動に移ります。もしダメとなれば引き返せばよいだけのことですので。」

「お前もかね?律。」

「はい。もちろんですわ、主様。」

「それじゃあ仕方ないな。よし、では東京駅に里奈を迎えにいこう。車で行くから蘭を呼べ。」

「ウフフ、嬉しそうですね、主様。」

「そりゃ嬉しいさ。従に逢えることを嬉しく思わない主がいるかね?」



御堂 蘭に運転させ、赤斗と律が乗った車は東京駅の地下駐車場に入った。

車を降りて地上の中央改札口に向かうと、改札を出た所で手を振りながらピョンピョン跳ねている少女がいた。


「わーい!主様ー、お姉ちゃーん!」

「こらっ、こんなところで主様なんて言ったらダメだろ。」里奈に近づいて赤斗は叱った。

ただでさえ身長185の赤斗が歩くと目立つのに、ハーフの律と蘭を左右に侍らすと目立つどころじゃない。

そして極めつけなのが、見ようによっては小学生に見える里奈が「主様ー!」なんて叫んだらまずアウトだろう。

そう、里奈は童顔で小柄(145センチ)で致命的に「ペタンコ」なのだ。


「よく来たな、里奈。」

「里奈ちゃん、いらっしゃい」

「よっ、里奈っち。」

三者三様に再会の挨拶を軽く交わし、里奈を乗せた車は本部へと向かった。



「ところでアイツは何だ?」と、目線を助手席に向け、赤斗はおもむろに律に尋ねた。

「アイツって・・、颯ですが?」

「それは分かるが、なぜ颯がここにいる?おい、颯」

「はい!主様。ご奉仕でしょうか?」嬉しそうに颯が答える。

「アホ、そこから何が出来る。てか、なぜお前が車に乗っている?」

天才脳外科医の南雲 颯をアホと呼べるのは、世界中で赤斗しかいない。

「え~と・・、あの、その・・。」

世界的カリスマ女医が返答に困るのは、赤斗の問い掛け以外にない。

「久しぶりに里奈ちゃんに逢えたし、つい勢いで・・、その・・」


赤斗がさらに問い詰めると颯は白状した。

里奈が本部に来ることを蘭から聞いた颯は急いで東京駅に行き、そのままこっそり車に乗り込んだらしい。

「まぁ乗ったものはしょうがない。仕事はいいのか?」

「はい!何の問題もありません!」

(嘘つけ!)颯が論文作成で忙しいことを知っている全員が心の中で思った。

やがて『R.U』本部に到着した主従一同は会議室に入った。


「では、里奈ちゃんから聞いたことを整理して説明します。」

このような場では常に羽根川 律が司会進行役をする。


羽根川 律の説明はこうだ。

この度、イギリスのエリザベス女王が晩餐会に着るためのドレスのプレゼンを、メーカーブランド数社に依頼され、『LOVE.RED』にもプレゼンの依頼が来た。

選考方法は、各社それぞれ5点のラフデザインを提出し、その中で女王が気に入ったものがあれば、その後詳細な打ち合わせを経て本決定となる。


「ちょっといいかしら?」

一通り律の説明が終わると、颯が真剣な面持ちで律に訊いた。

(難しいオペに挑むときの颯はきっとこんな顔になるのだろう。)と従たちは似たようなことを感じながら、何ごとかと緊張した。


「何?颯。」

「ラフデザインが認められたら里奈ちゃんはイギリス本国に行くわけよね?」

「もちろんそうなるわね。」

「里奈ちゃん一人で?」


「LOVE.RED 創立以来の大チャンスだ。私も行こう。」

横から赤斗が言った。


「キャーッ!ホントですか!?」

里奈が嬉しくて悲鳴をあげる。


「御心のままに、主様。では筆頭秘書の私が随伴させて頂きます。」

「おぅ、通訳と身の回りの世話をよろしく。」

「かしこまりました。主様。」

律は心の中で盛大にガッツポーズをした。


「なら、親衛隊長のアタシもだね。」

いつの間にか親衛隊を作った御堂 蘭が名乗り出る。


「あなたはダメよ。ねぇ主様?」

律がすかさずチャチャを入れる。これ以上赤斗の世話をする人間を増やしたくないのが見え見えだ。


「ちよっと律姉!じゃあ誰が運転するのよ!」

蘭以外の従は全員無免許だった。


「しょうがないわね。では、イギリス行きは主様と里奈ちゃんと私と蘭の四人で決まりね。」



「ちょーーーーーっと待ったーーーーーっ!!!」

発狂した叫び声のする方を向くと、『般若 颯』が顔を真っ赤にして震えている。


「私の話を最後まで聞かずに、なに勝手に決めてるのよーーっ!」

「えっ?脳外科医の出る幕はたぶん無いから大丈夫よ。」

「そ、そんなことはないわ!主様が万が一ご病気やお怪我を召されたらどうするの。主治医の私が必要でしょ!」

「イギリスにも病院はあるし、私も多少の医学知識があるから大丈夫よ。」羽根川 律は医学博士号を取得していた。


「そ、そんなのヤダー!え~ん!」とうとう世界的カリスマ女医が泣き出す。

「泣くな、颯、私が女の涙に弱いのを知らないお前じゃないだろ。」

「だって・・・。」

「律はお前が共同論文の準備で忙しいことを知ってるからお前を外したんだよ。それに私は誰を連れていくかまだ決めとらんよ。」

颯の泣いた目が輝く。


「いいか、みんな。まだ選考段階ということを忘れるな。だが、もし選ばれたら、颯、お前のスケジュール次第では同行させるつもりだ。」

「ありがとうございます!一生懸命ご奉仕マッサージさせて頂きます!」

「だからまだ早いと言っとるだろ、このバカ。」


ここにいる姉妹たちは颯の「主様バカ」をよく知っている。

天才脳外科医と言われてはいるが、赤斗が絡むとなぜかバカになるこの颯を、姉妹のみんな大好きだ。


「それで律、タイムスケジュールはどうなっている?」

「はい、2ヶ月以内にラフデザインの提出、女王に選ばれたら1ヶ月後に最終打ち合わせとなります。」

「聞いたとおりだ、みんな。では里奈、頼んだぞ」

「はい!主様!」

「では、解散だ。さて、せっかくこれだけ集まったのだから、みんなで夕飯でも喰いに行こうかね。」

「はい!主様!」「わーい!」


主の言葉は魔法の言葉。

主の言葉で従は元気になる。


「里奈、何が食べたい?」赤斗が訊いた。

「里奈、お寿司がいいー。」

「そうか。律、久兵衛に電話してくれ。」


銀座に在る『久兵衛』は『R.U』御用達の店だ。

その久兵衛には関係者しか知らない特別室があり、ある事件以降『R.U』は好きなときに貸し切りで使用できた。


「それと、理子と瑠璃子にも声を掛けろ。」

第二秘書の佐々 理子は、秘書室で電話番をしていてこの場にいなかった。

飛田 瑠璃子は銀座に本店を持つスポーツクラブ『∞(インフィニティ)』の統括支配人だ。

彼女は竜崎 赤斗の初めての従で、律からの信頼も厚く、いわば長女的な存在である。


「ではちょっと早いが行くか。」

「はーい!」



久兵衛の特別室にはすでに瑠璃子がいた。

「主様、お先に失礼しています。」

「おぅ、さすがに早いな。」

「瑠璃姉ちゃん、お久しぶり~!」

「久しぶり!里奈ちゃん。あら?なぜ颯がいるの?アンタ忙しいんでしょ?」

「何よ!瑠璃姉さんまで!」

「アハハ!」

みんな笑った。



瑠璃子と律の三人で昔はよく呑んだものだ。

あの頃に比べたら従がだいぶ増えたな。でもまだまだ増えていくだろう。

そうしたらますます賑やかになるな。家族は多いほうがいい。


バカ騒ぎをする従たちを見ながら赤斗は思った。


その隣で、瑠璃子と律が赤斗に向かい微笑んでいた。




主従の宴はこれからである。


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