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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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竜崎 赤斗

竜崎 赤斗は平凡な人間だ。

確かに185センチの身長は人目を引くが、それは単に肉体的特徴に過ぎず生きていく上で必要な才能ではない。むしろ、高身長は生きていく上でマイナス面はあっても、プラス面はほとんど無いと言っていいだろう。特に赤斗のように中途半端に高い人間には。


「どうせ高くなるのなら2メートルくらいになればよかったのにな。そうすればアスリートとして成功したかもしれないだろ?」

いつだったか赤斗は従たちにそんなことを言ったことがある。


主のことを大好き過ぎる御堂 蘭は、

「日本人でそのくらいの身長はカッコいいです!それに主様はアスリートじゃなくても成功してるじゃないですか。」

と赤斗を慰めたのだが、


「確かにそうかもしれんが、成功したのは私の力じゃない。お前たち従のおかげさね。」

と赤斗は自嘲気味に蘭に言い返した。


「いえ、すべては主様のお力によるものですわ。私たち従は、ただ主様のご命令に従っているだけですから。」

赤斗に向けて羽根川 律が言った横で、佐々 理子が大きく頷いた。


「命令してるだけさ。」

赤斗はポツリと呟いたが、三人の従には聞こえなかった。


そんな赤斗に取り柄があるとすれば、当たり前のことを当たり前にすることが普通にできる性格ではないか。


「困っている人がいたら助けるのは当たり前。」

かつて南雲総合医療センターの院長、南雲 りくが佐々 理子の母親を手術したとき、そして赤斗が理子と初めて会ったときに言った言葉である。


人として当然のことを当然にするだけで、平凡な人間ながら竜崎 赤斗は幾人もの優秀な従を従えることができた。

ならば、これは誇るべき能力と言っていいだろう。



女性には優しくする、受けた恩は必ず返す、家族を大切にする、他人を傷つけない、感謝の気持ちを忘れない、等々、現代人に失われた心を持つ赤斗に、従たちは絶対の信頼を置き、そして安心感を得た。


男たちの欲望丸出しの視線や言葉に嫌悪し、人生を終わらせようと本気で思っていた矢先に赤斗に救われ、今後の人生を掛けて赤斗に尽くすことを決めた、羽根川 律。


父から受け継ぐはずの医療センターを他人に奪われる危機から救われた、南雲 颯。


医師に手遅れと言われた母親の命を救われ、命を懸けて赤斗に仕えることを誓った、佐々 理子。 


暴力団員たちに犯され、殺されかけたところを赤斗に救われた、御堂 蘭。彼女もまた、命を掛けて赤斗を衛ると誓った。


他の従たちも例外なく赤斗によって救われた過去を持っているのだが、竜崎 赤斗がこれほどまでに従たちの信頼と忠誠を得たのには、もう一つの理由があった。

それは、竜崎 赤斗を初めて見た時に感じる妙な違和感。すなわち『色』だ。


律のときは赤斗が赤く見えたと言い、佐々 理子が見たのは青だった。もちろん、颯も蘭も同様の体験をしている。

しあし、このことに関して赤斗自身まったく説明出来なかった。自分自身に色を見たことがなく、従たちの色を見ることもなかったからだ。


誰にも理解も説明も出来ないこの現象を「赤斗様の従になる資格」「主様への忠誠レベル」「主様好き好き度」などと、従たちは勝手に盛り上がっていたが、結局「私たちは選ばれし者」というところで落ち着いた。

ちなみに、好き好き度云々は蘭の言葉だ。


人は『奇跡』や『運命』など、説明出来ない事象にに弱く、そして魅了される。ならば、

『窮地を救われた奇跡+選ばれし者=運命の従者』

という意味不能な方程式が生まれたところで、誰にも笑えないだろう。


かくして、従たちは絶対の忠誠を誓う者の集団となるのだが、当の赤斗にしてみれば色は見えないし、やってるのは当たり前のことだけなのに、なぜか気が付いたら従が何人も出来てしまったと少々困惑していた。


だが、従にしか知らない第三の理由があった。

それは、竜崎 赤斗の『父性』だ。

年齢的に父親のそれに近いからかもしれないが、赤斗は絶対の安堵感を従たちに与えた。

御堂 蘭が赤斗に大好きと言うのは、小さな娘がパパ大好きと言うのと同じで、他の従たちも赤斗の背中を追いかけるのがとても幸せで、また嬉しかった。


竜崎 赤斗は平凡な人間だ。

しかし、従たちにとって赤斗は間違いなく英雄である。

従たちは英雄をいつまでも追いかけていたかった。

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