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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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竜崎 赤斗と佐々 理子 1

「それでは本題に入ろうかね。」


竜崎 赤斗に言われ、佐々 理子の緊張は一気に増した。


(やっぱり治療費の見返りに愛人になれって言われるのかな・・。)

そんなことを再び理子は考えが、当初に感じたほどの不安は感じなかった。


なぜなら羽根川 律と南雲 りくの二人を見たからだ。

この二人に比べたら、自分などその辺に転がる石ころと同じ。そんな女に、この竜崎と名乗る男は間違っても魅力を感じることはないだろう。なら、愛人にという可能性は低いはず。

理子はそう感じていた。


理子の容姿は言うなれば「中の下」で、かつ見事な幼児体型だ。そのおかげかどうか分からないが、理子は19歳にして未だ処女である。

もっとも中の下の幼児体型でも、一人や二人の恋人くらいいてもおかしくないので、実際のところは受験勉強とバイト、それに弟の面倒を見ることに忙しくて恋愛などしている余裕がなかった、といったところが妥当だろう。


だとしたら、この竜崎 赤斗と名乗る男の目的は一体・・・。



「まず決定事項から言おう。お母様の治療費、リハビリ費用の合計約400万円の内、治療費の300万円は無料にさせて頂く。」


「このことは、これから佐々さんに提案することとは無関係だ。つまり、今後リハビリ費用の支払いについてのみ君は考えればいい。」


「えっ!?それはどういうことですか?」

理子は当然の疑問を赤斗にぶつけた。


「つまりこういうことだ。君のお母様が運び込まれた病院と、南雲総合医療センターは医療提携を結んでいて、南雲院長は定期的にそこの医師達にレクチャーしていてね。」

「そして、たまたまその日はレクチャーの日で、君のお母様は幸運なことに、偶然居合わせた颯のオペを受けることができたというわけだ。」


そこまで聞いて理子が「あっ!」と声を上げた。


「お母様は南雲総合医療センターに運ばれていないのに、なぜ南雲院長からオペを受けられたのか?それに気付いたようだね。」


「しかし、幸運だったのは君のお母様だけじゃない。世界的な脳外科医である、颯の生のオペを間近で見ることが出来た医師達こそ、ある意味本当の幸運だったのさ。」

「そこで、お母様が運び込まれた病院の院長に掛け合って、治療費を無料にしてもらったわけだ。なにせ名医のオペを見られたわけだし、実際にお母様のオペをしたのは颯だからね。」


「以上が治療費300万円が無料になった理由だが、理解出来たかね?」


「はい、理解出来ましたが、その・・・、なんだか母がモルモットにされたようでちょっと複雑です。」


「その点は確かに申し訳ないと思ってる。だが、お母様の容態は一刻を争っていて、失神した君を起こして承諾を得る時間がなかったんだ。」


「佐々さん、竜崎会長がどれだけあなたとお母様のために動いて下さったのかわかりますか?」

とつぜん、いつの間にかソファーの上で正座をしていた颯が口を挟んだ。


なんの面識も義理も無い理子のために、わざわざ動いてくれた赤斗が非難されるのは、颯にとって許しがたいことであった。


「よせ、颯。自分が良かれと思ってとった行動でも、相手にとってそうとは限らないことを知れ。」

そう言って颯を叱った。


「いえっ!竜崎さんを非難するつもりはありません!命を救って頂き、治療費まで無料にしてもらったんですから!ただ、何人にも囲まれて見られてるお母さんのことが頭に浮かんで・・・。」


とうとう理子は泣き出してしまった。


「ん~、女の涙に弱いんだよ、私は。」

赤斗は心底困ったようだった。


「すみません。昨日からいろんなことが重なって、つい・・。」

涙ぐみながら理子は謝った。


「よしっ、お母様と君を悲しませたお詫びといっては何だが、これからリハビリ費用について話そう。君にとって良い話になれば嬉しいがね。」

赤斗は努めて明るく言った。


「泣きながらでもいいから、とりあえず話を聞いてほしい。」


「颯から聞いた話では、君は今回のことで大学を辞めないといけないらしいが、それは本当かね?」


「はい、多分そうなります。」


「差し支えなければ理由を聞かせて貰えないかね?もちろん強制ではないよ。」


理子は少しだけ迷った。

母を救ってくれた南雲院長は、どうやらこの竜崎と知り合いらしい。しかも、上下関係があるのは明らかで、おそらく院長と親しげに話していたモニターの女性もそうなのだろう。

院長からは当然だけど、あの女性からも溢れる知性を感じる。

その二人が慕っているだろうこの人なら、信用していいのではないか。

そう感じていた。


それに竜崎 赤斗という人間を目の当たりにしてから、不思議なことに院長を見る自分の目が変わっていることに気付いた。

なんていうか、家族を見ているような、そんな連帯感を今は感じていた。


少しだけ話すことを迷ったのは、竜崎に話すことによって、これからの人生がなんだか変わってしまう。そんな気がしたからだ。

だが、迷ったのはほんの一瞬で、理子は隠すことなく竜崎 赤斗に自分の想いを話した。


「母はこの先リハビリが順調にいっても、もう満足に働くことは出来ないでしょう。そうなれば、母の分まで働いて、家族の面倒を見なければなりません。」


「治療費はご厚意で支払わなくてもよくなりましたが、それでもリハビリ費用やら生活費のことを考えると、とても大学に行ってる暇も余裕も無くなりますから・・・。」

と、寂しそうに言った。


「なるほど、なるほど。ところでいきなりですまないが、君の大学での専攻は何かね?。君と話をして何となく理系のように感じたが。」


「はい。情報工学を専攻しています。」


「情報共有システムの構築とかどうかね?」


「はい、学んでいます。実はその方面の仕事に就きたいと思っています。」


「そうか、そうか。なら、ことは容易に運びそうだ。なぁ、颯。」


「はい、主様の御心のままに。」

ソファーの上で正座をしている颯が恍惚とした表情で答えた。


「では佐々 理子さん、私からの提案をこれから述べるのでよく聞いてくれ。」


「お母様に関する医療費の一切と、ご家族の生活費、そして、君の学費のすべてを私が無償で提供させて頂く。」


「えっ!?」


「ただし、その見返りとして大学卒業後は私の下で働き、情報共有システムの構築など、システム関連全般を担ってもらいたい。」


「ええっ!?」


「そして、ゆくゆくはシステム開発会社を立ち上げ、そこを君に任せるつもりだ。」


「えええっ!?」


(何を言ってるんだ?この人は!)


「どうだろう?悪い条件ではないはずだが。」


(悪いどころかどう考えても破格の条件じゃない!。もし本当なら愛人でもなんでもなってやる!)


壊れそうになりながらもなんとか冷静を保ち、理子は当然の疑問を口にした。


「な、なぜ、私なんかを?」


「簡単なことだ。私の下にそういった人材がいないからさ。」

あっけらかんと赤斗は言った。


「まぁ、聞きたまえ。私はいくつかの企業が集まってできた『R.U』という企業グループの会長をやってるのだが、どうもシステムやらITやらにみんな疎くてね、そこで、人材探しをしていたところに君が現れたってわけだ。」


「でも、システム開発を生業にしてる人ってたくさんいるじゃないですか。なのに、なぜ学生で初対面の私を?」


「それは、どう見ても君は困っているからさ。困ってる人がいたら助けるのは当たり前じゃないかね。」

「それに私も人材がいなくて困っている。だから君が私の下に来てくれたら、私も君も助かって皆幸せになる。違わないかい?」


なるほど、確かにこの人の言う通りだ。でも、私にそんな力があるかしら?


「私、期待に応えられる自信なんてまるでないです。」


「うむ。確かに自信満々でこられたら、逆にこちらも大丈夫かな?と思うけど・・・。ちょっと話は変わるが、最初に私を見たときに何か感じたことはなかったかね?」


「会長を初めて見たときですか?」


理子は初めて赤斗を見たときを必死に思い出す。


「そういえば、会長ご自身にというより、画面がちょっと変だったのを覚えていますが、あとは・・・。」


「変とはもしかして色のことかね?」


「そうですっ!色です!短い間でしたが、画面が青く見えました。」


「ほぉ・・・青く見えたかね。どうだ?律。間違い無さそうだな。」


「はい、主様。主様のお見立て通りでございます。」



筆頭秘書『羽根川 律』が、赤斗の問い掛けに答えた。



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