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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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そして世界三国志へ

眩い光がすぅっと収まると、そこにはいるはずのない数名のおとこ達が立っていた。

「うむ、こういう形でうぬらと逢うのも久し振りだの。」

「はい、我が君。おおよそ1900年振りぐらいかと。」

「孔明か。雲長に益徳、それに子竜、おっ、公祐までおるではないか。」

「ははぁ! ま、まさか大恩ある大君とこのようにお逢い出来るとは、子孫どもを動かした甲斐がございました。」

公祐と呼ばれた男は嗚咽しながら言った。

「うむ、知っておるぞ。大義であった。」

「おぉ、もったいないお言葉! この公祐、大君の御為とあらば犬馬の労を厭いませぬ。」


「さて、こうしておられるのも僅かの刻じゃ。孟徳と仲謀もすでに動いとる。雲長、益徳、子龍よ、またうぬらの力を借りるとことになるやもしれんのぉ。」

「長兄よ、力を借りるなどと長兄らしくもない。今まで同様命令してくだされ。」

「そうじゃ兄者。赤斗とやらになってから丸くなったようじゃの。ワッハハハ!」

「ぬかせ、益徳。元々ワシはこうじゃ。」

「左様です飛将軍。我が君は常に温和で優しいお方です。」

子龍と呼ばれた男が、髭面の男に向かって言った。

「両将軍よ、我が君はあまり刻がないと仰ったではありませぬか。その辺で収められよ。」

「これは失礼しました、軍師殿。」

「我が君。孫権は未だ足場が固まっておりませぬが、やはり曹操は着々と来るべき刻の為に準備を進めている様子。いつの時代も侮れませぬ漢でございますな。」

軍師と呼ばれた男が言った。

「さればよ、お前を彼の国へ赴かせようと考えたのだが、要らぬ厄介のために余の思惑が邪魔されたわ。」

それは某大学のことを指したのか。

「さて、そろそろ引き揚げの刻のようだの。うぬらとの束の間の逢瀬、実に嬉しかった。また逢おうぞ。」

「ハハァ!」

髭面の漢達は笑い声を上げながら、光の中に消えて行った。


「今のは光は何だったのか?」

赤斗が独り言のように言った。

「分かりません。部屋の中が輝いてから記憶がありません。」

律が不思議そうな顔をしていた。

二人の様子を見ていた楊貴婆が意を決して赤斗に言った。

「どうやらお話しする時が来たようですじゃ。大君、あなた様は───中華の大英雄、劉備 玄徳様でございますじゃ。」

ずっと秘密にしていたことをやっと話せた歓びに震え、楊貴婆が赤斗に告げた。

「劉備とはあの三國志の?」

「左様でございますじゃ。劉備 玄徳様ですじゃ。」

「信じられん。そんなおとぎ話みたいなことがあるものか。」

「あなた様の『竜』は『劉』が変わったものですじゃ。何よりワシらがあなた様を大君と崇めるのがその証。そして、あなた様の周りに人材が集まるその大徳の魅力も。」

劉備は人を惹き付ける魅力の持ち主だった。それが徳に依るものなのか、漢王の末裔に依るものなのかは分からない。

「私は楊貴さんの仰ることを全面的に信用します。」

律が言った。

「律、お前まで何を言う。」

「私もです、我が君。楊貴殿、私は諸葛 亮ですね?」

亮子が楊貴婆に訊いた。

「さすがは大先生ですじゃ。まさしくそなたは孔明先生。そして羽根川さん、そなたは彼の『美髯公』関羽大将軍様ですじゃ。」

「やはりそうでしたか。羽は備に未来永劫の忠誠を誓い、操に降ってどんなに優遇されても備の元へ還りました。」

遠い記憶を辿るような眼差しを赤斗に向けながら、律は言った。

「そうなると、瑠璃子姉さんは『燕人』張飛将軍となりましょう。これですべて納得出来ます。」

「チョウヒって誰?律ちゃん。」

三國志を知らない瑠璃子が訊いた。

「劉備、つまり主様に最初に仕えた二人の内の一人です。『桃園の誓い』が有名です。」

「そうなの? ホント私と律ちゃんそのものだね。もしかしてチョウヒのヒって飛田の飛?」

「そうです、瑠璃子姉さん。そして颯、あなたは趙雲将軍よ。南雲の雲は『常山』趙雲の雲ね。」

律が颯を見て言った。

「名前が関わったいるのか?」

「はい、主様。羽根川の羽もそうです。」

「それで楊貴殿のご先祖は?」

赤斗が楊貴婆に訊いた。三國志において『孫』と言えば『呉』を治めた孫権が最初に頭に浮かぶものだ。だが、孫権は劉備の配下ではない。

「はい、大君。ワシらのご先祖様は孫堅と申しますじゃ。文官として長くお仕え致しておりました。」

「そうでしたか。それは世話になりました。」

(孫堅? そんなヤツいたっけかな。)

赤斗は孫堅という人物を知らなかったし、自分が劉備と言われても未だに信じられなかったが、とりあえず頭を下げて礼を言った。

それを見た孫家の三人は、畳に這いつくばり額を擦りつけた。

「な、なんともったいないお言葉! 孫家はこれからも無上の歓びをもってお仕え致しますぅ!」

「分かったからそんな大袈裟はよしてくれ。にわかに信じられないが、これからも力を貸してくれ。」

「ハハァ!」

「瑠璃子やみんなもよろしく頼むよ。」

「ちょっと待った! 私も何とか将軍なの?」

蘭がワクワクしながら律に訊いた。

「御堂 蘭ねぇ・・ 思い当たる人物はいないわ。雑兵の一人かしら。」

「えー! みんなズルい!」

「蘭よ、昔は昔、今は今だ。現代のお前はもう立派に大幹部じゃないか。」

「それなら許す!」

「アハハ!」

部屋にいる皆が笑った。


「では大君、ワシら孫家から大君へのささやかな貢ぎ物を受け取って下され。」

「ん? 金なら要りませんよ。」

「金ではございませぬが、この先莫大な金を産むものですじゃ。」

「それを金と言うのではないか。」

「まぁまぁ、主様。とりあえず話しを聞こうよ。」

蘭が珍しくまともなことを言った。

「ん~、そなた、やはりワシの娘にならんかの?」

「イヤだ。」

赤斗や律が目を剥いた。

(やはりって、いつそんな話ししたんだ?)

「そうか、残念じゃのぅ。では麗舟、お話ししなさい。」

「はい、大叔母様。お初にお目に掛かります、大君。この度私どもウーフェイが開発しました次世代AIアルゴリズムの特許を、大君が支配されていらっしゃいますSynchronicityの名で申請させて頂けたらと存じます。」

「そ、それは大変だわ。」

Synchronicityの社長である佐々 理子から思わず声が出た。

「主様、これは億単位の話ではありません。兆単位の収益が見込めるビジネスになります。」

「どういうことだ、理子。」

「次世代AIは文字通り何十年後かの世界を想定し作られたアルゴリズムです。そのシステムをダウンロードされた機械は、限りなく人間に近づいた思考と行動を取ることが可能になります。たとえば、自動車に搭載すれば、完璧に近い自動運転が可能となります。」

「それを聞くと凄いな。だが、そうなるとますます私には要らんモノだ。」

「な、なぜでございますか?」

楊貴婆が慌てて言った。

「それを開発した人間から横取りするような真似が私に出来るわけがない。私は大徳というモノは知らんが、それなりに常識を弁えているつもりだ。」

赤斗がジロリと麗舟を見た瞬間、麗舟は青ざめ言葉を失った。劉備の怒りの混ざった眼差しを直に見てしまったからだ。

(こ、これほどのプレッシャーは初めてだわ。大叔母様から感じるものと本質的に違う威圧感だわ。)


「お待ちください、主様!。開発したのは私なの

です。だから決して横取りにはなりません。」

麗華が衝撃的な発言をした。

「どういうことだ? 麗華。」

「私がSynchronicityに入る前は中国共産党に在籍していたことは事実です。しかし、その前はウーフェイの人間としてシステム開発に携わっていました。その時に次世代AIアルゴリズムの基礎を開発しまたのです。」

「ということは───」

「次世代AIアルゴリズムは私が創ったモノであり、つまり主様のモノでもあるのです。」

「そうなる・・のか? いや麗華、それならばお前のものでもなく、所属していたウーフェイのものだ。」

社員が開発したモノの所有権は当然のことながら所属する企業が持つ。開発されたモノがいくら莫大な利益を産んだとしても、開発した社員にはせいぜい特別ボーナスくらいの恩賞しか与えられない。その代わり企業は開発費などを負担し、それなりにリスクを背負っているのだ。

「恐れながら申し上げます、大君。我らウーフェイは、以前より麗華を申請人として特許申請の準備を進めておりました。それは麗華が大君にお仕えする前からのことです。」

麗舟が気を取り直して言った。この辺はさすがに大企業ウーフェイの副社長だけのことはある。

「なるほど、主様にお仕えする以前より特許は麗華の名前で取得すると決まっていたわけですね。だから麗華はウーフェイを出て中国共産党へ移らなければならなかった。」

律が麗舟に向かって言った。

「おぉ、それがお分かりになるとはさすが羽将軍。一党独裁の中国で、企業が中国共産党より強大な力を持つことは許されませんので・・・。」

「なるほどな。中華は何かと複雑だと言った麗華の言葉を思い出した。ではSynchronicity単独ではなく、麗華と連名で特許の申請をして頂きたい。こういうモノは単独より連名の方が何かといい。どうかな? 楊貴殿、麗舟殿。」

「どのみち大君様のモノじゃて、ワシらに異存はありませんじゃ。」

「別に私のモノじゃないが、なら決まりだ。しかし、エリザベス女王のトラップといい、麗華は本当の天才なんだな。」

「恐れいります。これもご先祖様の、ひいては主様のおかげです。」

麗華が深々と頭を下げた。

「私は何もしとらんよ。それにしても楊貴殿、とんでもない人材を私の元へ寄越してくれた。改めて礼を言います。」

「あいやー! お止め下され。大君のお役に立てたなら、これに優る歓びはありませんじゃ。」

「ありがとう、そう言ってくれるのは素直に嬉しいものだ。ところで麗華よ、トラップで思い付いたんだが、そのアルゴリズムとやらにちょっとした細工をして欲しいのだが。」

「ご命令とあらば喜んで。それでどのような細工を?」

「うむ、それは二つある。一つは───」

「そ、それは・・・本当によろしいのですか? 大君は世界を敵に回すことになるかもしれません。」

麗華は背筋が凍りつくのを感じた。

「なあに、女王のトラップと狙いは同じだ。世界がもし私の敵になったときの保険だよ。」

「それならば承知致しました、主様。技術的には簡単ですので仰せのままに致します。」

話しを聞いていた律や楊貴婆は崇拝の眼差しを赤斗に向けた。そこまで先を見越して策を打つ自分の主が誇らしかったのだ。


「ではワシらは今夜にでも国へ帰りますじゃ。」

「何だ、もう帰ってしまうのか。慌ただしいな、楊貴殿。」

「ワシらのような人間はあまり日本にいない方が良いのですじゃ。」

「それもそうだな。では達者で、楊貴殿。」

「大君にお逢い出来て、ワシはもう思い残すことは無いですじゃ。いつまでもお達者でいてくだされ、大君。そして従者の皆様方。」


こうして楊貴と麗舟は中国へ帰って行った。

結局日本のマスコミが来日目的を知ることは最後までなかった。


楊貴婆が中国に帰国してより三ヶ月後、新野 新一が所属する『ジャパンテレビ』は、ある番組で特報を打った。

題して───『次世代AI アルゴリズムの開発に日本企業が成功!』

この特報に世界は驚き、アメリカは激怒した。

形の上では同盟国だが、実質は属国である日本に抜け駆けされたのだから面白くない。

面白くないで済むはずがないアメリカは、すぐに日本政府へ国際特許を無効にするよう圧力を掛けたが、これに中国が猛反発。EU連合もさすがに特許の存在意義を無きものにしようとするアメリカの横暴を放って置けないと判断し、中国に呼応してアメリカを批判した。

アジアとヨーロッパから痛烈な批判を浴びたアメリカはいよいよ意固地になり、開発途中であった次世代AIアルゴリズムを強引に完成させ世界に送り出したのだが、実質未完成であったAIアルゴリズムはすぐに欠陥が明るみになり、アメリカは完全にこの分野で信用を無くす散々な結果となった。


しかし、世界の盟主たるアメリカは、いやアメリカ人として転生した曹操 孟徳は、これを機に再び世界を統一するべき始動した。

アジアは竜崎 赤斗こと劉備 玄徳、ヨーロッパはエリザベス女王こと孫権 仲謀、アメリカはマイケル インデュラインこと曹操 孟徳。

この三人の魔人によって、世界は三つ巴の争いを展開することとなったのだった。



《第一部 完》

第二部はリクエストがあれば書きますが、誰一人からも無ければ第一部を以って完結とします。

とりあえずは今までありがとうございました。 幻斗

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