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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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騒動その後

防衛大学との騒動により休止していた『R.U』の人材募集が再開されることになった。

しかし、騒動は思わぬ事態をもたらしていた。

赤斗が会見をした際、その放送を見た人間の中に、赤斗に色を見たという者が新たに続出したのである。

さらに色を見た人間の中から、ぜひ『R.U』に入社したい、という問い合わせが本部宛てに数多く来たことにより、当初計画していた採用人数50名ではとても収まらなくなってしまった。

そこで、赤斗は採用人数を増やすことにしたのだが、現在の『R.U』では増えた人数を受け入れられるキャパがない。

ならばと、赤斗は会社を新たに設立することにした。

RUPラップ』と名付けられた新会社は、主に『R.U』の広告及び広報に携わる広告代理店的な役割を担う会社だった。

会社設立は決まったが、では誰をトップに置くかというのが課題となった。





「秘書の中でフリーなのは蘭だけか。」

羽根川 律は筆頭秘書であるから自分の元に置いときたい。佐々 理子はすでに『Synchronicity』の社長だ。新たに第四秘書となった諸角 亮子は、防衛大学副学長で兼業は不可能。となると残るは御堂 蘭だ。


「蘭、お前社長にならんか?」

退院して『R.U』本部に復帰した蘭に赤斗が言った。

「イヤです。」

即答だった。

「少しは考えてから答えるだろ、普通。」

「・・・・・・・イヤです。」

「わざとらしいぞ。」

「親衛隊長が護るべき人から離れてどうするんですか?」

自称親衛隊長が言った。

「んー、親衛隊長云々は置いとくとして、お前は社長って感じでもないしな。」

「となると今回応募してきた中から選ぶか・・。」


「主様、よろしいでしょうか?」

律が赤斗に伺った。

「何だ?お前がやるかね?」

「ご冗談を。主様も知ってる女性に広告代理店のトップに相応しい人材がいます。」

「ほぉ、そんな女がいたかな。誰だね?」

「真平 凜さんです。新一さんの局にいるアシスタントプロデューサーの。」

「あぁ、あのか。うむ、それは確かに相応しいが、本人にその気があるかだな。それと新一君の承諾が必要だ。」

真平 凜は新野 新一の部下と言ってもよかった。そんな人間を引き抜くことに赤斗は難色を示したのだった。

「はい、実は本人の履歴書と新一さんからの推薦状がすでにあります。」

「律は相変わらず私の先を読むな。しかも行動が早い。」

「秘書として当然です。」

「そういうとこなら、その真平君を社長として迎えよう。早速だが会社設立の準備を進めてくれ。」

「かしこまりました、主様。」


こうして『RUP』が新たに『R.U』に加わることになった。

広告代理店を新たに手にしたことにより、竜崎 赤斗はメディア戦略をさらに推し進めることが可能となった。


「それで、面接には亮子の顔合わせを兼ねてみんなで行こうと言ったが、今回の騒動で色々状況が変わったので、面接は私一人で行こうと思うのだが。」

「はい、蘭の病室で亮子の顔合わせは済みましたし、私は新会社の準備で、理子は孫叔母さん来日の為それぞれ忙しくなりますので残念ですが・・。」

律が赤斗一人で行くことを珍しくすんなりと許した。

「主様、アタシは?」

「お前は病み上がりだからしばらく大人しくしてろ。」

「ハーイ。それにしても主様、アタシの頭をカチ割った男と家族はどこ行ったんだろうね。」

蘭が傷の辺りを触りながら赤斗に訊いた。

「さあな、お前の仕返しが怖くなって夜逃げでもしたんじゃないか。」

(お前が知ってはいけないんだよ、蘭。)


蘭は血の気が多い分姉御肌でもある。血の気だけではレディースの総長を張ることは出来ない。その蘭が田崎一家の結末を知れば、必ず赤斗と自身を責めるだろう、そう考えた赤斗は蘭に内緒にすることにしたのだった。


(だが、お前のおかげで官房長官とコネクションが出来た。お前のおかげでな・・。)





一週間前───


竜崎 赤斗と小菅官房長官は料亭『一無庵』で密会していた。

一無庵は住宅地にひっそり佇む議員御用達の料亭で、国民やマスコミに知られたくない密談をする時によく利用される秘密の場所だった。


「竜崎君、ま、一杯。」

小菅が赤斗の盃に酒を注ぐ。

「ありがとうございます。長官もどうぞ。」

赤斗がお返しに小菅の盃に酒を注ぐ。

「いやぁ、この度は君のことをよく知らず、村山の言葉を鵜呑みにしたばかりに、あのような事になり誠に申し訳なく思っとるよ。」

小菅がぬけぬけと言った。

「官房長官。このような席を設けてもらい、また私の部下達を即時に釈放して頂いたことには感謝します。」

赤斗は頭を下げた。しかし、下げた頭を上げた時の顔は憤怒そのものだった。

「だが私や部下、そして村山学長や田崎が失ったモノに比べ、あなたは何も失っていない。これでは不公平過ぎやしないかね?」

ゴクリと小菅が唾を飲む音がした。

「わ、私も殺す気か?」

「それは私にではなく、田崎一家を拉致した人間に訊いたらいい。あなたは信じないかもしれんが、田崎に関して私はノータッチだ。だいたい公安庁に監禁されていた私がどうやって指示するんだね?」


小菅は今回の騒動の詳細をよく知らなかった。

国家機密漏洩を企んでいる男がいる、と村山に言われたから公安庁に赤斗を任意同行するよう指示しただけで、まさかエリザベス女王がテレビ出演し、村山や田崎があのような目に遇うとは夢にも思わなかった。

一体どんな魔法を使って田崎の手から逃れ、その家族まで拉致できたのか。どうやって村山を自殺まで追い込んだのか。

いや、ひょっとして村山は自殺じゃないのかも───

そんなことが可能な竜崎 赤斗とは一体何者なのか?初めて赤斗と会話した日から、小菅はずっとそのことを考えていた。


「官房長官殿、アンタ家族はいるのかね?」

小菅は赤斗の一言で心臓が止まりそうになった。

「ま、まさか田崎と同じ目に?」

「それは私が指示したことじゃないと言っただろう。───だが、止めることは簡単だ。」

「ど、どうしたら止めてもらえる?」

もはや小菅の心は敗者のそれと同じだった。


「村山学長亡き後、学長の席が空く。そこに官房長官殿の息が掛かった人間を後釜に据え、かつ副学長に諸角 亮子を任命してもらいたい。」

「たったそれだけで、あなたの家族は来年も春を迎えることが出来る。」

(こんな人質を取る様な悪辣な真似したくないんだけどなぁ。でも亮子の言う様に、これからはキレイ事ばかり言ってられんのも確かだ。)

「学長は何とか出来るが、副学長に在学中の学生、しかも女というのは困難だ。」

小菅は焦った。目の前の男は前代未聞の人事を行えと言う。だが、従わなければ家族の命が危ない。

「官房長官殿はご存知ないかもしれんが、戦略、戦術シミュレーションにおいて諸角 亮子に勝てる者は教官にもおらん。そして、前防衛大臣は女ではなかったか。」

辞職した前防衛大臣の稲垣朋子は、女性初の防衛大臣として話題を集めたが、度重なる失態で事実上更迭されていたのだ。

「女性活躍社会などともっともらしいスローガンを掲げる政府としては、諸角 亮子を抜擢すれば好都合じゃないかね。」

これがトドメだった。

「分かった、善処しよう。」

小菅官房長官はついに折れた。

「よろしいでしょう。諸角 亮子の卒業と同時に就任させてください。その結果を待ってあなたの処遇を別に考えます。」

赤斗はさらりと言った。

「私の処遇だと!?」

「諸角 亮子が副学長に就任されることにより、あなたの家族の安全は保証されるが、長官、あなたの安全まで保証されるとは言ってない。」

「言ったはずだ。あなたは何も失っていない、これでは不公平過ぎる、と。」





「なあに、面接は一日で終わるからLOVE.REDは日帰りになるかもしれんよ。だから一人で十分だ。」

確かに名古屋に在るLOVE.REDなら日帰りも可能だが、里奈達が赤斗をすんなり帰すか微妙なところだ。


「ところで律よ。亮子の代わりにアメリカへ誰を行かせるかだな。」

計画では防衛大学を中退した亮子がアメリカへ行くはずだったが、まさか副学長をアメリカへ行かせるわけにはいかないので、計画そのものが危うくなった。

「蘭、お前行くか?」

「イヤです。」

デジャヴだった。

「まぁ、アメリカの件は人材募集が片付いたら考えようか。ではスケジュールを確認しよう。面接をするのは初めにLOVE.RED、次に医療センター、そして∞(インフィニティ)、最後にSynchronicityの順だったな。RUPの面接は法人設立申請の許可が下りたら真平君を交えて行おう。」

「スケジュールはその通りです、主様。」

「ですが、例の孫叔母さん次第でスケジュールの変更もあり得ます。」

律が意地悪そうな顔をして言った。

「お前なぁ、縁起でもないこと言うなよ。」

苦虫を噛み潰した様な顔で赤斗は言った。

「麗華の話では、来日の目的は麗華と逢うことらしいのですが、それは主様の為と言ってました。」

「私の為に『奉仕』するというではないだろうな?」

「それは・・・十分あり得るかと。」

律が真顔で言うと本当ににそうかもと思ってしまう赤斗だった。


しかし、孫 楊貴が来日することにより『R.U』が全世界にその名を轟かせることになることを、誰一人予期する者はいなかった。





竜崎 赤斗は予定時刻通り名古屋駅に到着した。

新幹線専用改札口を出ると、さくら達三人とこう 路魅ろみが赤斗を出迎えた。

「主様! 久しぶりー!」

馬飼 里奈の元気な声が辺りに響いた。


「おい、あれ例の竜崎じゃないか?」

「ねえ、あの小さな、確かエリザベス女王の御用達デザイナーだよね。」

「あの男の人じゃない?『血塗れ蘭」のご主人様って。」

赤斗たちの周辺にいた人びとが口々に囁く。


「何だか私達も段々顔が知られるようになったな。」

前回名古屋に来た時は、誰一人赤斗達に気付くものはいなかったが、防衛大学の一件で赤斗達は一躍有名人になったようだ。

「でも、主様が何だか遠い存在になるみたいで私はイヤです。」

楼蘭 さくらが悲しげに言った。

「世間が変わっても、私は変わらんから安心しろ、さくら。」

言いながら赤斗がさくらの頭をガシガシした。

「はい! いつまでもお側に居させて下さい。」

さくらの見えない尻尾がピコンと立ってブンブン振られた。

「あー!さくらだけズルい!」

理奈がこれ見よがしに頭を差し出した。

「アハハ、よしよし。」

赤斗が同じように理奈の頭をガシガシすると、流川 紅葉も遠慮がちに頭を差し出し、なぜか黄 路魅まで横に並び同じ姿勢を取った。

「ん? 路魅君までどうした?」

路魅はただモジモジするだけだったが、さくらがフォローした。

「主様、路魅ちゃんがお仕えさせて頂きたいとのことです。」

「え!? そうなのか?路魅君。」

「はい、一生懸命尽くさせて頂きます。」

路魅は深々と頭を下げた。

「それは嬉しい。私の理想実現に力を貸して欲しい、頼むぞ。」

「はい!ふつつか者ですが宜しくお願い致します、主様。」

まさかの展開に赤斗は驚いたが、ふと閃いた。

(アメリカはこの娘なんかいいかもな。)


「さて、そろそろ行こうかね。」

「はい!」

四人は元気に返事をした。



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