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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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竜崎 赤斗VS防衛大学 7

「律姉さん! 今回は良い知らせしかありません!!」

麗華が喜びに溢れながら律に言った。

「そう・・それは良かった。」

律と瑠璃子は心底疲れていた。赤斗無事の知らせと分かっていても、麗華のようにはしゃぐことが出来なかった。

それでも、また赤斗に逢えると思ったら自然に涙が頬を伝った。

じゃあ着替えようか、瑠璃子は言いながら律の肩をそっと抱いた。





村山学長の自宅前に着いた赤斗はインターフォンを押した。学長が自宅に居ることは彼に張り付いていた工作員から確認済みだ。

そして、学長も赤斗が来ることを工作員から知らされていた。

インターフォンが鳴って数秒後、村山自身が玄関を開けて赤斗を招き入れた。

書斎で二人きりになり、赤斗は田崎とその家族の運命を告げると、村山は赤斗の顔をじっと見て一度だけ小さく頷いた。

赤斗も一度だけ頷き、村山宅を後にした。


翌朝、首を吊った夫を見つけた村山の妻は、亡骸なきがらに向かって静かに両手を合わせた。




中国訛りの男から赤斗が自宅に来ることを電話で知らされ、村山学長は赤斗が田崎の手から逃れたことを知った。

そして、赤斗の後ろに中国がいることを知った村山は観念した。

中国人は日本人と違って敗者に情を掛けない。敗者の一族郎党皆殺しが常だ。

田崎の家族はすでに拉致されているはずだ。ならば、自分の家族も同じ運命を辿ることになるだろう。

一家皆殺しを避けるためには竜崎の慈悲にすがるしかなかった。

竜崎と会ったことはないが、諸角 亮子の為に動いた竜崎 赤斗という男は、決して残忍な男ではないという確信が村山にあった。

自分一人死ぬだけで竜崎なら許してくれるという希望があった。

だから村山は妻に全てを話し、妻に外泊するよう言った。朝になったら戻るようにとも。


赤斗は村山を田崎ほど憎めなかった。

元々話の分からない男ではないと思ったから、防衛大学に行ってまで村山と話すつもりだったのだ。

だから、もし村山が自分をすんなり自宅に入れたなら、村山一人の死だけで終わらせようと考えていた。

一家皆殺しは田崎だけで十分だ。いや、本音を言えば誰も死なせたくない。だが、従たちはともかく孫婆はそれでは収まらないだろうし、やはり、主として御堂 蘭の仇は取らなければならなかった。


村山は自害の道を選び己の家族を護ったが、一人だけのうのうとしてる人間が残っていた。

(学長と田崎のけじめはこれで取った。だが、もう一人クソッタレがいたな。)

竜崎 赤斗の目は、永田町の在る方向を向いていた。




赤斗は学長宅を出た後、タクシーを拾い南雲総合医療センターの隠し部屋に向かった。

タクシーを降り、隠し部屋へ通じるドアを開けると、そこに律たち三人が立っていた。

「お帰りなさいませ、主様。」

三人揃って深々とお辞儀をして赤斗を迎えた。

「ただいま、今帰ったよ。心配を掛けて済まなかった。そして蘭には本当に悪いことをした。私の浅慮を許せ。」

「主様は何一つ悪くありません。蘭も何一つ後悔していないでしょう。」

律が言い、瑠璃子と亮子が頷いた。

「そう言ってくれると助かるよ。みんなありがとう。」

「だが、まだ終わったわけじゃない。颯たちを自由にしてやらんとな。」

赤斗はそう言うと、隠し部屋に通じる階段を降りて行った。





「小菅だが、お前は竜崎か?」

小菅官房長官が電話の向こうで言った。

「そうだ。今頃、防衛大学と公安庁は大騒ぎだろうな。違うか?」

「フン、大人しく出頭すれば罪は軽くしてやるぞ。」

小菅がふてぶてしく赤斗に言った。


「その前にこれを聴いて貰おう。」

赤斗が受話器にICレコーダーを当ててスイッチを押すと、小菅と村山の会話が流れた。

「そ、それは!?」

小菅が明らかに狼狽えているのが分かった。

「この音声データを誰に渡したらいいかな? 検察か、テレビ局か、それともエリザベス女王がいいかな? 好きなのを選べ。どのみちお前たち内閣、いや、日本は諸外国から糾弾されよう。」

静かに赤斗が言った。

「ま、待て! は、話し合おう。」

「お前、自分の立場が分かってるのか? 話し合いってのは対等な者同士がすることだろ?」

「貴様らは私の宝を奪い、壊そうとした。この落とし前をどうつけるつもりだ? このクソッタレ野郎。お前の安い命じゃ釣り合わんぞ。」

小菅はもう抗う気力が無くなっていた。とんでもない男と関わってしまったと、ただ後悔するしかなかった。

「ど、どうすればいいのだ?」

「お前とお前の家族の命を差し出せ、と言いたいところだが、安いお前の命などいらん。まず、お前がすべきこと、出来ることをすぐにやれ。」

「何をすれば?」

「それは自分で考えろ。では以上だ。」

赤斗は通話を切った。


「ふぅ、慣れないことはするもんじゃないな。ハハ。」

普段の赤斗は今みたいな横柄な態度を取らないが、亮子の助言によりやむなく小菅に対し横柄に出たのだった。

「主様、とても素敵だったわ。キュンキュンしちゃった。」

瑠璃子が瞳を潤ませて言った。非常事態でなかったら赤斗に襲い掛かっていただろう。


「さて、官房長官殿はどう出るかな? 亮子。」

「はい、我が君。颯姉さまたちの釈放はまず間違いありません。その後、官房長官は我が君に接触してくると考えられます。」

諸角 亮子は即答した。

「その時我が君には───」


「なるほど。分かった、お前の言う通りにしよう。では本部に戻るとしよう。」

「かしこまりました、主様。」

三人の従が元気に返事をした。




諸角 亮子の目論見通り、颯、さくら、里奈、紅葉の四人は嫌疑不十分として速やかに釈放された。

警察病院に入院していた蘭も釈放され、南雲総合医療センターへ移送後、颯により手厚い治療を受け快方に向かった。

赤斗は颯たちの釈放から三日後に世に現れ、自分は何者かに拐われずっと監禁されていたが誰に拐われたか分からない、と記者会見で発表した。


公安庁及び総務省は田崎一家の失踪を調査中と発表し、防衛大学を管理する防衛省は村山学長の自殺と後任人事を発表した。

村山学長の謎の自殺に世間は驚いたが、それ以上に驚いたのが諸角 亮子の副学長就任の報であった。

防衛大臣の説明では、亮子のシミュレーション無敗の成績が就任理由とされたが、前代未聞の人事に世間は竜崎 赤斗と政府の関係を疑った。

しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れる国民性と、国会議員と中国企業の贈収賄疑惑というスキャンダルに助けられ、赤斗と政府の疑惑はいつしか忘れ去られるのであった。

余談だが、大物議員の贈収賄疑惑をリークしたのが孫 楊貴であることは言うまでもない。

さらに、防衛大学副学長に就任した諸角 亮子は、それから数年後『防衛大臣』に就任することとなる。





赤斗たちは南雲総合医療センターの特別室に来ていた。


「こうやってみんな集まるのはイギリス以来だな。」

ベッドの上で上半身を起こした御堂 蘭が苦笑いした。

「主様、この度はアタシのせいで迷惑掛けてごめんなさい。」

「私のために怒ってくれたお前に何の罪がある? とにかくお前が無事で良かった。颯に感謝するんだぞ。」

赤斗が包帯を巻いた蘭の頭を優しく撫でた。

「LOVE.REDの皆もよく来てくれた、と言いたいところだが、お前たちは弱っちいくせに無謀すぎるぞ。特に里奈、ぐるぐるパンチって漫画の世界だな。アハハ。」

「あーっ! 誰が主様に喋ったのさ!」

里奈が顔を真っ赤にして腕をぐるぐるした。

「理子と麗華もよく頑張ってくれた、礼を言う。孫婆さんにも礼を言わんとな。」

「従として秘書として当然のことをしたまでです、主様。」

理子がはにかみながら言った。


「主様・・、その大叔母様のことですが・・、その・・。」

「何だ? まさか褒美に奉仕させろとでも言ってんじゃないだろうな?」

「いえ、多分そこまでは・・。 実は大叔母様が近い内に来日します。」

一瞬、時間が止まった。

「え~と、お前に逢いに来るんだな? そうだよな?」

赤斗はなぜか律を見て言ったが、律は口を手で隠して笑っていた。

「これは何の罰ゲームだ? 麗華、どうにかして孫婆さんを止められんのか?」

「大叔母様が来日する第一の目的は私に逢うことです。ですが、そのまま黙って帰る大叔母様ではありませんので・・。」

赤斗は天井を見上げたまま動かなかった。

(学長たちにしたことへの報いか・・。)


「分かった。大歓迎と言っといてくれ。」

全てを超越した仙人のような顔をして、赤斗はなぜか蘭に言った。

「主様、アタシに言われても。」


アハハ!

久しぶりにみんなが笑った。


竜崎 赤斗は何とも不思議な人である。従たちはそんな主が大好きだった。


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