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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
36/41

竜崎 赤斗VS防衛大学 5

公安庁 取調室───


「しかしアンタも強情だな。少しは話したらどうだ? 何も言わなきゃ一生ここを出られんぞ。」

「・・・」

「よく聞け。アンタ一人なら国家機密漏洩未遂の罪で、せいぜい五年もムショに行けば終りだが、アンタの出方次第で共謀罪にだって出来るんだ。当然アンタの女たちも同罪でムショ行きってわけだ。」

「前にも言ったはずだ。私以外の人間に何か有ったら許さんと。これ以上私を怒らせるな。」


『主様が怒ったところを見たことがない。』

従たちは口を揃えて言う。だが、それは相手が従だからだ。宝を怒る人間などいない。

むしろ竜崎 赤斗は怒る人だ。理不尽に怒り、暴力に怒り、非道に怒り、そして女を泣かす男に怒る。

目の前に居る男は、赤斗が怒るに値する人間だった。さらには村山という諸角 亮子を辱めた防衛大学の学長も。


「なんだと~貴様!売国奴の分際でっ!」

ガシッ

いきなり取調官が赤斗を殴った。赤斗の気迫に圧されて思わず殴ってしまった様な感じだった。

殴られた赤斗と、座っていた椅子がぶっ飛び派手な音を立てた。

「課長! 殴ったらマズイですよ!」

一緒にいた取調官が、なおも殴ろうとする上司を抑えた。


「何事ですか!?」

取調室の外にいた警備官が入ってきたが、若い取調官は「なんでもありません。容疑者がつまずいて転んだだけです。」と言って取り繕った。

「そうですか・・、ならよいのですが。」

そう言いながら出て行こうとする警備官に若い取調官が言った。

「お茶が溢れたので、誰か片付けに来させてください。」

「はい、すぐに来させます。」


警備官が出て行くと、課長と呼ばれた取調官が再び息巻いた。

「我々が殴られないと思ったら大間違いだぞ。ムショに入ればこんなもんじゃないからな、覚悟しておけ。」

「お前もな。今の一発は高くつくぞ。」

赤斗は口から流れる血を拭いながら言った。

「なんだと貴様───」

再び殴ろうとした時、ドアがノックされ、一人の女がお茶を替えるため入ってきた。

「お茶をお持ちしました。」

「あぁ、そこに置いてくれ。」

女は赤斗の前にお茶を置こうとした時チラッと赤斗の顔を見た。

赤斗の口端には血の跡が残り、頬は腫れ上がっていた。

(この人きっと殴られたんだわ・・えっ!?)

赤斗と女の目が合った。その途端、女の目に黄色の赤斗が映った。


『私に色を見たから従になるのではなく、従になる人間は私に色を見るのだ。そして、私を直に見た者は従に目覚めるのかもしれないな。』

かつて赤斗が律に言った言葉だ。

その言葉通り、お茶を取り替えに来た女の中で何かが目覚めた。

女はお茶を替えると静かに部屋を出て行き、給湯室に入ると怒りに震えた。

(この現代で取り調べ中に暴力を振るうなんて! それにあの男の人は確かテレビに出ていた竜崎って人だわ。それがなぜ公安庁に・・・。)


女の名は『白馬はくば 良子』。公安庁の職員だった。

良子はえも言われぬ使命感に燃えて、どうにかして赤斗をここから出す方法を考えたが、自分一人では到底不可能という結論に達した末、とりあえず『R.U』の人間と連絡を取ることにした。


「はい、『R.U』本部です。」

颯の指示で『R.U』本部に移動していた佐々 理子は、緊張しながら電話に出た。まるで誘拐犯からの電話を待つ家族の心境だった。

「モシモシ、私、竜崎 赤斗さんの居場所を知ってます。」

───!!

理子は思わず罠を疑った。人を見たら泥棒と思え、と言っていた祖母を思い出したのだ。


「どなたか知りませんが、竜崎なら今こちらにおりますが?」

「そんなこと言ってる場合じゃありません。竜崎さんは今も暴力を受けているかもしれないんですよ。」

(───! 主様が暴力を!?)

血管が何本か切れる音がして、理子は失神した。


それを見ていた孫 麗華が慌てて受話器を取り、耳に当てた。

「モシモシ、電話を代わりました。竜崎会長は今どこにいらっしゃるのですか?」

「公安庁の五階で取り調べを受けています。早く助けてあげて下さい。よかったら私も協力します。」

「貴女は誰ですか?なぜ協力してくださるのですか?」


麗華は理子より冷静だった。大叔母である孫 楊貴の『狼狽えるな』の一言が効いたようだ。

「私にもよく分かりません。ただ、竜崎さんが黄色く見えたと感じたら、何とかして差し上げなきゃと思って。」

「───!お名前を伺っても?」

麗華は名前を聞けば、その女が何者か分かる気がした。

「白馬、白馬 良子です。」

「白い馬に、良し悪しの良しですか?」

「はい、そうです。」

───!!

麗華の頭の中に、その昔大君に仕えた文官の名が浮かんだ。

「教えて頂きありがとうございます。私たちは白馬さんを全面的に信用します。それで他に情報はありますか?」

「弁護士も来ている様子がありません。おそらく弁護士を呼ぶこと禁じられてると思います。他に役に立つような情報は残念ながらありません。」

「会長の居場所を知れただけでも最高の情報です。それと会長が暴力を受けていることも───」


良子は悪寒に震えた。眠れる獅子の尻尾を踏んでしまった時は、きっとこんな感じなのだろうと思って震えた。

「こちらで対策を考え、もし白馬さんにご協力願う場合はご連絡させて頂きたいと思いますが、如何でしょう?」

「結構です、携帯の番号は───」

良子は番号を教えて電話を切った。


(本当に私ったらどうしたのかしら・・)

良子はなぜ危険を冒してまで竜崎のためにしたのか分からずじまいだったが、なぜか後悔は微塵も無かった。




「理子姉さん、起きて下さい!」

「う、う~ん、あ、麗華さん、どうしたの?」

「理子姉さんは電話に出て気を失ったんですよ。」

「───電話! 麗華さん、主様が拷問を!」

我に返った理子が叫んだ。敬愛する赤斗が暴力を振るわれていることを知り、理子は再びパニックに陥った。

「落ち着いて、姉さん。すぐに律姉さんに知らせるから。」

麗華は理子を落ち着かせ、南雲医療センター内にある隠し部屋にいる律に連絡した。



「何かあったの?麗華。」

嫌な予感を感じながら、モニターに映った麗華に律が言った。

「良い知らせと悪い知らせよ、律姉さん。主様の居場所が分かったわ、公安庁よ。」

「公安庁・・・。それで悪い知らせとは?」

「主様が拷問されているらしいの。」

伝言ゲームの恐ろしいところで、いつの間にか『暴力』から『拷問』にレベルアップしていた。


「何で───」

「なんだってーーーー!!」

颯と蘭の叫び声で律の声が消された。

「ちょっと静かに!」

律が二人に負けないほどの大声で怒鳴った。

「それは確かな情報なの?」

「はい。主様に色を見たという公安庁の職員からの情報なので確かだと思います。」

「色を見たと言うのね。なら、ある程度信用出来そうね。分かった、どうするか検討してそちらへ連絡するわ。」

律は麗華にそう伝えると通信を切った。


「どうするの?律姉! 早く主様を助けないと!」

「拷問というのがちょっと怪しいけど、主様が危険な状況というのは間違いなさそうね。亮子、どうしたらいい?」

律は良子の意見を訊いた。

「何かの弾みで殴られた可能性はありますが、律姉さまの言うように拷問はないと思います。ここは少し冷静になりましょう。」

「何を呑気なこと言ってんの! アタシ一人でも主様のとこに行くよ!」

蘭が顔を真っ赤にして叫んだ。


御堂 蘭は誰よりも今回の件に責任を感じていた。自称とはいえ親衛隊長の自分がいながら赤斗が拉致されたことに、自分自身を許せなかった。

「ダメよ! あなた一人公安庁に行ってもどうにもならないし、騒ぎが大きくなるだけよ。」

少々きつめに律が蘭を制した。

「バカヤロー! アタシは主様をなにがなんでも護るって決めてんだ。どうにもならないか行かなきゃわかんねぇよ!」

蘭は関東レディースの総長だった頃に戻って猛った。


暴力団に輪姦され、殺される寸前のところを赤斗に救われた蘭は、その時から赤斗の為に命を捨てる覚悟を決めていた。防衛大学では訳が分からず思わず逃げてしまったが、赤斗の居場所が分かった今、蘭がこの部屋に留まる意味が無くなった。


蘭が部屋から出て行こうとすると、今度は颯が蘭を呼び止めた。

「待って、蘭ちゃん。」

「何だよ、颯姉まで。止めても無駄だよ。」

「ううん、止めないわ、その代わり私も行く。」

颯は立ち上がりながら言った。

「待ちなさい、颯。あなたまで何を言い出すの?」

律が呆れたように言った。

「律姉さんは私のこと『主様バカ』っていつも言ってるわよね。それってとても嬉しいことなの。だって主様のことで私はバカになれるんだもの。だから私は行くわ、主様バカらしくね。」

颯は笑顔で言いながら、蘭と一緒に部屋を出て行った。


(ふぅ・・。バカを二人も止められないわね。でも、くやしいけど羨ましいわ・・。)

律もどれだけ一緒に行きたかったことか。しかし、自分まで行ってしまったらそれこそ終わりだと思った。


「何か良い案はないかしら? 亮子。」

「下策ですが、こうなったからには颯姉さま達を利用させてもらいましょう。それと、こちらに向かっているさくらさん達も。」

「それで、一体何を?」


「今考えた策は───」





東京行きの『のぞみ』に乗っていたさくらの携帯の着信音が鳴った。

「はい、さくらです。あっ律姉さん。」

「うん、もうすぐ東京駅。うん、うん───うん、分かったわ。うん、頑張るね。じゃあ。」

「律姉は何だって? やっぱ怒ってた?」

里奈が不安気に訊いた。


「これから急いで公安庁ってとこに行くよ。」

「何それ? そこに主様がいらっしゃるの?」

怪訝そうな顔をした紅葉が訊いた。

「そうらしいよ。それで、そこへ颯姉さんと蘭ちゃんが、律姉さんの制止を振り切って行ったみたいなの。」

「ヒュー! さすが蘭ちゃん、やるー。それで私達に加勢しろってわけね。」

里奈が鼻息を荒くして言った。

「バカ、違うわよ。公安庁へ行って二人がムチャしたら止めてって。」

さくらが呆れ顔で里奈に言った。

「あのさぁ、あの二人を止められるのは主様か瑠璃姉だけだと思うけど?」

そりゃ無理だわ、という顔で里奈が返した。

「そうよ、それに私も主様のためにムチャしたいよ。」

紅葉がもっともらしく言った。


「話はまだあるから聞いて。その時───」

「なるほど、彼は何かと使えるね。」

そんな話をしてるうちに『のぞみ』は終点の東京駅に着き、急いでさくら達は公安庁の在る霞ヶ関へと向かって行った。





霞ヶ関公安庁 受付───


「私、南雲医療センターの院長をしております、南雲と申しますが、私どもの会長の竜崎 赤斗が、こちらで不当に勾留されていると聞いて参りました。至急会わせて頂きたいのですが。」

「竜崎 赤斗さんですか? 申し訳ありませんが、その様なご質問にはお答え致しかねます。」

受付係は般若のような顔をした颯と、顔を赤くしたままの蘭からただならぬ気配を感じたが、受付としてマニュアルに従い応対した。

「そちらが答えられなくても、会長がいらっしゃるのは確かなのよ。今すぐ会わせて頂戴。」

「いるかいないかお答え出来ない人間に会わせようがありません。然るべき部署で然るべき手続きを踏んで下さい。」

受付も一歩も譲らない。バックに国がついていると人は強くなる。


「竜崎会長は英国貴族としてエリザベス女王と懇意でいらっしゃいます。貴女の受け答え次第で国際問題に発展しますが、貴女にその責任が取れますか?」

バックに国がいる人間は国際問題という言葉に弱い。そして責任問題という言葉にも。

「少々お待ち下さい、上の者を呼んで参ります。」

自分に降りかかりそうな責任問題を、上司に責任転嫁しようとして受付係は一目散に退席した。


やがて、勝ち誇った顔をした受付係が、上司らしき男と四人の警備員を連れて戻ってくると、以後の対応を上司らしき男に丸投げして、そそくさと自分の席に座り野次馬側に回った。


「ナンだね君たちは? ここが公安庁と知った上で来たんだろうな?」

男は田崎といって赤斗を尋問している男だった。

「私どもの会長がここにいらっしゃるから来たと、何度も言っています。早く会長を解放しなさい。」

颯は言いながら田崎を観察した。公安職員らしく目付きが悪く、外を歩けばヤクザと変わらない狂暴な雰囲気を持った男だった。むしろ国がバックにいる分、ヤクザよりタチが悪いに違いない。

そして颯は見た。田崎の右拳に絆創膏が貼られていることを。


颯の直感が思わず叫んだ。

「蘭!主様を殴ったのはコイツよ!!」

「お前か!!」

蘭は言うより早く田崎に回し蹴りを浴びせた。

蹴りは見事に田崎のアゴにヒットし、田崎は横にふっ飛びそのまま倒れた。

「何をするか、貴様!」

警備員はさすがに素早く動き、蘭を取り押さえようとするが、蘭も素早く動き、男たちをかわしながら次々に蹴りを入れていった。

レディースの頂点に立っていた蘭はステゴロで負け知らずだった。そのステゴロに空手の技が加わった蘭に、素手で勝てる相手は男でもそうはいなかった。

素手では──


蘭に蹴られ朦朧としていた田崎は、いつの間にか蘭の後ろに回っていた。その右手に警棒を握って。

ゴンッ、と音がして蘭が崩れ落ちた。

「キャー! 蘭!」

叫んだ颯に警備員の一人が近づくと、下方から突き上げられた掌底にアゴを割られ、警備員はのけ反った。

「汚ねぇ手で颯姉に触るんじゃねえよ、チンカスが。」

頭から血を流しながら蘭が立った。

「ダメよ、蘭! 動いちゃダメ!」

脳外科医の颯は、蘭の傷が深いことを一目で見抜いていた。


「颯姉、私に構わず・・ここから逃げ・・て・。」

仁王立ちした蘭が颯に言った。


その時───




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