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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
32/41

竜崎 赤斗VS防衛大学 1

「え!? こんな大金──」

諸角 亮子はスマホの画面に表示された口座残高を見て絶句した。

スマホの画面には『振込入金 20,000,000円』と表示されていた。




「では亮子君、我々が『R.U』各社に出張る日時が決まったら律から連絡させるので、君はそれまでに大学のことを含めて身の回りの整理しておけ。」

「かしこまりました、我が君。それで我が君・・大学への返納金のことなのですが・・。」

律から自主退学時の返納金は赤斗が肩代わりしてくれると聞いていたが、亮子としてはやはりそこをきちんと赤斗に確認しておきたかった。

「何も心配することはない。早速今日中に振込手続きをさせるから、明日にでも残高を確認するといい。」

赤斗はそこまで言うと律に続きを促した。


「返納金がどの程度の額になるのか分からないので多目に振込むわね。万が一足らなかったらすぐに連絡を頂戴。それから、余ったお金は渡米に必要な物を購入する資金に充てるように。」

「ありがとうございます! いつか必ずお返しします。」

亮子は感謝の気持ちで一杯になった。

「あら、返さなくていいのよ。あなたに与える資金はいわば必要経費だもの。会社の命令で使ったお金を返金するサラリーマンはいないでしょ?」

「あ、ありがとうございます・・ 頂いたお金に見合った働きをお約束致します!」

「そうかしこまることはないぞ、亮子君。では、蘭に自宅まで送らせよう。」






まさかの大金に亮子は心底驚き、同時に身が引き締まる思いを感じた。

(こんな私にこれほど期待して頂けるなんて・・ このご恩は必ずお返しします、我が君。)


亮子はその足で防衛大学の事務室へ向かい、事務員に『退学届』を提出したが、すぐさま学長室に行くよう命じられた。


「君は一体何を考えているんだね?」

防衛大学学長の村山 昭一が亮子に詰問した。

「君たち学生を四年間教育するのに、どれ程の税金が投入されるか知ってるか? まぁ学費の件は君が一生働いて返納すれば済むことだが、君の才は国家防衛のために使う義務がある。そう思わないかね?」

村山は天下りの学長らしく慇懃な物言いで亮子を問い質す。

「お言葉ではありますが、職業選択の自由は憲法により護られておりますし、今まで私のために使われた国費は全額返納させて頂きます。」


「そんなことを訊いてるんじゃない!」

いきなり真っ赤な顔をした村山が机を拳で叩き怒鳴った。

「いいか、よく聞くんだ。君はシミュレーション無敗の才能が認められ、私の推薦ですでに幕僚長付き仕官という名誉ある配属先が決まっておる。」

「それなのに君に自主退学なんぞされたら、私の立場と面目が丸潰れになるだろうが!」

村山は再度机を叩いた。

「退学なんぞ絶対に認めんからな! だいたい君に返納する金なんぞ無かろう。」

「それは何とかします。だから退学届を受理してください。」

「ならん!──さては此処(防衛大学)で学んだことをどこかに── ひょっとして国防の機密事項を他国へ売って返納金に充てるつもりじゃないだろうな?」


亮子は内心マズイと思った。なぜなら、赤斗の命令を実行するため、退学後すぐに渡米するからだ。

退学後に自分が渡米したと知ったら学長は怪しみ、返納金の出どころを必ず調べるだろう。そうなれば最悪の場合、赤斗に迷惑を掛けてしまう。それだけは絶対に避けねばならない。


「どうあっても自主退学させて貰えないのでしょうか?」

学長はしばらく無言でいたが、意を決したように亮子に言った。

「私には息子が二人もいてね、学長の報酬だけじゃ大変なんだよ。分かるかね?」

(何よ、結局お金なの?)

「それとなぁ、君はその・・両方有るって話じゃないか。一度お手合わせ願いたかったんだよ。」

学長の目付きがゲスなものへと変わっていた。

(まさか、コイツ私の身体まで!?)

亮子は唇を噛みしめた。

(この身体は昨日から我が君のモノだ。それをお前みたいなゲスなヤツに好きにさせてたまるか!)

亮子は思わず殴り掛かろうとしたが、脳裏に赤斗の顔が浮かんだ。

(我が君ならこんな状況の私を、きっと救ってくださる・・。)

亮子は何とか自分をなだめて学長に言った。

「しばらく考えさせて下さい。」

「いいとも、いいとも。しかし待ってあげる代わりに手付けが欲しいな。」

「手付け?」

「手付けと言っても金じゃない。その──見せてくれんかね?」

亮子はピンときた。コイツは裸を見せろと言ってるのだ。

再び爆発しそうになったが、この部屋を出るまでは大人しく従うことにした。

「見せるだけです。もし指の一本でも触れたら舌を噛みます。そうなればいかに学長と言えどただでは済まないでしょう。」

「分かっとる。さ、誰か来ない内に早く。」







亮子は必死に涙を堪えて『R.U』本部へ、赤斗の元へと急いで向かった。

事前に「今から行きます。」とだけ律に伝え、脇目も振らず駆けた。


本部の在る虎ノ門ビルのエントランスに入ると、そこに律と理子、そして蘭が待っていた。

律たちは何も言わずただ頷くと亮子の肩を抱き、まるで亮子を護るようにして赤斗の待つ『R.U』本部会長室へ向かった。


蘭が会長室のドアを開けると、神妙な面持ちをした赤斗が立っていた。律が中に入るよう亮子を促すと、亮子は堰を切ったように哭き出し、赤斗の胸に飛び込んだ。

その様子はまるで、嵐の中を懸命に飛び、やっと親鳥の待つ巣に還った仔鳥のようだった。


「お帰り、亮子。もう大丈夫だ。」

赤斗の言葉を聞いて亮子はさらに哭いた。

その亮子を抱きながら眺めている赤斗の顔が、怒りでみるみる赤くなっていった。

(主様がまるで赤鬼のよう・・・)

律は初めて見る赤斗の激情に怯えた。


しばらくすると亮子は落ち着きを取り戻し、赤斗に事の顛末を話し出した。

亮子は思い出すのも辛かったが、学長室での出来事をありのまま赤斗に話した。

「私の宝によくも・・・」

(私の前で女を泣かせた落とし前はきっちり取る。百倍返しでは済まさんぞ。)

「理子、麗華と連絡取れるか?」

「は、はい、主様。麗華さんはまだ会社で仕事をしてるはずですので、今連絡してみます。」

理子が慣れた手付きでパソコンを操作すると、すぐに壁に掛けられた大型モニターに孫 麗華の顔が現れた。


「お疲れ様です、主様。主様のパソコンから呼び出しがあるなんて、あまりに珍しくてビックリしました。もしかしてご奉仕のお誘いでしょうか?」

まさかこんな事態になってるとは思わなかった麗華は、いつものように気軽に赤斗に挨拶したが、赤斗の表情が今まで見たこともない険しいものだったので思わず身構えた。

「麗華よ。お前の、いやお前たち『孫一族』の力を借りたい。」

麗華にとって衝撃的な赤斗の発言だった。

「あ、主様。私のことを───」

「あぁ、お前が『Synchronicity』に入社した時から知っているよ。お前があの孫一族の人間で、その目的が何か知らないが、私に接触する為に入社したことも。」





孫 麗華という名の中国籍の人間が、何の脈絡もツテも無く日本の弱小企業に入社を希望すれば、赤斗でなくとも誰だって疑うだろう。

よって赤斗は律に命じ麗華の身辺調査をさせた結果、麗華が中国共産党の重鎮の姪であることが判明した。

何の目的があって孫一族は麗華を『R.U』に入社させたのか、そのことに関しては今でもまったくの不明だが、これまでの麗華が赤斗に示した忠義と実績には、一点の曇りも怪しむべき事実もなかった。

ならば、少なくとも孫一族は自分に敵意を持って接触してきたのではない、そう赤斗は判断したから麗華を他の従と同様に

遇してきた。それは事情を知る律や理子も同じで、他の姉妹たちと同じように接してきた。


「い、今まで黙っており申し訳ございません!あ、主様、どうか、どうか麗華を追い出さないでください!」

麗華の姿がモニターから消え、声だけがスピーカーから流れた。おそらく床に額を擦りつけて謝罪しているに違いない。

「麗華、私が一度従にした女を捨てると思うかね? お前はもう私たちの大切な『家族』だ。さぁ、顔を上げて私の話を聞いてくれ。」

麗華の涙に塗れた顔がすぐにモニターに現れたが、その顔は安堵と恐怖に満ちた複雑なものだった。そして、赤斗は気付かなかったが、律たち三人の表情もそれぞれ似たような表情をしていた。

赤斗がなぜ麗華を呼び出したのか分からなかった不安と、姉妹がいなくなることを免れたことへの喜びだった。

「近いうちに紹介する予定だったが、このはつい昨日新しく私の従になった諸角 亮子だ。」

赤斗は亮子をカメラの前に立たせて麗華に紹介した。

(オッドアイ? 綺麗な碧の瞳・・・。)

「この亮子がクソッタレ野郎に汚されそうになった。いや、今もなっている。私の宝がだ。」

赤斗の言葉を聞き、律の顔は無表情に、理子と蘭のまなじりは釣り上がった。敬愛する主の宝であり、自分達の大切な姉妹を汚そうとする男がいる、それを改めて思い出した三人の秘書は、それぞれが激怒していた。

「そんなことがあったんですが・・・。許せないわ。それで主様、私にお役に立てることがあるのですね?」

「ある。だが、そのクソッタレ野郎は日本の防衛大学の学長で、悔しいが今の私の力ではどうにもならんのだ。」

「そこで孫一族の力を借りたいのだが、どうだろうか?」


麗華の頭に大叔母である『孫 楊貴』の顔が浮かんだ。 麗華は楊貴の命令で赤斗に仕えているのだが、果たして大叔母が一族を動かしてくれるか分からなかった。自分をわざわざ日本に送ったほどだから、もしかしたらという希望はあったのだが・・・。

「かしこまりました、主様。すぐに一族の長である大叔母に相談します。でも・・・良い結果になる可能性はあまり──」

「よい、麗華。話してくれるだけでありがたい。会ったこともない私の願いをすんなり聞いてくれるとは、さすがの私も思っていないからな。」

虫のいい話だと重々承知していた赤斗だが、今の赤斗は藁をも掴みたい心境だった。


「主様、少しよろしいでしょうか?」

突然、律が赤斗に伺った。

「ん? いいぞ。」

「主様は麗華の一族を『切り札』とお考えでいらっしゃいました。ここぞという時に助けてもらうと。恐れながら今はその時では無いと具申いたします。」

律の言うことはもっともだった。亮子を辱めた防衛大学学長が相手ということは『日本国』が相手と言ってもいい。

日本という国を相手に見ず知らずの中国人が動いてくれるとは到底思えない。ならば、今はまだ麗華の一族を使うときではない、そう律は考えた。

「律よ。その言葉は『R.U』秘書としての発言だな。だが、亮子の姉妹としてのお前の考えを聞かせろ。」

「はい、そのゲス男を魚の餌にしたいです。ですが、主様と『R.U』のことを考えますと───」

「分かっている。だが『R.U』はお前たち従という宝を入れるただの器に過ぎん。器を大事にして、その中身をないがしろにしていい道理がどこにある?」

───!

「本当に大切なのは何かを思いだせ、律。」


律は昔を思い出した。六畳の狭い部屋で赤斗と瑠璃子と三人で過ごした日々を。たとえ狭くても、瑠璃子はまったく気にならなかった。

(この方は何も変わっていらっしゃらないのに、ダメね、私って・・・。)

「御心のままに、主様。」

律は涙を流しながら言った。


「お前たち全員に言っておく。私にとってお前たちはすべてにおいて優先される。だから『後回し』だの『今はその時ではない』という言葉は私の中に存在しないのだ。そして、私はチャンスと手持ちの武器は最大限活かす主義だ。よって、孫一族を今回頼らせてもらう。」

赤斗の思考は単純明快だった。そこに難解な理屈はない。


「お任せください! 大君おおきみ!」

麗華が感極まり、思わず大叔母である孫 楊貴が言った名称を叫ぶ。

「麗華、大君ってなんだ?」

「あ、いや、その、ちょっと興奮しまして・・・」

「我が君といい大君といい、お前たち時代を間違えてるぞ。アハハ」


赤斗に釣られて、みんなも泣きながら笑った。


「では、頼むぞ。麗華。」

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