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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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色の意味

夜遅くになって約束通り真平 凜は『R.U』本部に訪れた。


「遅くなりまして申し訳ありません。」

「気にしなくていい。それで話とは?」

「はい、もうお察しとは思いますが、私を『R.U』の一員に加えて頂けませんでしょうか?」

「分かった、採用しよう。」


赤斗は、まるで日雇いのバイトを採用するかのように、あっさりと凜に告げた。


「えっ!? そんな簡単にいいのですか?」


普通ならその場で採用されれば喜ぶところだが、凜は戸惑ってしまった。凜がこれまで経験した就職活動では、数々の筆記試験や数回に渡る面接が当たり前だったからだ。


「筆記試験や適正検査を受け、何回も面接して一週間後にでも採用通知を貰った方がありがたみがあったかな?」

たった数回会っただけの人間の何が分かるというのか。赤斗は面接という制度をまったく当てにしていなかった。

「いいえ!そんなことはありません。ただ、あまりに突然でビックリしただけです。」

「君は最低の、そして最高の条件を満たしていたから採用することにした。私が今回の募集でどんな人間を望んでいるか、君も収録で聞いていただろう?」

「はい、会長に違和感を感じた女性ですね?」

「そうだ。そしてそれが最近条件。次に君は私に色を見て、逆にエリザベス女王は色が消えたように見えた。つまりそれが最高の条件となる。」


赤斗に色を見て、かつ女王が薄く見えたからといって、それが自分にとって最良の人間かどうかなんて赤斗にも分からない。現に律や瑠璃子から女王が薄く見えたという話を、赤斗は聞いていないのだから。だが、女王の女官であるマーガレットは赤斗を薄く見ている。マーガレットが赤斗に敵意を抱いている気配は今のところ感じられないが、赤斗の宿泊した部屋を盗撮するくらいだから、少なくともマーガレットが赤斗を信用していないことは明らかだ。


「最高の条件を満たした者を、無粋な筆記試験や面接で落とすようなもったいないことを私はしないよ。」

「ありがとうございます!私、一生懸命頑張ります!」


そこで凜はあることを思い出し、赤斗に尋ねた。

「そういえば、あの番組の放送後、私のように違和感を感じた方からたくさんの問い合わせが局に有ったのですが、すべて目の錯覚やテレビの故障で済ましました。私が問い合わせの対応をしたのですが、その中には『会長だけが青く見えた』などという人が何人もいました。やはり錯覚や故障ではなかったのですね?」

「君が感じた違和感は正しかった。そして、他にも君のように私に色を見た人間がたくさんいるということだ。」

「よかったぁ、私あの時けっこう悩んだんです。これでスッキリしました。」


過去の悩みはそれでいいだろう。しかし、これから先のことの方が重要である。その事に気付いた凜は慌てた。

「それで今何が起きているのですか? 私はこれからどうなるのでしょうか?」

凜の顔は安堵から不安に変わった。


「今何が起きているのかは私も知らない。だが、君のこれからの可能性をこの律に説明させよう。」


羽根川 律は、赤斗の理想やエリザベス女王との関係を、なるべく分かりやすく凜に説明し、最後に赤斗に色を見た女がどうなるか、その可能性を凜に教えた。


「飛田 瑠璃子、南雲 颯、馬飼 里奈、楼欄 さくら、流川 紅葉、佐々 理子,そして私。さらに『R.U』の幹部たちは皆、ここにいらっしゃる竜崎 赤斗様の忠実なる従者です。したがって、赤斗様に色を見た女は、赤斗様を主と仰ぎ絶対の忠誠を誓う従となる可能性があります。」


「そ、それは、竜崎会長とSMのような主従関係を結ぶということですか?」

「SMとは全く次元の異なるものです。それは間違った認識であり、主従=SMではありません。」

「私が従者に・・・それはちょっと・・・」

「可能性の話ですので、真平さんが従になるかは未知の世界です。」


「真平さん、私は従にならなければ『R.U』に採用しないとは言ってない。私に色を見た人間がどうなるか、その可能性を教えたまでだ。だから心配しないで欲しい。」


「ありがとうございます。色々と突然なお話だったもので、少し混乱しています。」

「無理もない。この律も最初はそうだったからね。さて、話を戻そう。私は君を歓迎するが、君が『R.U』の一員になるかどうかは最終的に君自身で決めたまえ。返事はいつでも構わないよ。」

「会長、私の結論はすでにお伝えした通りです。それと、まだ自信はありませんが、いずれ私も従者になれたらと思うようになりました。」

「ほぉ、この短時間にそれはどういう心境の変化だね? まさか、私を直に見たから──」


凜は律から『主従』という言葉を聞いたとき、かなりの抵抗感があった。だが、赤斗や律と一緒にいたこの短時間で、その抵抗感はどんどん消えていき、むしろ主従になるのが自然とさえ思えるようになっていた。


瑠璃子や律やといった古参の従は、映像などで赤斗を見る以前に、直の赤斗に色を見て従になった。真平 凜は以前に赤斗の映像で色を見たが、その時は主従になるなんて夢にも思わなかっただろう。しかし、今日直に赤斗を見て心境に変化を来した。


ということは、赤斗に色を見た人間は、赤斗を直接見ることで従になるのか───


「いや、違うな。私に色を見た人間が従になるのではなく、従になる人間は私に色を見るということだ。つまり───」


「───私の従になる者はすでに決まっていて、私を直に見ることで、その者は従という存在へ覚醒する。ならば、色を見る見ないは、必ずしも従になる条件ではないのだ。」


律と凜は目を見開いて赤斗の話に聞き入っていたが、律が思わず赤斗に尋ねた。

「・・・そうなると主様。色自体が独自の意味を持つのかもしれません。例えばですが、忠誠心の高さに合わせて主様を見たときの色が変わるとか。」

「なるほどな、さすがは律だ。そこまで私には思いつかなかった。そうなると今思いついたのだが、従の前世によって色が決まる、なんてのはどうだ?」


律の顔が見る見る紅潮していく。

「それはなんて素晴らしいことでしょう・・・主様。前世でも私は主様にお仕えしていたのですね。」


律は感極まって震えていた。その横で凜は手のひらで口を押さえながら、ただじっと赤斗を見つめている。


「そうだなぁ、例えば私を赤く見たお前と瑠璃子は、もう何度も転生を繰り返し、私に仕え続けている、なんてロマンチックじゃないかね。」

「おぉ・・主様・・、それでしたらどんなに嬉しいことか・・。私があなた様の従となった日に誓った言葉を覚えていらっしゃいますか?」

「もちろん覚えているとも、律。『未来永劫、貴方から離れることはない。』だったな。」

「そうです、そうです!主様。この私、羽根川 律は来世も、その来世も、そして未来永劫、主様と離れることなくお仕えすることを、改めて誓わせて頂きます!」

「うむ、頼りにしてるぞ、律。」


(思いついたことを言っただけだが、律がこれほどまでに感激してるならそういうことにしておこう。だがこれで新たな問題が・・・)


「律、我々の言ったことがもし真実ならば、それはそれで問題が出てくる、分かるか?」

「はい、主様。主様とエリザベス女王の関係はすでに決まっているということですね?」

「そうだ。敵か味方か、それとも違った関係か分からんが、私と女王の関係はずっと以前より決まっているのだろう。出来れば味方であって欲しいものだがな。ん? あぁスマン、スマン。真平さんをほったらかしにしちゃったね。」


三猿の『言わ猿』のようなポーズをしたままの凜に赤斗は言った。


「いえ!全然大丈夫です。私、オカルトとか信じない人だったんですが、お二人の仰ることは信じられます。」

「そうか。世の中不思議なことがあるもんさ。さぁ、夜も遅いから今日はもう帰りなさい。今後のことは後日律と相談したまえ。律、真平さんのことは任せたぞ。」

「かしこまりました、主様。」





真平 凜が帰ると、赤斗と律は今後の打ち合わせをした。


「番組が放送されれば多数の応募が来るだろう。全員採用したいところだが、そうもいかん。とりあえず100人ほどに絞ってくれ。」

「はい、先ほどの真平さんのように、主様に色を見た人間でスキルの高そうな者を選びます。」

「うむ、任せた。だが、色を見なくても従になる可能性が出てきた。それを忘れずにな。」


番組を制作する前にその可能性に気づけば良かったと、赤斗は少しだけ悔やんだ。




それから約一ヶ月後の番組放送の当日。

律、理子、蘭の三人は、放送終了後に殺到すると思われる応募者に対応するため、それぞれのパソコンの前で待機していた。


約10分の放送が終わると、応募者からのメールが少しずつ送られてきて、その日だけでおよそ130名から応募メールが届いた。

応募者の中には「会長が二重に見えた」「光って見えた」という明らかにウソをつく者が二割ほどいたが、残りはそれなりに信憑性のある内容だった。


明らかにウソと分かる二割の中にも、赤斗を直に見れば従になる可能性があることが分かった為、一応他の応募者と同様に扱うことになった。

そして、放送終了後から一週間経ったところで今回の募集を打ち切った。


応募者の総計は約250名。その中で赤斗に色を見た者は約200名、さらにエリザベス女王が薄く見えた者は約50名とまずまずの成果だった。

応募者を一人ずつチェックしていた羽根川 律は、その中にお目当ての名前を見つけた。

(諸角 亮子・・・。絶対にあなたは応募してくると思っていたわ。防衛大学在学中で来年卒業見込み、今回の放送では主様が紫色に見えた・・か。パーフェクトだわ。)

なぜか諸角 亮子が赤斗にとって、とても貴重な人材になる予感がした。


律は応募者のスキルを見て、医療分野、スポーツ分野、アパレル分野、そしてマスコミ分野とそれぞれに分けて、飛田 瑠璃子たち幹部にデータを送った。

採用の可否はそれぞれの責任者に決めさせ、どの分野にも当てはまらない応募者は、赤斗と相談して処遇を決める。


「主様、応募者の仕分けが終わりました。」

「ご苦労、律。どうやら良さそうな人材が居たようだな。」

「フフ、分かりますか?」

「お前の顔に書いてあるよ。それでどんな人材だ。」


律は諸角 亮子のプロフィールを伝えた。


「ほぉ、防衛大学生とはまた異色だな。しかし、防衛大の卒業生は自衛隊幹部として進路が決まっているはずだが。」

防衛大学は学費免除で、しかも在学中は学生に給料まで出るという厚待遇の大学だ。それだけに優秀な学生が多数入学する。ただし、途中退学した者や、卒業後に自衛隊入隊を拒否した者は、それまで免除された学費等を返納しなければならないという厳しい規則がある。


「はい、仰る通りですが、それを承知で応募したのでしょう。」

「そうだな。もし我が『R.U』の一員になったなら、返納金を肩代わりしてやれ。で、やはり秘書候補かね?」

「私はそのように考えておりますが、主様のお決めになることが全てです。」

「秘書ならば私の直属になるのだから、私もその人間と会わなければいけないな。他にも良さそうな応募者はいるかね?」

「秘書として有望な人間は彼女一人ですが、『R.U』本部の事務方として見込みのある者が何名かおります。」

「そうか、なら全員と会おう。面接の段取りを頼む。」

「かしこまりました、主様。」


(防衛大か・・・ 汚れ仕事に抵抗がなければ、うってつけの人材だな。)


羽根川 律は確かに優秀な従であった。だがそのスキルは内政面で発揮されるものであり、外政面で見ると律でははいささか不安が残る。

外政、すなわち外交というのは綺麗事が通用する世界ではなく、時には謀略といった類いの汚れ仕事や、駆け引きなどの交渉力が要求されるタフな世界なのだが、残念ながらその分野に律は適していなかった。


従って今の赤斗に必要な人材は、外交面で活躍できる精神的にタフな者であり、特に対エリザベス女王、そして未だ見ぬアメリカ下院議員を初めとした、第三第四の存在に対応出来るスキルを持つ人間だった。


「では、選考方法の確認をしよう。」

「はい、主様。各社とも筆記や適性といった試験はなく、面接のみになっております。一次面接は姉妹たちが行い、最終面接は主様にお願い致します。」

「分かった。それなら最終面接は皆で行こうかね。」

「まぁ!! よろしいのですか!?」

「お前や蘭たちに頼んだ仕事も一段落着いたからな。新しく姉妹になるかもしれない相手を見ておくのも必要だ。」

「理子と蘭が大喜びしますわ。」

(そうだろうな、お前を見れば想像がつく。)

「では、皆に伝えてくれ。」



律は自室に戻ると早速姉妹たちにメールを送った。

いつものように、ものの数分も立たずに問い合わせの電話が姉妹達から続々と来たが、面倒に思った律は後日詳細を通知するといってさっさと通信を切った。

(あの娘たち主様のこととなると長いんだもの。)


律が面倒に思ったのも無理なかった。というのも律は赤斗からある命令を受けていたからだ。

本当ならその準備で忙しくて、赤斗に同行するなど出来ないはずなのだが、律のスキルなら問題なかった。


(イギリスに同行出来なかった分、主様のお世話をさせて頂かないとね。あぁ、楽しみで目眩がしそう・・。)

律は他の同行者もいることを忘れているようだった。


(その前にするべきことは・・ 諸角さんね。)

律は他の応募者とは別に、個人的に諸角 亮子と会うつもりだった。そのことは赤斗も了承済みなので問題なかった。

諸角 亮子に至急会いたい旨をメールで送り、待つこと5分ほどで本人から律の携帯へ連絡が入り、早速これから会おうということになった。

律は馴染みのイタリアンを予約し、赤斗に外出することを告げ『R.U』本部を出た。


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