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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
29/41

赤斗の帰国

ロンドン空港を飛び立った航空機は途中のアテネ空港に降りた。


「さて、それではドイツに向かうとするかね。」

「はい、主様。でもイギリス諜報部の尾行は大丈夫でしょうか?」

「まぁ五分五分だな。あのときマーガレットには『覗き見をしないように』と釘を刺しておいたから、しばらく大人しくしてると思うが、たとえ尾行されたとしてもどうということはない。私の行動を制限する権利など誰にも無いからな。」


「そこまでお考えになられてのマーガレットへの牽制でしたか。さすがは主様。」

「なあに、それくらいの悪知恵はあるさ。それでお前たちの首尾はどうだ?」

「はい、スポーツ関係者では10組ほどですね。」

「私の方は少なく5組ほどです。」

申し訳なさそうに颯が言った。


「5組もいれば十分だ、颯。スポーツの世界と医学の世界ではキャパが違うからな。それにお前の得た情報は価千金の価値があったのだから、もっと胸を張れ。」

「ありがとうございます、主様!」


従は主に誉められると舞い上がる。


「では、ドイツ行きのチケットを手配してくれ。」





エリザベス女王からデータの打ち込みを正式に依頼されたとき、女王がイギリス国内の情報を自分たちに見せることはまず無いだろう、と赤斗は予測していた。

その予測通り女王は自国の情報を隠し、代わりにドイツ人の情報を赤斗たちに打ち込ませた。


二人にデータをただ打ち込ませるだけではつまらないと考えた赤斗は、事前に瑠璃子にはスポーツ関係者のチェック、颯には医療関係者のチェックを命じ、リストの中に一人でも知人がいたら日本に帰らずドイツに寄って直接話を聞こう、ということになった。


海外に幅広い人脈を持つ瑠璃子と颯を同行者に選んだのはこのためだったのだ。

女王がデータの打ち込みを依頼したのがたまたまドイツだったが、例えそれがアフリカの小国だったとしても赤斗は行っただろう。

いつの時代も情報を制するものが勝利する。そして味方となる者、すなわち兵力は一人でも多い方が有利なのだから。




ドイツに行った成果は予想以上に満足するものであった。

赤斗に色を見て、かつ女王を薄く見たという人間の中に、ノーベル医学賞受賞者『ミッター ラインハルト博士』がいたからだ。

イギリスとドイツの両国で貴重な情報を得た褒美として、赤斗と瑠璃子に頭を撫でてもらった颯はとてもご満悦だった。


今回の旅で得た収穫に大満足しながら、赤斗たちは今度こそ本当に日本へ帰国した。





成田国際空港に着くと、羽根川 律と御堂 蘭、そして新谷 新一の三人が赤斗たちを出迎えた。


「会長、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした。瑠璃子姉さんも颯も、無事に帰ってきてくれて何よりだわ。」

律が嬉しそうに言った。


「会長ーーっ!」

蘭は勢い余って赤斗に飛びつく始末だ。。

身長185の赤斗でなかったら押し倒されていただろう。だが赤斗は苦もなく蘭を抱き止めた。


「ただいま、蘭。いい子にしてたか?」

「いい子にしてたけど『主様不足』で死にそうだった。」

「アハハ、そうか。それは悪いことをしたな。て、新一君の前では『主様』はダメだぞ。」

「いっけねー。」


「律、留守中ご苦労だったな。」

「主様のご苦労に比べたら、私など何の苦労もしておりません。」

「謙遜するな。この度の訪英は成功だったぞ。詳しくは食事をしながら話そう。」

「はい、主様。『久兵衛』を予約しております。」

「うむ。さて、新一君。忙しい中呼び立てしてすまないね。」

「会長のためならこの新谷 新一、いつでも馳せ参じます。」


律が冷ややかな眼差しで新一を見る。

(あれほど忙しい忙しいと、私に恩着せがましく言っておきながら・・。)


「さぁ、寿司でもつまみながら話をしようか。蘭、車を頼む。」


(新一さんがいなければ車内で主様にご奉仕出来るのに・・)

瑠璃子、律、颯の三人が似たようなことを考える中、ワゴンは銀座へと走り出した。





久兵衛のいつもの個室で乾杯すると、律は今度放送する番組の話を切り出した。


「収録はほぼ終わっておりまして、あとは主様、瑠璃子姉さん、颯の出演する場面を収録するだけです。」


「ほお、それは素晴らしい。新一君が頑張ってくれたようだね。」

「はい! 会長のためならこの新谷 新一、常に寝ずの覚悟でおります。」

「アハハ、さすがに二回も聞くと眉唾ものだよ、新一君。」


「それにしても会長、わざわざ番組を作ってまで社員募集とは一体何があるんですか?」

「今のところは何も無いよ。それに番組と言ってもわずか10分程度で、情報番組の一つのコーナーに過ぎないしね。まぁ、よくある事業拡張のための採用ってやつだ。」


「新一さん、あまり根掘り葉掘り訊かないの。会長がお困りでしょ。」


「新一君、私と君の関係はビジネスに徹しようじゃないか。律の言う通りあまり詮索はしないでくれ、それは君のためでもある。」

「は、はい、会長!」

いつになく真剣な表情で言う赤斗に、新一はビビりながら返した。


(新一さん、会長はこれからのことにあなたを巻き込みたくないの。分かってあげてね。)

律の表情を見た新一は、少しだけ赤斗たちの置かれている状況が分かった気がした。そして、律の身に何事も起きないことを願うのであった。


「会長、律ちゃんをよろしく頼みます。自分は自分の出来る範囲でお手伝いします。」

「うむ、そうしてくれると有難い。ところで私たち三人の撮影スケジュールはどうなってるのかな?」

「はい、明後日から南雲さん、飛田さん、そして会長の順で撮影させてもらおうと予定しています。」

「他のお二人はカットのみですが、会長には今回の社員募集に関して一言をお願い出来ればと。」

「承知した、新一君。よろしくお願いする。」


それからしばらく雑談した後、新一は仕事があるからと途中退席した。


新一がいなくなるとイギリスの話になった。


「主様はアメリカで不穏な動きがあるとお考えなのですね?」

「不穏とまでは考えてないよ、律。もし私がそのマイケル某をモノクロに見たなら話は別だが、それでも何事もなく済むかもしれん。というより済んで欲しいものだ。」

「・・・。」

「だから私はその男をなるべく見ないようにする。向こうはすでに私と女王を見てると思うがね。」

「相手はイギリス女王に、強大なアメリカの議員だ。さらに第四、第五の人間が現れるかもしれん。私など小さすぎてケンカにもならんよ。」


「主様は小さくなんかありません!」

「主様には私たちがいます!」


「ありがとな、みんな。まだどうなるか分からんが、私は誰かとケンカするために『R.U』を創ったのではないのだ。だから、お前たちが危ないことに巻き込まれるような事態に、もしもなってしまったら、私は『R.U』を解体して一人静かに暮らすことにするよ。」

「わ、私たちはどうなるのでしょう?」

「瑠璃子はスポーツ界、颯は医学界で活躍しろ。律はどこの企業も喉から手が出るほど欲しがる逸材だから問題無かろう。」

「蘭だって昔の仲間が大勢いるから大丈夫さ。まぁちょびっと心配はあるがな。」


四人の従は揃って呆然とした。


赤斗のいない世の中は考えられなかった。

人はやがて死んでいなくなる。死んでいなくなるのなら諦めもつくが、生きてる主がいなくなるのは従にとって耐えられないことだった。


「まっ、どうなるか分からんことで湿っぽくなるな。私ではケンカにすらならんから安心しろ。」


その後この話題が出ることはなく、当たり障りのない話をして久兵衛を後にした。




後日、瑠璃子と颯の撮影が終わり、残すは赤斗のみとなった。

赤斗が『R.U』の理念を述べた後、最後にこう言って締め括られた。

「それが過去であっても、未来であっても、画像であっても、映像であっても構わない。私を見て特定の違和感を感じた女性を、我が『R.U』は社員として採用する用意がある。私は貴女が『R.U』の一員になるのを心より楽しみにしている。」


「ハイ!カッート! お疲れ様でしたー。」


「律ちゃん、これで撮影はすべて完了だけど、最後の会長の言葉あんなに上から目線でいいのかい?」

「あなたホントに何も分かってないのね。会長のあのお言葉にキュンとする女だけ『R.U』には必要なの。私なんかキュンキュンしまくりよ。」

「そ、そんなものなのかい? ならこちらは構わないけど、応募が来なくても俺のせいじゃないからね。」

「間違いなく来るわ、しかも多数ね。」

「じゃあ、放送日時が決まったら連絡するよ。」

「うん、ありがとね、待ってるわ。」



「主様、お疲れ様でございました。」

「いやぁ、律。インタビューと違って、一人でセリフを言うのは私の性に合わんな。」

「いいえ、そんなことはありません。キュンキュンしました。」

「? どこにキュンキュンしたのかよく分からんが、ともかくありがとう。」



「あ、あのう、竜崎会長。私、番組でアシスタント ディレクターをしています、真平 凜と申します。」

突然、横から一人の女性が赤斗に話し掛けた。


「ん? 何かな?」

「実は私、竜崎会長とエリザベス女王の番組を拝見したとき、お二人の姿に違和感を感じたんです。」

「ほぉ、真平さんと言ったかな? どうだ?律。」

「はい、リストに無い名前です。」


「真平さん、私と女王にどんな違和感を感じたのかな?」

「はい、会長は全体が黄色っぽく見えました。女王は何と言うかモノクロに近いような、色が無いような、そんな感じです。」

赤斗と律は顔を見合せた。


「なぜ『R.U』のホームページに問い合わせしなかったの?」

律が訊いた。


「実はあの番組に私も携わっていたので、何となくバツが悪くて・・。」

「なるほど、その気持ちは分かるな。それで私に何か?」

「はい、ここでは言いにくいことなんで・・。あの、今晩お時間ありますでしょうか?」

「あるとも。私の事務所は知ってるね。そこに何時でもいいから来るといい。」

「ありがとうございます。必ずお伺いします。」


そう言って真平まひら りんは足早に赤斗の前から姿を消した。


「どうだ、律。彼女は。」

「主様のお言葉を聞いてキュンキュンしましたって顔ですね。つまり私と同じかと。」

「そうなのか?やはり私には分からんが、それなら貴重な人材になるかもしれんな。」

「はい、事務所に来るというのは、おそらくそういうことでしょう。」

「放送前に反響があるとは幸先いいな。さて、本部に帰ろうか。」


赤斗と瑠璃子はアール本部へと向かった。


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