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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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第三の影

マーガレットに案内されて会場に到着すると、大勢の紳士淑女が赤斗たちを拍手で迎えた。

晩餐会は立食形式で行われ、赤斗は大勢の淑女に、瑠璃子と颯は紳士に囲まれ、それぞれ会話を楽しんだ。


赤斗と淑女たちの話題は『LOVE.RED』のこと、新野 新一が制作した番組で感じた違和感のこと、そして赤斗自身に関する質問に終始したが、番組に関すること以外は適当にあしらい、お茶を濁した。


「サー レッドバロン、私貴方が青っぽく見えましたのよ。不思議でしょ。」

「あら、私は何と言えばいいかしら。サー レッドバロンが薄く見えましたけど。」

「あら、私もよ。」


赤斗は自分に色を見て、かつ女王が薄く見えたという淑女には、ドレスの注文があれば優先的に扱うと言いながら、内緒で自分の名刺を渡した。


赤斗はこの晩餐会を利用して、僅かでも英国内で人脈を広げようとしていた。


(せっかくイギリスくんだりまで出張ったのだから、これくらいのことはしなくちゃな。しかし、立食とは運がいい。)

(さて、瑠璃子と颯はうまくやってるかな?)


一方、瑠璃子と颯は紳士たちに囲まれていた。

スイマーとして世界で活躍した瑠璃子の名は、ここ英国の上流階級者たちの間で今も知られており、瑠璃子の周りには、主にスポーツを愛する紳士たちが集まっていた。


高身長でスタイル抜群の瑠璃子に色目を使う者も多かったが、現役時代からそんな男たちの扱いに馴れている瑠璃子は、適当にあしらいながら、赤斗の役に立ちそうな情報を引き出すことに専念していた。


颯は颯で、やはり世界的脳外科医としてインテリ階層の紳士たちの注目を集めていた。

瑠璃子と同様に情報収集に勤しんでいたが、イギリス国内にいくつも眼科医院を経営する、眼科の権威サー トーマス リプトン博士より貴重な情報を得るのだった。


(早く主様にお伝えしなくちゃ。)

颯の頭はその事で一杯になって、もはや紳士たちとの会話も上の空になっていた。


女王の傍らで赤斗たちを見ていたマーガレットは、赤斗のためにと立食にした女王の気遣いが、どう考えても裏目に出たことに嘆息する。


(バロンは立食になると予見していた? いや、もしかすると羽根川かもね。いずれにしろ、我が国の上流階級層からバロンに情報が渡るのは良くないことだわ。)

赤斗が何らかの目的のために着々と準備を進めている気がして、マーガレットは不安になっていた。


実際のところ、赤斗としては名刺配りなどをして女王側を変に刺激したくなかったのだが、盗撮や盗聴されて黙っていられるほど、赤斗はお人好しではない。それはほんのささやかな仕返しのつもりだったが、思いの外マーガレットにダメージを与えたようだ。




三時間ほどの晩餐会は盛況の中お開きを迎え、赤斗はエリザベス女王に感謝の意を伝え、瑠璃子と颯を従え自室に入り寛いだ。


「いやぁ、どうもああいう場は苦手だよ。だがお前たちはさすがに場馴れしてて、見ていて頼もしかったぞ。二人を連れてきて正解だったな。」

「まぁ、主様ったら、お上手ですわ。」

「主様こそ、セレブたちに囲まれても堂々としてらして、従として誇らしかったです。」

「日頃からお前たちの様なハイ・クォリティの女と接していれば、自ずとそうなる。ところで何か面白い情報はあったかね?」

「はい、主様。サー トーマス リプトンという眼科医から、興味深い話を聞くことが出来ました。」

「ほぉ、どんな話だ。」


「はい、それは───」

リプトン博士は眼科の世界的権威で、イギリス国内ばかりかアメリカでもいくつか病院を経営する、いわゆるやり手の医師であった。

そのリプトン博士の元に、あるアメリカ下院議員の代理人と称する者から連絡があり、博士はこう告げられた。

「今後、彼を見た人々の中から目の異常を訴える者が続出すると思われます。しかし、それは目や脳の病気ではありません。なので、今後彼を見て目の異常を博士に訴えてきても、診察結果は必ず『異常無し』となりますことを、前もってお知らせさせて頂きます。」

「なんだと? そんなことは診察してみなきゃ分からんことだ。」

「では気の済むようにしてください。私の依頼者は厚意でお知らせしただけですから。では、失礼します。」

「待て。その下院議員の名は何と?」


「マイケル インデュラインです。ドクター リプトン。」


「───ということです、主様。」

「それはいつの出来事か言っていたか?」

「はい、二ヶ月ほど前とのことでした。」

「なるほど・・・ 新一君の番組が放送された後だな。」

「いったいどういうことですかね?」

「つまりこういうことじゃない? 病気じゃないんだから変に騒ぎ立てるなよってことよ、颯ちゃん。」

「私も瑠璃子と同意見だ。その議員は何か企んでいて今はあまり目立ちたくない、といったところか。」

「どうやら、私と女王が接触したことによって、本当に何かがこの世界で動き出したのかもしれんよ。」


その夜は赤斗、エリザベス女王、双方特に動くことなく眠りに就くが、さすがのマーガレットも就寝中の赤斗を盗撮することはなかった。




翌朝、瑠璃子と颯の舐め奉仕マッサージで赤斗は目覚めた。

「んん・・、ん? おい、お前たちいつから奉仕マッサージしているんだ?」

「一時間ほど前からです。起きられたようですので首周りをご奉仕しますね。」


「おっとそこまでだ。今日は女王の出方次第で今後の方針が決まる大事な日だからな。さぁ、着替えてから少し打ち合わせをしよう。」

「はい、主様。早速着替えて戻って参ります。」

赤斗の命令は絶対であり、その命令に不服などあるはずもない。

二人の頭からは『奉仕』の二文字はすっかり消えていた。





「では陛下、サーへの回答はそのようにしてよろしいでしょうか。」

「リスクはあるけど背に腹は変えられないわ。よしなに、マーガレット。」

「はっ、陛下。では早速サーに伝えて参ります。」

女官マーガレットは足早に赤斗の部屋へと向かった。



「おや、誰か来たようだね。ドアを開けてやれ。」颯がドアを開けるとマーガレットが入ってきた。

「おはようございます、サー。昨晩はよくお休みになられましたか?」

「あぁ、君のおかげでよく眠れたよ。」


(まさか盗撮がバレた? マズいわね・・」


「それでは早速でございますが、女王陛下のお考えをお伝え致します。陛下はぜひ貴方のお力添えを望んでいらっしゃいます。しかし・・」

「しかし、何かな?」

「やはり英国国民の個人情報を、他国の者に開示することは出来ないと。」

「なるほど、懸命なご判断だ。では我々は帰国するとしよう。」

「お待ちください、サー。話には続きがありまして、英国国民の情報ではなく他国民のデータの打ち込みをお願い出来ないかと。」

「了解した、マーガレット。私に異存はない。喜んで手伝いしよう。」

「おおっ、ありがとうございます!サー レッドバロン。陛下もお喜びになられます。」

「礼には及ばないよ。我々は元々手伝いに来たのだからね。ただし、我々の部屋を覗くような真似は遠慮願いたい。」

「の、覗くなんて失礼なことするはずありません!」

「分かってるよ、念のために言ったまでだ。」

「ふぅ、サーもお人が悪いですわ。では、朝食後に私の部屋で打ち込み作業をしたいと思いますので、部屋でお待ちください。」

「了解した。また後ほど会おう、マーガレット。」

「はい、サー レッドバロン。」


マーガレットはそそくさと部屋を出ていった。


「こうもこちらの思惑通りにことが運ぶと、逆に罠に嵌められていると疑ってしまうな。」

「主様が一枚上手なんですよ。」

「そうなら嬉しいね。」

「ではお前たち、打ち合わせ通りにな。」

「かしこまりました、主様。私たちにお任せを。」



朝食後、赤斗たちはマーガレットの部屋に案内され、分厚いファイルを受け取った。


「これが例の番組を観て異変を訴えてきた人たちのリストだね? みんなドイツ人っぽい名前だな。」

「はい、仰る通りドイツです。」

「なるほどね、かつての大戦で敵国だったドイツ人の情報なら、私たちに見られても構わないってことか。」

「まぁっ、意地悪ですわ。」

「あはは、図星だろ? まぁ私はどこの国でも構わないがね。さて、それでは早速フォーマットを開いてデータを打ち込んでいこうか。何か分からないことがあれば颯か瑠璃子に訊いてくれ。」

「ありがとうございます、サー。」


赤斗たちのデスクにはそれぞれノートパソコンが置かれていて、すでに孫 麗華の作成したフォーマットはコピー済みだった。



「では、瑠璃子と颯はこれを打ち込んでくれ。」

赤斗はファイルを適当に分けて二人に渡した。


渡されたファイルに目を通しながら瑠璃子と颯は手際よくデータを打ち込んでいく。

そのスピードはさすがと言うべきだったが、赤斗はというとお世辞にも早いとは言えず、これでよく一人で来ようとしたものだと二人は思った。

(まぁ、主様のことだから、一人で来たならそれなりの何か策がおありだったのでしょうけでど・・・)


二人の打ち込みペースからすると二日もあればドイツの分は終わりそうだが、早く終わらせるのが今回の訪英の目的ではない。マーガレットでも誰でもいい、女王の側近にこのプログラムを使いこなせるようになってもらうのが、本来の目的だった。

それは女王のためを思っての親切心からではない。巧妙に仕掛けたトラップを発動させるためには、英国側にこのフォーマットを使いこなしてもらわなければならないからだ。


「どうだ、マーガレット。問題は無さそうかね?」

「はい、サー。今のところは問題なく理解出来てますが、このフォーマットを作ったプログラマーは、すごい才能の持ち主のようですね。」

「そうなのか? 私にはその辺のことはさっぱり分からないがね。」

「我が国の上級システムエンジニアが、このフォーマットはよく出来てると褒めてましたもの。」

「そんな人材が私の配下にいるとは頼もしい限りだ。ところで、貴女に問題が無ければ三日後に帰国を考えているのだが、どうかね? あまり長居しても仕方ないからね。」

「分かりました。それまでに致命的な問題が見つからなければ、お帰り頂いて構いません。」

「すまんね、急がしているみたいで。」



それから作業は順調に進み、マーガレットも問題なくフォーマットを使いこなせるようになった。そう考えると、やはりマーガレットも超優秀な人間と言わざるを得ない。


そして、いよいよ赤斗たちが帰国する日が来た。


「それでは女王陛下、私たちは本日帰国しますが、滞在中は色々とお世話になりありがとうございました。」

「もう帰ってしまうのね、寂しくなるわ。」

「陛下がデータ整理を終えられたら、再びこの国に訪れると思います。陛下におかれましては、一刻も早く信頼の置ける従者をお側に置かれるよう、老婆心ながら進言致します。」

「ありがとう、バロン。ミス馬飼に、またドレスをよろしくと私が言っていたと伝えてください。」


「かしこまりました、エリザベス女王陛下。では、これにて失礼致します。」




赤斗たちは空港までマーガレットに送ってもらい、日本行きの便に乗り込んだ。


しかし、赤斗たちが帰国したのは、それから五日経った後だった。





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