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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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肝に銘じて

竜崎会長があなたを救ってくれる、と羽根川 律に言われ、南雲 颯は藁にもすがる思いで竜崎 赤斗に会った。


「はじめまして、南雲 颯さん。竜崎 赤斗と申します。」

「はじめまして、南雲 颯と申します。この度は私事で相談に乗って頂けるということで、大変有り難く思っております。」

「律の後輩がお困りということなら、喜んで微力を尽くしましょう。」

「本当にありがとうございます。宜しくお願い致します。」


「さて、律からだいたいのことを聞いておりますが、確認したいことが一つだけあります。現理事会の連中のことですが、もし貴女が院長の座に就いたあかつきにはどのような処遇を望みますか?」

「皆殺し、と言いたいところですが、現代の日本でそれは不可能でしょう。その代わり理事会の総退陣を最低でも望みます。」

「よろしい。理事会全員が医学界に居られないようにして差し上げます。それで我慢して頂きたい。」


「あ、ありがとうございます!」

颯は思わず泣いてしまった。


(私の前で泣くのはホント勘弁してほしいなぁ。)


「さ、泣かないで。この件が片付くまで私たちと一緒に暮らすと良いですよ。」

「え? そこまでご厚意に甘えては・・」

「なあに、そのくらい気にしないでください。」


「困っている人を助けるのは当たり前ですよ。」


颯は赤斗のその言葉にひどく感動して大きく頷いた。


「はい。そのお言葉、肝に銘じます。それではご厄介になりますのでよろしくお願い致します。」


赤斗が言ったこの言葉は、南雲 颯が医師として生きる上で、後に絶対的な指針となる。


「では、律に颯君。これから私のプランを説明する。」





羽根川 律は従姉弟の新野 新一と会っていた。


「久しぶりだね、律ちゃん。突然どうしたの?」

「テレビ屋の新一さんに面白いネタを提供したくてね。内容はざっくり言えばこうよ。」

「代々受け継ぐはずの病院を理事会に乗っ取られた美人天才脳外科医の話。どう? そそるでしょ。もう一つ加えると、あの飛田 瑠璃子がその女医と親友なんだけど。」


「え!? あの国民栄誉賞の!」

「そうよ。だからあなたに番組を企画してもらい、その女医を院長の座に就けるよう協力してほしいの。」

「あの飛田 瑠璃子が・・・ これは面白いぞ!」


「でしょ。それと重要なことがもう一つ。晴れて院長の座に就けたら、竜崎会長があなたの出世を約束してくださるわ。」

「ん?それは誰?」

「今はまったく知られてないけど、将来そのお名前が必ず世に出るお方よ。私と瑠璃子さんが敬愛する人物、と言えば納得してもらえるかしら?」

「かつて『アメリカの損失』とまで言われたハーバード10の君と、国民栄誉賞の飛田 瑠璃子が? 信じられない・・。」


「新一さん。あなた、私の言うことを信じられらないの?」

律が無表情になった。


「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ。律ちゃんとあの飛田 瑠璃子に敬愛されるような男が日本にいたなんて、って思ったのさ。分かった、協力しよう。」





謎の交通事故死を遂げた先代院長、という設定を付け加え、南雲総合病院乗っ取りを『事件』として扱う形で、新野 新一は特別番組を制作した。


番組出演者は新一のお抱えコメンテーター数人と、超目玉出演として飛田 瑠璃子、そして売れっ子漫才コンビの片割れ、松田 太志がMCを勤めるという豪華版だ。

冒頭で南雲総合病院の成り立ちと、理事会に支配されている現状、そして南雲 颯の生い立ちや経歴、現時点で置かれている立場を紹介し、それに対しコメンテーターが議論するというオーソドックスな進行内容であった。

だが、颯の経歴と顔写真が紹介されると、一気にスタジオのボルテージが上がった。

『悲運の若き美人天才外科医』という言葉がピッタリ当てはまる南雲 颯は、まさに悪徳大臣どもに国を奪われたお姫様を視聴者に思わせた。

そして、コメンテーターたちはこぞって疑惑を煽り、トドメとばかりに飛田 瑠璃子が涙で視聴者に訴えた。

「テレビをご覧の皆さん、どうか私の友人を助けてください。このままだと彼女は外国へ行くしかありません。それは日本のの脳外科にとって計り知れない損失となるでしょう。どうか・・・どうか・・・」

瑠璃子の涙の訴えは国民を動かした。

番組放映翌日の早朝から、南雲総合病院の電話は理事会を非難する電話でパンクし、同じく非難メールでサーバーも一時ダウンするほどだった。


理事会はこの事態に最初はひるんだが、自分達の正当性を主張し、真っ向から対立する姿勢を見せる。

乗っ取りの証明が颯側に出来ない以上、いくら世論が味方しようと検察は動こうともしない。


そこで赤斗が次の手段に出た結果、まさかの理事会全員逮捕という、衝撃的な展開となる。


先代の南雲 健一が交通事故死を遂げたことは、普通なら誰もが不審に感じることだった。

そこで赤斗は律の大学時代の交友関係を聞き出し、その中の交通事故の裁判を主に扱う一人の弁護士に連絡を取らせ、先代の交通事故を徹底的に調査させた。その結果、弁護士によって不審な点がいくつか見つかり、すぐさま新一に第二の特番を組むことを依頼する。

その特番でさらに世論は高まり、ついに検察は重い腰を動かし、理事会の一人を任意同行することとなった。

しかし、いくら世論が高まろうと、検察は安易に疑いの無い者に任意同行を求めない。となれば、それなりの証拠が見つかったということになる。


実は、検察は先代事故死の当初から理事会をクロと睨んでいた。

犯罪が起きた場合、そのことで一番利益を得る人間を疑うのが鉄則だ。先代が亡くなることによって一番利益を得るのは理事会であることは明白だった。そこで検察は慎重に内偵を進めた末、理事会の中心人物を首謀者と断定し、その証拠を掴んだ上で任意同行に及んだのであった。

やはり犯罪はあったのだ。

任意同行を求められた首謀者は、犯行手口と理事会全員が共犯者であることを自白し、ついに理事会全員が逮捕されたのである。

後に分かったことだが、弁護士が見つけた不審点と検察が提示した証拠は見事に一致していた。律の友人弁護士は額面どおり優秀な人物だったのだ。



逮捕された理事会の面々は当然ながら医学界を追放され、南雲 颯は悲願である南雲総合病院の院長の座に就任した。

院長になった颯は、信用の置ける人間を何名か理事に招聘し、病院名も『南雲総合医療センター』と変え、新たなスタートを切るのだった


颯は赤斗に「ぜひ専務理事に就任してほしい」と打診したが、赤斗は「私は何もしていないから、そういうのは律に言ってください。」と言って取り合わなかった。

ならばせめて『R.U』の傘下にセンターを入れてほしい、と願ったところ、それならばと歓迎されたのだった。


本当のところを言えば、赤斗に夫兼理事長になってもらいたかった颯だが、ある日赤斗が緑色に見えて以来その感情はまったく無くなり、代わりに律や瑠璃子のように赤斗に仕えたいと思うようになり、そう間を置かずに従の一人となる。





赤斗に病院と自身を救われた颯は、赤斗がかつて颯に言った言葉を肝に銘じているため、貧しくて手術を受けることの出来ない患者を無料で手術することが多々ある。

患者たちは涙ながらに感謝の言葉を颯に伝えるが、颯は決まってこう言った。


「困っている人を助けるのは当たり前でしょ。」


と。

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