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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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羽根川 律とマーガレット

東京駅に到着した竜崎 赤斗を、羽根川 律、御堂 蘭、佐々 理子の三人の秘書が出迎えた。


「お帰りなさいませ、主様。LOVE.REDへの出張お疲れ様でございました。」

「出迎えご苦労さん。留守中変わったことは無かったか?」

「はい、変わったことと申しますか、マーガレットから状況報告がありました。」

「そうか! 詳細は車の中で聞こう。」

いつもの様に蘭が運転席、赤斗の左右に律と理子が座り、車は『R.U』本部に向けて発進した。



「それでイギリスはどんな状況と?」

「はい、エリザベス女王と主様に色を見た、あるいは薄く見えたという問い合わせが世界中から来ているようですが、なにぶん数が多すぎてまったく手付かずのようです。」

「なるなど。あちらはスケールが違うからな。」

「イギリスでの反響の大きさは予想できたが、まったく手付かずというのは頂けないな。」

「はい、あちらはこの件に関して動いているのが女王とマーガレットだけですし、主様のようなビジョンもノウハウもお持ちじゃないので中々厳しいかと。」


「そうだよなぁ。んー、やはり私が行かねばならんかな。」

「え?」

律が思わず変なアクセントで聞き直す。


「イギリスへ行って、直接女王を指導するんだよ。」

「で、では私もご一緒します!」

「ダメ。お前はこっちで集まった情報の整理などをしてもらわないといかん。何のため私が単身でLOVE.REDへ行ったのか忘れたのか?お前たちが手一杯だからだろ。」

「それはそうですが、イギリスにはLOVE.REDはありません。主様のお世話役が誰もいないのは従として考えられないことです。」


「それだがな、お前のおかげでだいぶ英語も話せるようになったので、今回も一人で行こうかなと。」

「へ!? ・・・・・・・・・。」


律の顔は無表情になっていた。


これはまずいと感じた赤斗は咄嗟に言った。

「まぁ誰か暇な従がいたら連れていこうかな。」

(暇な従などどうせいないだろうがな。)


「・・・・・・・・・・・・・。」

「さ、さて、そうすることにしたから、早速エリザベス女王に訪英を打診してくれ。」


禍々しいオーラを放つ律の無言状態に若干恐れをなした赤斗は、早々に律にご退場願いたかった。


「かしこまりました、主様。では失礼致します。」

無表情のまま律は一礼し、会長室を出ていく。


(こりゃ一人くらいは連れていかんとマズイかな。)

赤斗はそう思った。




自分のオフィスに戻った律は、すぐにノートパソコンを開きメールを作成した。

『親愛なる姉妹各位へ。急遽決まった主様の訪英に際し、随行員を若干名募る。スケジュールの調整可能な者はメールにて返信するべし。なお先着順ではない。律。』

作成したメールを従全員に送る。


律は赤斗から単身での訪英を告げられたとき感情をあえて殺した。そうでもしなければ、主に対して自分が何かよからぬことを口走ってしまうと思ったからだ。

LOVE.REDのときも律は赤斗が単身で行くことを反対したが、まださくらたちがいるからと、自分に言い聞かすことが出来た。

しかし、今回は本物の『単身』だ。敬愛してやまない主が供回り無しで、しかも外国に行くなど律にしてみればあり得ないこと甚だしかった。


しかしありがたいことに、主は暇な従がもしいたら連れていくと言ってくれた。

そこに律は賭けた。もしかしたら誰か随行できる者がいるかもしれない、と。


メールを送信してわずか三分後、律のメールBOXに早くも数通のメールが届く。

早速メールを開くと、どれも思った通り訪英の日時と期間などの問い合わせだった。


日時などはこれから決めるが近日中の予定なので待つように、と律は返信した。


(この調子なら何人かは随行出来そうね。)

律は一安心する。主に一人で行かせては筆頭秘書たる自分の存在価値が無くなる。だが、それは重要なことではない。自分のことなど正直二の次であり、問題は従たちが主より仕事を優先させることにある。    。

姉妹たちが従の存在意義をしっかり理解してくれてることを律は期待した。


(さて、イギリスにいるマーガレットに訪英の伺いを立てましょうか・・。)





バッキンガム宮殿にて──


「ところでマーガレット、レッドバロンは元気かしらね?」

「お言葉ながら陛下。つい二時間ほど前にも同じ話をされましたが、サー レッドバロンは現在主張中とのことでお忙しい様子です。」

「そうだったかしら? なら出張帰りにちょっとこちらに寄ってくれればいいのに。」

「いえいえ、陛下。わが国と日本はちょっと寄れる距離ではないかと。」

「そう? 我がイギリスの最新鋭戦闘機なら『ちょっとの距離』じゃないかしら。それこそちょっと空軍司令官を呼んでバロンを迎えに行かせましょう。」


(我が軍の戦闘機が日本上空を飛んだら外交問題になるのは間違いなしね。)


「陛下、訓練を受けていないサー レッドバロンは戦闘機のGに耐えられないかと。それより何かしらの催しを開いて、バロンをご招待されては如何でしょう。」

「催し物で呼ぶなんて忙しいバロンに失礼じゃない。貴女私たちの同盟を破棄させたいの?」


(戦闘機でお迎えにあがるより幾分マシかと。)


「命令します。何とかこちらへ来てもらえる良い理由と方法を考えなさい、マーガレット。」

「かしこまりました、陛下。」


隣で控えていた執事長が、憐れみの眼差しをマーガレットに向けていた。



この頃の女王は赤斗に信頼を寄せていた。現状が赤斗の言った通りの事態になっていたからだ。

さらに連帯感も相まって、赤斗と出来るだけ逢いたいと思っていた。

それは恋愛感情とは違ってはいたが、赤斗に逢いたいという気持ちは嘘偽りのない想いであった。


自室へ戻ったマーガレットは色々な口実を考えたが、どんな口実もあの羽根川 律に見破られてしまうという確信があった。

あの秘書は味方にすれば心強いが敵に回すと厄介この上ない。さすがは『ハーバード10』と言いたいが、こちらもオックスフォード首席卒業だ。あまり勝てる気はしないが負ける気もしない。

いつか正々堂々と勝負をしてみたい、そんな気持ちだった。




そろそろサー レッドバロンが出張から戻る頃かな、と思っていた矢先、羽根川 律から竜崎 赤斗訪英の打診が来た。

マーガレットは跳び跳ねたい気持ちを抑え、なに食わぬ顔でモニターに映る律を見た。


「女王陛下はお忙しい身でしょうから、私の方から主に訪英を控えるよう進言しましょうか?」

「お気遣いありがとう。でも、せっかくサー レッドバロンが陛下にお逢いしたいとおっしゃってるのに、それを私たちで無いものにするのは不敬の極みですわ。」


(主様は貴女たちが不甲斐ないから、わざわざイギリスくんだりまで行くと仰られているのよ。オックスフォード首席は存外に使えないわね。)


(シメシメ。中々良い口実が浮かばず苦しんでいるときに、わざわざサー レッドバロン自ら来てくださるとは。しかし、お忙しいバロンに動いて頂くなんて、ハーバード10の秘書は存外に使えないわね。)


二匹の女狐は素知らぬ顔でお互いを見ていた。


「その通りね。では、女王陛下のご意向をお聞き次第、連絡を頂戴ね。」

「承知したわ、ミス羽根川。ちなみにですけど、随行員は何名の予定かしら?」

「まだ調整中だけど、もしかしたら単身でお邪魔するかも。」


「へ!?」

(ちょっと何なのこの秘書。主のお世話するのが私たち従者の存在理由じゃないの?)


「我らが主は誰に対してもとても慈悲深くていらっしゃいます。今回の訪英は主のために誠心誠意働く私たちにお気遣い下さり、単身で行かれると申されました。」

「だけど、単身はまだ決定事項ではないことをご承知おき頂きたいわ、ミスマーガレット。」


「ふぅ、あまり驚かせないでミス羽根川。サー レッドバロンほどのお方がお一人でいらっしゃるなんてことを陛下にご報告したら、バロン思いの陛下は卒倒しかねません。ヘタすると戦闘機でお迎えにあがることになりかねない──。いや、それはこちらの話ね。」

「とにかく貴女がお側にいるのだから、くれぐれもバロンお一人の来英はお止めくださいね。」


羽根川 律はいつの間にか無表情に成って果てていた。

「承知したわ。では女王陛下に宜しくお伝えしてね。バーイ、ミスマーガレット。」

「バーイ、ミス羽根川。」


回線が切れたのを確認し、律は再びメールを作成する。


『追伸。敬愛する我らが主様のために、可能な限りの随行員を集うものなり。』


「若干名」から「可能な限りの人員」に内容を変更して再び送信する。


赤斗を一人で行かせることがどれ程不名誉なことか、そんなことマーガレットからわざわざ言われなくとも律は分かっている。だが、主の意向に反して大勢で随行することこそ不敬。

しかし、たかがオックスフォードで首席を取った程度のマーガレットに、あの様に言われたままではいられない。


律は赤斗からのお咎めを覚悟で姉妹たちに召集をかけた。





「陛下! 朗報でございます! サー レッドバロン側から、近日中に訪英させて頂きたいとの申し出がありました。」

「なんと! それは本当かえ? しかし何ゆえバロンは?」

「はい、陛下。サーは陛下の手伝いをしたいと願っているようです。」

「手伝い? はて・・・・。まぁ理由はこの際どうでもよろしい。歓迎するとバロンに伝えなさい。」

「ハッ! 陛下。」


(ウフフ、レッドバロンにこうも早く逢えるとは・・。これも運命かしらね。)



会長室で一人物思いに耽っていた赤斗は、ずっと訪英のことを考えていた。


(女王よ。私が善意だけで貴女の手伝いをすると思っているなら、貴女はきっと痛い目に遭うことになると忠告しておこう・・・。)



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