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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
20/41

ドタバタLOVE.RED 5

さくらたち三人は、名古屋駅の新幹線乗り場の出口で赤斗を待っていた。


「まだかなまだかなぁ。」

「うぅ、緊張してオシッコ漏れそう・・。」

「私も。あっ!来たー!」

「ホントだ、会長ー!」


エスカレーターから降りた赤斗が、手を振って近づいてきた。


「会長ーっ!」

手を振り返しながら、さくら、里奈、紅葉は泣きそうだった。

久しぶりに見た主は、父のような安心感を与えてくれた。


「おぅ、出迎えご苦労。みんな元気か?」


今すぐピョンと飛んで赤斗に抱きつきたかった三人だが、さすがにそれは我慢したようだ。

「はい!主様!」

「そうか、それは嬉しいことだ。私も元気だよ。」


主の言葉は魔法の言葉。一言聞くだけで幸せになる。


「主様、お荷物お持ちします。」

三人は赤斗のスーツケースとバッグを取ろうとしたが、赤斗は渡さなかった。


赤斗はいつもそうだ。重い荷物を従に持たせるのを三人は見たことがない。

私たちは『奴隷』なんかじゃない、と三人は心の中で叫んだ。

だが、世間は『主従』と言えば『SM』を連想し、そして『ご主人様と性奴隷』に行き着く。

女はMで、Mは奴隷。いつからそれが当たり前になったのだろう。

嫌な世界だと思った。


「しばらく世話になるぞ。」

「世話になるなんて言わないでください。主様のお世話は従の勤めであり歓びですから。」

「そうだったな。さて、お前たちの工房へ行って荷物を置くとしよう。」




LOVE.REDに向かうタクシーの中で、さくらは赤斗に主従関係がみんなにバレていることを報告していた。


「そうか、おおかた誰かの寝言でも聞かれたんだろ。バレたものはしょうがない。」

赤斗が「寝言」のことを知っている口調だったので、律のとき路魅が言った「盗聴器」の話を思い出したが、一瞬とはいえ主を疑うような自分を殴りつけたい衝動に駆られた。


「何を驚いている? お前たちは私の言い付けを絶対に守る。ならば、お前たちの意思に反して「主従」に関する言葉が口から出たことになる。つまり寝言か尋問のどちかが考えられるが、さすがに後者はないだろう。なら寝言しかない。」

「ちなみにさくら、お前はイギリスに行ったとき、主様~、大好きです~って寝言を言ってたぞ。」


カァーッとさくらの顔が赤くなった。


「ずる~い、さくら。一人だけ主様にアピールしてー。」

「イヤイヤ、お前たちも似たような寝言言ってたぞ?」

「ふぇ、ホントですか? そりゃバレるわね。」

「アハハ!」

「あっ、そろそろ着きます。主様。」




LOVE.REDは小規模の貸ビルに転居していた。

三人でスターとした工房は赤斗たちの支援を受けてから急に業績が延び、一気に15人の人員を抱える中堅工房となった。

そしてエリザベス女王のドレスの受注を期にさらに10人を増員したが、それでも海外からの仕事の大半を断っている有り様だった。従って今後はさらに増員して、海外受注の完全取り込みを狙っている。

そのための人員大幅増を見越して、小さなビルを借り切ったのだった。


「おっ、これが今度借りたビルかね。思ったよりデカくて立派だな。」

「ありがとうございます! さぁ、どうぞお入りください。」


自動ドアが開き赤斗がエントランスに入ると、4人ほど社員らしき女性が並んでお辞儀をした。

「ようこそいらっしゃいました、竜崎会長様。」

「ありがとう、みんな。しばらくお邪魔するよ。」

(うわぁ、背が高い・・)

(オーラがすごい・・)

(テレビで見るより素敵。)

(この人がさくらさんたちの言う主様ってわけね。)

挨拶をした女たちは四者四様の感想を抱いた。


「さぁ主様、お荷物を置いたら工房内を案内しますね。」

「おぅ、頼む。」


最初に三人に案内されたのは赤斗が寝泊まりする部屋だった。

広さは10帖ほどで、かなり大きめのベッドが置いてあった。話によると、赤斗が急遽来社するとの報を受けたあと、市内中の家具屋に問い合わせをして、何とかベッドと寝具一式を揃えたとのことだった。


「私一人では大きすぎるベッドだな。」

「何を言ってるの主様。四人だとギリギリよ、ねーみんな。」

里奈がさくらと紅葉に同意を求めるように言う。


「まさか、お前たち三人一緒に添い寝かね?」

「うん! 里奈は小さいから多分大丈夫だよ。」

「私が寝返り打てん、却下。」

「えーっ! で、では何人まで添い寝はよろしいのですか?」

紅葉はまさか赤斗がそんなこと言うとは思わずうろたえたが、一人も添い寝出来ないのは悲しすぎるので、簡単には引き下がらない。


「一人またはゼロ。あのな、私は遊びに来たんじゃないぞ。お前たちが困ってると言うから来たんじゃないか。」

「それではご奉仕マッサージも一人ずつでしょうか? 一人だとちゃんとご奉仕マッサージできるか心配です・・。」

さくらが不安げに訊く。


「その辺は好きにしていい。一人だとイギリスのときみたいに揉めるだろ。」

「ハイ! ありがとうございます!」


考えてみたら一人だけの添い寝の方が朝の主様を独占出来るじゃない、と気付いた三人は内心シメシメと思っていた。


「ご奉仕マッサージの段取りも決まったし、これで心置きなく呑めるね!」


(だから主様は遊びにいらしたんじゃないって仰ってるじゃない。)

さくらは里奈を叱ろうとしたが、気配りのさくらはグッと我慢した。




予約した『龍宮楼』に約20名が集まった。

これだけの人数の当日予約なんて絶対無理と思っていたこう 路魅ろみだったが、さくらから「レッドバロンがいらっしゃると言えばオッケーよ。」と言われ半信半疑で電話をしたところ、支配人とやらが慌てた様子で電話を替わった途端、あっさりオッケーが出た。


しかも食事代は全て無料、つまりは龍宮楼が赤斗たちを「招待」する形となったのである。


路魅がビックリしてその話をさくらにしたところ、さくらより次のような説明を受けた。

龍宮楼の本店は香港にあり、香港は元イギリス領なので、今でもエリザベス女王を敬愛する香港人は今でも多く存在する。

その女王の口から「友人」と言われた竜崎 赤斗を「彼こそ東洋人の誇りだ。」と一目置く香港人は多い。

そして、龍宮楼の創業者はその中の一人だった。

創業者のひ孫である支配人から「もし、サー・レッドバロンが名古屋にいらっしゃったらご招待したいので知らせて頂きたい。」とさくらは言われていたので、今回それを思い出して路魅に予約を頼んだわけだ。


その話を聞いた路魅は、さくらが言った言葉「女王のマブダチでいらっしゃるレッドバロンをナメないで」の本当の意味がここに来て分かった気がした。

「性奴隷」を所有するような人間をエリザベス女王が「友人」と認めるはずがない。まして爵位を与えるなどもっての他だ。

たとえ冗談半分でも、さくらたちを性奴隷と言ってしまった自分はなんて下衆な女だろう、路魅はそう思った。




龍宮楼の店内に入ると、すかさず創業者一族の一人である支配人が、赤斗に近づいてきて挨拶をした。


「ようこそお越しくださいました。噂に高いサー・レッドバロンをお招き出来たこと、光栄の極みにございます。」

「こちらこそお招き頂き感謝致します、支配人。」


香港人というのはとかく「見栄」を重んじる民族であり、レッドバロンが来店するという一報は、直ちに香港本店にいる「総支配人」の元に届き、総支配人は言った。


「一族に恥をかかせるようなまねだけは絶対にするな。」と。


万が一、女王の友人であるレッドバロンから飲食代を貰おうものなら赤っ恥もいいところだ。そうならないための『招待』だった。


さくらはその辺りの事情が読める女だったから竜宮楼を歓迎会に選んだ。

レッドバロンを龍宮楼に『招待』することによって、支配人は一族から一目置かれる存在になるだろう。そうなれば支配人は恩を感じ、後々赤斗の役に立ってくれる存在になるはず。そうさくらは考えた。

赤斗の見立ての通り、楼蘭 さくらはやはり優秀な女だった。


支配人自らに案内された部屋で、赤斗たちは高級中華料理と酒を思い切り堪能した。しかし、フカヒレや燕の巣など普段お目にかかれない食材に興奮したのか、はたまた呑み慣れない紹興酒をしこたま呑んだからか、それとも元々酒癖が悪いのか、スタッフの中の数名が悪酔いし始めた。


「ねぇねぇ、さくらさんたちって会長の奴隷なのー?」

「私らの間じゃ性奴隷ってことになってんだけど、それってホントなの~?」


「やめなよ! 会長がいらっしゃるんだよ!」

路魅が戒めたが、酔っ払いには聞く耳も理性もない。


さくらたちが無視すると、その矛先は赤斗に向いた。

「会長~、どうなんですか~?」


「里奈も紅葉もさくらも奴隷なんかじゃないよ。少なくとも私たちはそう思っていないが、君がそう思っているならそれでもいい。どう思おうと人それぞれの勝手だからね。」

「えーっ、奴隷じゃなければ何なんですか~?」


「私の一番大切な『宝物』だ。」

赤斗はそう言ってから一枚の写真を取り出した。


「ほら、見てごらん。イギリスで撮ったものだ。」

そこには赤斗とエリザベス女王が並んで椅子に座っており、その周りを従たちが囲むように立っていた。

「ほら、みんないい笑顔をしてるだろ? 古今東西、奴隷と呼ばれた者たちはこんな笑顔をしない。本物の奴隷がどういうものか知らない人間が、奴隷という言葉を簡単に使うもんじゃない。まして日本人は一度も外的侵略を受けたことのない恵まれた人種なのだからね。」


「そんなこと言ったって、里奈ちゃんたちとヤルことヤってんでしょ~? そんなのただのキレイごとじゃないないんスかぁ。」

酔っ払いのスタッフがそう言った瞬間、北京ダックが飛んできてスタッフの顔面に当たった。


「テメエーッ いい加減にしろ! 主様の文句はアタシに言え!」

里奈が顔を真っ赤にして怒鳴った。


「やったわね!」

北京ダックをぶつけられたスタッフが、グラスに入った紹興酒を里奈にぶちまけた。


それを合図に、里奈たち三人組と酔っ払いスタッフ三人組の取っ組みあいが始まった。

周りにいる他のスタッフが止めようとするが、六人の気迫の前にたじろぐばかりだった。


「会長!止めてください!」

当然のことながらスタッフが赤斗に止めるよう促したが、「君たち、凶器になりそうなものをアイツらから遠ざけてくれ。」

と言ったきり止めようとしなかった。


何なのこの会長は?と憤りを感じながら、会長がダメなら店員に止めさせようと周りを見たが、支配人が赤斗の隣にいるだけで店員は誰一人いなかった。


「申し訳ない、支配人。ここの修理代や迷惑料などは『R.U』本部に請求して頂きたい。」

「滅相もございません、サー・レッドバロン。これらも込みの招待でございます。それに女性が元気なのは良いことですよ。」

「まったくその通りです。女性に活気のない国はいずれ滅びます。」


「さて、そろそろいいかな。里奈、紅葉、さくら、そろそろ止めなさい。」

「だって主様!この人たち主様にひどいことを!」

「お前たちの気持ちはよく分かる。だがその娘たちの気持ちも分かるつもりだ。その娘たちはお前たちのことを想って私を責めたんだよ。違うかね?君たち。」


黄 路魅がさくらに言ったように、LOVE.REDのスタッフはみんなLOVE.REDと里奈たちが好きなのだ。だから、どんなに忙しくても、たとえ徹夜続きの仕事が続いても、誰一人LOVE.REDを去る者はいなかった。

しかし、竜崎 赤斗とLOVE.REDのいきさつを知らないスタッフには、さくらたちが金で赤斗のいいなりになっているように見えてしょうがなかった。その結果『R.U』会長への憎しみが少しずつ蓄積されていたのだ。

その溜まった鬱憤が赤斗を前にして爆発した。酒の力を借りて。


「ごめんなさい里奈ちゃん。みんな一生懸命頑張ってるのに、会長は里奈ちゃんたちをただ自分の為に利用してるだけと思っていたの。」

「でも、会長を幸せそうに世話するのを見て、そしてイギリスでの写真を見せてもらったら会長はそんな人じゃないと分かったきたのだけど、酔った勢いでつい・・。」

「そうだったんだ・・。心配してくれてたんだね、ありがとう。」

「ううん、悪いのは私たち。許してくれたら嬉しい。」

「もちろん! 私たちチームだもん。」


「ん、これで一件落着だな。」


「会長、一つお訊きしてもよろしいですか。お止めにならなかったのはこのことを知ってらしたからですか?」

黄 路魅が赤斗に訊いた。


「私に絡んで来たときに感じた憎しみは、取っ組みあいのときは感じなかったからね。。だからこのままガス抜きさせた方がいいかなって思ったんだ。」

(これが『R.U』の会長・・、そしてエリザベス女王から爵位を戴いた方なのね。ん、何これ?会長が青く見える!?)


「会長が変です!青くなってる!」路魅が小さく叫んだ。


!!


(まさか路魅ちゃんが!?)

さくらたちは驚いた。そしてすぐに赤斗を見る。


(なるほど、里奈たちと同じパターンかもしれんな。)


後にLOVE.REDのロンドン支部長になる黄 路魅は、この日竜崎 赤斗に色を見た。

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