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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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ドタバタLOVE.RED 3

『LOVE.RED』に姿を現さなくなって一週間ほど過ぎた頃、楼蘭 さくらは赤斗から渡された名刺に書かれた住所に向かっていた。

さくらは飛田 瑠璃子に会いたかった。

いや、誰でもいいから会って話をしたかっただけかもしれない。とにかく一人でいたくなかった。

そんなとき大ファンであり、工房に来てくれた飛田 瑠璃子の顔が浮かんだのだった。


事務所の前に立ちチャイムを押すと、飛田 瑠璃子が笑顔で迎えてくれた。

中に入ると竜崎 赤斗とハーフらしい美しい女性がいた。


「いらっしゃい。話は瑠璃子君から聞いたよ、大変だったね。」

「さ、遠慮しないでゆっくりしなさいね。」

ミルクティーを出しながら瑠璃子が言った。


瑠璃子の入れてくれたミルクティーは美味しかった。


「美味しい・・。」

「美味しいだろう? 瑠璃子君の入れるミルクティーしか私は飲めないんだよ。」

「あら、ウソばっかり。竜崎さんはミルクティー大嫌いじゃない。」

「アハハ、そこはバラす必要無いんじゃないかね。」

(この人最初に会ったときと何か違う。この前はニコリともしなかったのに。)


「とにかくよく無事に来てくれた。ありがとう、感謝するよ。」

「え!? 無事にとは何ですか?」

「女の娘がそんな顔するもんじゃないぞ。まるで今にも電車に飛び込みそうだ。」


赤斗の言葉を聞き、とうとうさくら気持ちが溢れてしまった。


「うわーん」

顔を両手で覆って、さくらは子供のように泣いた。


号泣しているさくらを見て、赤斗はいつものように慌てた。

(女の涙は見たくないんだよなぁ。)


「いっぱい泣いていいのよ、楼蘭さん。人間は泣くときに泣かないと心が壊れちゃうから。」

いつの間にかさくらを抱きしめ、瑠璃子が言った。


20分ほど泣いて、ようやくさくらは落ち着いた。


「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした・・。」

「気にしないでいい。女の涙は苦手だけど見慣れてるから大丈夫だよ。アハハ。」


「竜崎さん、そこは笑うところではないかと。」

「む、律君は厳しいな。おっ、そういえば律君は初めてだったね。紹介しよう、つい先日から私たちに力を貸してくれることになった羽根川 律君だ。」

「初めまして、羽根川と申します。」

「あっ、初めまして! 楼蘭 さくらといいます。」

「まぁ挨拶はそれくらいで。で、何があったの? よかったら話を聞かせて。」

「はい、実は──」


自分やLOVE.REDの置かれている立場、融資の話、そして自分の気持ちをさくらは話し始めた。

誰かに話を聞いてもらえるだけで、こんなにも気持ちというものは軽くなるのかと、さくらは初めて知った。


「なるほどね、その気持ちは痛いほど分かるわ。それで竜崎さん、どうすればいい? あなたの理想実現のためならこれくらいの問題楽勝でしょ?」


(お手並み拝見よ、竜崎さん。)


「おい、無茶振りするな。まぁ考えは無くもないが──」

「ちょっとよろしいでしょうか? 初めてお会いした時も言ってらしたけど、理想って何ですか?」

「それは──」


「私たち女が泣かなくて済む世界を創ることよ。」

赤斗の言葉を遮って律が言った。


「え!? そんなこと出来るんですか?」

「この人なら出来る。少なくとも私と律ちゃんはそう信じて疑わないわ。」

瑠璃子がドヤ顔で言った。


さくらは戸惑った。目の前にいるゴールドメダリストの飛田 瑠璃子は、知性豊かなアスリートで有名だった。だから大ファンになったくらいだ

そして、その隣にいる羽根川 律と名乗ったハーフの美女。その瞳と口元からは理性と知性が溢れていた。


そんな二人が、竜崎という男の絵空事を本気で信じているらしい。


なぜ?なぜ?なぜ?


少し混乱したさくらに赤斗は言った。

「まぁ理想の話は置いといて、とりあえず私の話を聞いて欲しい。さくら君、君はまず勘違いをしている。君は自分を足手まといと感じているようだが、それは大きな間違いだ。君がいなかったらとっくにLOVE.REDはなくなっていただろうね。」

「そんなことありません。里奈と紅葉のお陰です。」

「いいかい? どんなによい包丁も、使う人間次第で切れなくなるんだよ。私が言いたいことがわかるかね?」

「はい、分かります。」

「君たちは三人で一人。三人いたからこそLOVE.REDは今までやってこれたんだよ。だから君は足手まといなんかじゃない。私が見た君は気配りの出来る有能な女性だ。出来ることなら君を私の手元に置いときたいくらいだよ。」


心なしかさくらの頬がほんのり赤くなった。

「そ、そんな、気配りなんて・・。」

「君はオリンピック後の瑠璃子君のことを深く訊こうとしなかった。それだけで分かるよ。」

「とは言ってもLOVE.RED二人は君を絶対に手離さないだろうね、残念だけど。」


「さて、問題の資金繰りだが、要するにLOVE.REDの収入に見通しがつけば解決するわけだね?」

「はい、それが出来れば融資を受けなくても済むと思います。」


「よし。では律君、早速君の力を貸りるとしよう。彼女たちのホームページを英語に翻訳して英語版のホムペを作成してくれないか。それで海外からの受注が増えるだろう。」

「かしこまりました。お安いご用です。」


「わぁ、助かります! 実は海外からの問い合わせメールとかが来ても、誰も英語分からなくてシカトしていたんです。」

「それなら、そちらの対応も私にお任せを。」

「ありがとうございます!」


「で、私に何か出来ることある?」

「瑠璃子君はそうだな・・、確か君も英語出来たよね? そうしたらしばらく律君のサポートをしてもらいたい。その内に君のアスリート時代の人脈と名声が活きる時が来るからそのとき頼むよ。」

「了解。なるほど、日本国内だけじゃ先が見えるものね。」

「その通りだ。国内市場だけでは狭すぎる。」


「あの、大変お恥ずかしい話ですが、お二人に給料をお支払い出来るほど余裕ないです・・。」

「ということだが、どうするね?おふたりさん。」

「余裕が出来たらで構わないわ、ねぇ律ちゃん。」

「はい、私も大丈夫です。」


「よし!なら決まりだ。では今すぐLOVE.REDの二人に連絡して安心させてあげなさい。」

「はい。その前に皆さんにお訊きしたいのですが、飛田さん、羽根川さん、お二人はなぜそこまで竜崎さんを信じられるのでしょう?」


「そうねぇ、私も律ちゃんも竜崎さんによって大切なものを救われたからかな。それと二人とも竜崎さんに『色』を見たのが大きいかしら。」

「色ですか?」

「そう、色よ。でも今言ったことは出来たら忘れて。」

「はい。では竜崎さん、最後にお訊きしますが、なぜ私たちを助けてくれるのですか?」


「困ってる人を見たら助けるのは当たり前じゃないかね。さぁ、電話しなさい。」


こうしてさくらはLOVE.REDに戻り、泣き腫らした目をした里奈と紅葉にこっぴどく叱られ、二度と『家出』をしないという誓約書まで書かされた。

それから、大手IT企業からの融資話を正式に断ったとの報告を里奈からされたのだが、赤斗が提案してくれた話を二人にしたら、里奈と紅葉がそれぞれ賛成してくれたので、英語版ホムペの作成を赤斗へ正式に依頼することになった。


その後、英語版ホームページを開示してから徐々に海外からの受注が増えた、。さらに幸運なことに、政府が新たに構想した『クールジャパン戦略』の推進委員にゴールドメダリストの飛田 瑠璃子が選ばれ、瑠璃子は強力にLOVE.REDを推し、一躍LOVE.REDの名は世界に知られることになった。


後に女官マーガレットがエリザベスのドレスのデザイン候補にLOVE.REDをエントリーしたのは、単にマーガレットが日本びいきだったからではなく、飛田 瑠璃子と羽根川 律、そして竜崎 赤斗の力によるところが大きかったのである。

こうしてLOVE.REDは資金繰りの問題を解決した上に、大幅な増益を達成したのだが、それを知った件のIT企業の幹部が悔しがったことを、さくらたちはついに知ることはなかった。

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