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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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エリザベス女王と『R.U』 5

『R.U』サイドから竜崎 赤斗、羽根川 律、馬飼 里奈の三人、英国サイドからマーガレットと二人の官僚、計6人でエリザベス女王謁見に関しての打ち合わせが始まった。


打ち合わせにおいて特筆すべき点は無かったが、竜崎 赤斗から一つの要望が提示された。

その要望とは、今回同行させた従全員を女王謁見の場に立ち会わせてもらうことだった。赤斗にとってこのことは計画の一環として重要な行為である為、どうしても譲れないところだったが、意外にもあっさり要望は通った。


(同行人数の大幅増しのときといい、今回のことといい、どうやら女王は本格的に『R.U』に興味を持っているようだな。)


打ち合わせは滞りなく終了し、以下のことが決まった。

・女王への謁見は二日後の午前11時開始、その後、女王主催で昼食会を行う。

・同日午後3時より、女王立ち会いの下、ドレスに関して最終打ち合わせを行う。

・その際『R.U 』側からの出席者は、チーフデザイナー馬飼 里奈とサブチーフデザイナー楼蘭 さくらのみとし、女王からの最終決定が下りなかったときは、日を改めて再度打ち合わせを行うものとする。

・イギリス滞在中、特に日中の飲酒禁止(いつ女王の呼び出しがあってもいいように。)


ホテルに戻ってから律がそのことを全員に告げ、イギリス滞在初日の予定は終了した。


女王に謁見するまでは呼び出しも無いだろうということで、赤斗たち一行は夕食を摂るためロンドンの街へ繰り出した。

案内役は学会などで頻繁にロンドンに訪れている南雲 颯が引き受け、自分のお気に入りのレストランへ赤斗たちを案内した。


「主様、ここはイギリスの家庭料理をメインにしたお店で、とても美味しいのですよ。」

「そうか、それならオーダーはお前に任せよう。いいかね?」

「ハイ!主様。」


次々に出てくる料理は日本ではあまり見かけない物ばかりだったが、味はどれも良かった。

食事中の赤斗の世話は御堂 蘭、流川るかわ 紅葉もみじ楼蘭ろうらん さくらが引き続き行った。今日一日はこの三人が奉仕担当だ。


「主様、おかわりは如何ですか?」「このスープは熱いのでフーフーしますね、主様。」「次のお飲み物は何にしますか?主様」

自分たちはいつ食べてるのか、というくらい三人はかいがいしく主の世話をやいていた。従にとって主の世話をやくことほど幸せな時間はなく、一食くらい食べなくても少しも問題にならない。

奉仕は従の最高のご馳走なのだから当然のことだ。


「さてと、理子どうだ?」

「はい、主様。主様の予想通りです。」

「やはりな。瑠璃子はどうか?」

「はい、数名ほど。」


赤斗は食事に出掛ける前に理子の携帯に電話を掛け、通話したままの状態で携帯電話を自分の部屋に置いてきていた。

そして、理子は外出中ずっとイヤホンで室内の物音を聞いていたのだった。

赤斗は食事に出掛けている最中に誰かが部屋に侵入するだろうと予想していたが、今の理子の様子では予想が的中したみたいだ。


さらに赤斗はこのレストランにも見張りがいるはずと睨んだので、飛田 瑠璃子に命じて店内の不審者がいないか、それとなく探らせていたのだが、どうやらそれも当たったようだ。

(おそらくイギリス諜報部MI6辺りが私を調査しているのだろうが、これで女王の本当の目的が私であることはほぼ間違いないな・・。)


「律、予定通りになりそうだと新一君に伝えろ。」

「チャンスは最大限に活かす。それが私の主義だ。」

それが誰かに向けて言ったものか、独り言なのか、赤斗にしか分からないことだった。


いよいよエリザベス女王との謁見である。



午前11時ちょうど、バッキンガム宮殿の『謁見の間』にて、竜崎 赤斗と『R.U』の幹部連が、エリザベス女王と対面した。


「よく来てくれました、ミスター竜崎とその従僕たちよ。」


(何?女王は今、従僕と言ったのか? なるほど、そこまで調査済みというわけか。なら話は早い。)


赤斗の後方には、白を基調としたドレスを身に纏った19名の従たちが整列していたが、羽根川 律だけは通訳として赤斗の隣にいた。


「この度はお招き頂き光栄の極みにございます、女王陛下。『R.U』会長、竜崎 赤斗でございます。なに分このような場に慣れておりませんので、失礼な振る舞いや言動があるやもしれませんが、平にご容赦願えれば幸いでございます。 皆、跪け。」


赤斗の言葉を聞き、従たちは一斉に片膝を床につき臣下の礼をとったが、その礼はエリザベス女王に対してではなく明らかに赤斗に対するものだった。

自分たちの敬愛する主は赤斗であって、女王ではない。その意志がはっきり表れていた。


女王謁見の場でかつてこのような態度をとった者はいなく、最悪の場合不敬罪で勾留されてもおかしくはない振る舞いだった。

それを見た女王の臣下たちは怪訝な表情を露にしたが、赤斗と女王は涼しげな顔をしたままだった。


「よく躾のされた従僕ですね、ミスター竜崎。」

「恐れ入ります、陛下。陛下に比べれば取るに足らない人数の従ですが、その忠誠心は陛下のご臣下にも劣らないものかと存じます。」

「それは頼もしい従僕ですね。さすがハーバード10を従えるだけのことはあります。」

「そこまでお知りでしたか。では、このことはご存知か、陛下。」


「私はかつて、陛下が『モノクロ』に見えたことを。」


「あっ!」

女王の後ろに控えていた女官のマーガレットが小さく叫ぶ。


女王は目を見開いたまま、赤斗の顔を凝視している。


「マーガレット。ここへ。」女王はマーガレットを呼び何か囁いた。するとマーガレットは頷き、

「謁見はこれにて終了とし、これより陛下とミスター竜崎二人だけで会談を行います。昼食会は会談終了後とし、開始時刻は未定とします。」


「よろしいか?ミスター竜崎。」

「御心のままに、エリザベス女王陛下。」


二人だけで会うなどとんでもない、と執事長と衛兵隊長の二名がマーガレットに抗議したが、マーガレットから「陛下のご命令に従わないのですか。」と言われれば引き下がらざるを得なかった。

だが、赤斗側から通訳として羽根川 律を同席させたいとの要望があり、女王側からマーガレットを同席させることになった為、かろうじて赤斗と女王の二人だけという事態は免れ、二人は若干落ち着いた。



場面はやや狭い応接室だが、密談にはちょうどいい広さの部屋だった。


「さて、ミスター竜崎。」

「竜崎で構いません、陛下。」


まず赤斗がこれまでの経緯いきさつを女王に説明した。


「なるほどよく分かりました。それで貴殿は、私も貴殿に対して何かを感じたはずと言いたいのね。」

「あくまで推測ですが、おそらく間違いないかと。」


「仮に感じたとしたらどうなるのかしら?」

「はい、これも推測ですが、人類にとって良からぬ事態が訪れるやもしれません。」


「それはまた大事おおごとですね。それはどういう事態でしょう。」

「はい、陛下。私がここにいる律から聞いた話では、そこにいらっしゃるミスマーガレットも私に何か異変を感じたはずです。そこで陛下にお訊きしますが、日本から遠く離れた異国のお二人が、如何なる手段を以って、このように私たちと出会えたとお思いか?」


「メディアとネットの発達のおかげで貴方たちと出会うことが出来た、と仰りたいのでしょうか。」マーガレットが言った。


「その通り。ミスマーガレット。私の調査では、陛下はここにいる律が出演したテレビ番組で私をお知りになった。そして、ミスマーガレットはネットで『LOVE RED』を知った結果、私と会うこととなった。」


「ならば、この先我々以外にも同様の経験をする人間がいるかもしません。いや、すでにいるでしょうね。」


「それで?」女王が続きを催促する。

「陛下と私の共通点を一つ挙げるとすれば、それは何だと思いますか?」

「同じ人類、という答えを望んでいるわけでは無さそうね。そうね・・・お互い多少の差はあるけど、従僕を従えていることかしら。」


「さすが陛下、ご明察です。ならばこの先我々と同じ存在が現れてもおかしくはないでしょう。」

「・・・、それらに主従が私の敵になるとでも?」


「可能性はあります。だが味方になる可能性もまたあります。」

「ちょっと待って。その前に私と貴殿が敵同士という可能性もあるのでは?」


「仰る通りです、陛下。しかし、陛下は馬飼 里奈のデザインを選ばれました。そこで私は予感しました。陛下と私は少なくとも敵同士にならないと。」


「なるほどね、確かに貴殿に対して悪い印象を私は持っていない。でも引っ掛かることが一つあります。」

「モノクロですね?」


「その通りです。」

「話からすると、貴殿の従僕は何かしらの『色』を貴殿に見ている。つまり、貴殿に色を見た者は少なくとも敵になっていない。そうなると、モノクロに見えた者は貴殿の敵になる可能性があるのでは?」


「仰る通りです、陛下。しかしこうは考えられませんか。モノクロゆえに今後『色』がつく可能性があることを。」


「・・・。マーガレットどう思いますか?」

「はい、陛下。ミスター竜崎の仰ることは空想の類ではないかと。」


「私もそう感じるわ、マーガレット。それで竜崎、貴方はこれから何をしたいのかしら?」

「はい、失礼ですが私は陛下の味方になりたいと思っております。つまり、僭越ながら今後起こりうる事態に向けて同盟関係を築ければと考えております。」


「同盟? 国を持たない者と?」

「同盟と言っても国同士のような大袈裟なものではありません、極端に言えば女王と私個人の間でです。もし陛下のお許しがあれば、早速行動に移る所存です。」


「行動とは一体どういうことでしょう?詳しく聞かせて、竜崎」



そこで赤斗は番組のことをエリザベス女王に説明した。

表向きは、日本の小さなメーカーブランドがイギリス女王のドレスを作成するドキュメンタリーだが、その実は番組を広く配信して、世界中の人間の反応を伺い、それに対処するというものだ。


女王は初め難色を示したが、双方で番組を作る、ということを条件に許可を得ることができた。


事実上、竜崎 赤斗とエリザベス女王の同盟関係が極秘に成立した。



昼食会は実に予定より三時間遅れで始まった。


席次は竜崎 赤斗とエリザベス女王が並んで座るという極めて異例なものとなり、マーガレットを除く王室関係者すべてを驚かした。


昼食会は終始和やかに進み、なんと女王自ら赤斗に酌をする場面があり、女王陛下が別人にとって替わったのではと考える者さえいた。


「ところで赤斗。貴方の従僕たちはなぜ忠誠を誓うようになったの?」いつの間にか女王はファーストネームで赤斗を呼んでいた。


「それは私があの仔たちを救ったからですよ。」

「救われた者はその恩を忘れず、いつか必ず返すものです。陛下、貴女は誰かを救ったことがありますか?」


「───!」

生まれながらに女王だったエリザベスは、そんなことを考えたことも無かった。

「陛下。真の臣下を持ちたければ、命を掛けてその者を救うのです。救い方はいろいろありまが、貴女がその気になりさえすれば容易に分かるはずです。」


エリザベス女王は目から鱗が落ちた気がした。

臣下の中に心から忠誠を尽くしてくれる者が一体何人いるだろう?

臣下のほとんどが『イギリス女王』に対して忠誠を誓っているのであって、エリザベスという私個人に対してではない。

生まれながらにして女王を約束されていた自分は、当然のように女王となった。そして臣下も当然のようにいた。だが、それらは用意された臣下であって、私自身の徳で臣下になった者たちではない。

そこが私とこの男の違いなのでしょうね・・・。


「私にも真の臣下を持つことが出来るかしら?」

女王は真摯に訊いた。


「持てますとも、私でさえ持てたのですから。僭越ながら、その為に私も協力しましょう。」

「ありがとう、赤斗。ぜひお願いするわ。」


「御心のままに、女王陛下。」


赤斗にそんなつもりはなかったが、どうやら女王の心を救ったようだった。




昼食会を終え、女王に再会を約束して、赤斗たち一行はバッキンガム宮殿を後にした。


後日マーガレットから聞いた話では、赤斗との会談後の女王の表情は、穏やかなそれに変わったという。

その話をしたときのマーガレットの表情もまた同じように穏やかでした、と律は赤斗に報告した。


本来の目的であるドレスの最終打ち合わせも一回で終わり、竜崎 赤斗率いる『R.U』は英国での日程を終え、日本に帰国するのであった。


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